基礎情報
2023/6/26 2024/4/29
ZEHの種類や基準、メリット・デメリット、補助金を解説!
省エネに向けたさまざまな取り組みが進む中、住宅メーカーや建築業界に勤務していてZEHに関連する部門の担当になった人もいるのではないでしょうか。
当記事ではZEHとは何か、その概要や仕様基準などの基礎知識を解説します。ZEH仕様ではない住宅と比較したメリット、デメリットや活用できる補助金に関しても説明するので、ぜひ参考にしてください。
ZEHとは消費電力をゼロに抑える住宅
ZEH(ゼッチ)とはNet Zero Energy Houseの略で、再生可能エネルギー等を活用して年間の一次エネルギーの消費量を実質ゼロに抑える住宅のことです。そのため、ZEHは国が目標とする2050年脱炭素(ゼロカーボン)化にむけた、住宅業界における「脱炭素化」といえます。
ZEHはエネルギーを創出するシステムや、省エネを図れる設備を導入する必要があります。ZEH化に必要な設備として「太陽光発電設備」「省エネ設備」「断熱設備」が挙げられます。
住宅のZEH化では、太陽光発電設備や省エネ性の高い給湯器を導入したり、断熱設備の導入によって冷暖房の消費電力を抑えたりします。ZEH化が進むことでの消費電力を抑え、CO2削減につながります。
ZEHの種類
「ZEH」の種類は数が多く、大きく戸建て住宅向けの「ZEH」と集合住宅向けの「ZEH-M」に分けられます。なお、ZEH-Mについては、後述する「集合住宅はZEHの定義が異なる」を確認してください。
ZEHは、エネルギー消費量の削減割合に応じて3種類に分類されます。いずれも建築物省エネ法で定められた住宅の省エネ基準から20%以上の一次エネルギー消費量の削減を満たす住宅が前提となっています。
【ZEHの種類と詳細】
種類 | 詳細 |
ZEH |
|
Nearly ZEH |
|
ZEH Oriented |
|
参照: 環境・省エネルギー計算センター「ZEHとは?取得のメリットやZEHの種類を紹介、補助金制度についても専門家が徹底解説 」
たとえば、年間消費エネルギー量を約100%以上削減できる住宅はZEHとして分類されます。ZEHの要件を満たすことが困難な地域やスペースの都合上太陽光発電を設置できない住宅はNearly ZEHやZEH Orientedを取得することになります。
年間消費エネルギー量を75%以上100%未満削減できる住宅はNearly ZEHとして分類されます。また、都市部の狭小地や多雪地域に建設され、省エネ基準から20%以上の一次エネルギー消費量削減を満たす住宅はZEH Orientedです。
なお、ZEHとNearly ZEHには上位モデルとして「ZEH+」「Nearly ZEH+」があります。ZEHとNearly ZEHを取得したうえで、更なる省エネを実現したい場合には検討してみてください。
ZEHの基準
ZEHの基準に関して、ZEHロードマップ検討委員会では、4つの定義を定めています。ZEHの定量的要件において対象となる一次エネルギー消費量は「暖冷房」「換気」「給湯」「照明」です。
【ZEHの基準】
種類 | 定量的要件 |
ZEH | 以下の①~④のすべてに適合した住宅 ① ZEH強化外皮基準(※1)を満たした上での外皮平均熱貫流率(UA値[W/㎡K]) 1・2地域(北海道):0.40以下 3地域(東北北部):0.50以下 4~7地域(東北南部~九州):0.60以下 ② 再生可能エネルギーを除く基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減 ③ 容量は問わず再生可能エネルギーを導入 ④ 再生可能エネルギーを加えて100%以上の一次エネルギー消費量削減 |
Nearly ZEH | 以下の①~④のすべてに適合した住宅 ① ZEH強化外皮基準(※)を満たした上での外皮平均熱貫流率(UA値[W/㎡K]) 1・2地域(北海道):0.40以下 3地域(東北北部):0.50以下 4~7地域(東北南部~九州):0.60以下 ② 再生可能エネルギーを除く基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減 ③ 再生可能エネルギー等を導入(容量不問) ④ 再生可能エネルギー等を加えて75%以上100%未満の一次エネルギー消費量削減 |
ZEH Oriented | 以下の①及び②のいずれにも適合した住宅 ① ZEH強化外皮基準を満たした上での外皮平均熱貫流率(UA値[W/㎡K]) 1・2地域(北海道):0.40以下 3地域(東北北部):0.50以下 4~7地域(東北南部~九州):0.60以下 ② 再生可能エネルギー等を除き、基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減 |
参照:経済産業省「ZEHの定義(改定版)」
(※1)1から8地域の平成28年省エネルギー基準(ηA値、気密・防露性能の確保等の留意事項)
たとえば、外皮性能には地域別に一定の基準を満たすものであることが求められています。外皮性能の基準に設定されている外皮平均熱貫流率(UA値)は住宅に出入りする熱量の値で、基準に設定されている数値には北海道と九州で0.2[W/㎡K]程度の差があります。
また、ZEHとNearly ZEHの基準は、外皮性能を満たしたうえで、再生可能エネルギーを除く基準一次エネルギー消費量から20%以上の一次エネルギー消費量を削減していることです。さらに再生可能エネルギーの導入によるエネルギーの消費量削減が求められます。
なお、ZEHの定量的な要件におけるエネルギー消費量は平成28年省エネ基準で定められている計算方法に従って計算しています。ZEHの定量的な要件における再生可能エネルギー量の対象は敷地内に限定し、自家消費分に加え売電分も対象に含めることも定められています。
集合住宅はZEHの定義が異なる
集合住宅は戸建て住宅のZEHと定義が異なります。高層マンションになるほど住戸数に対して太陽光パネルの設置が不足し、集合住宅全体のエネルギー消費量がなくなることを勘案して定義されました。
【集合住宅におけるZEHの定義】
種類 | 詳細 |
ZEH-M |
|
Nearly ZEH-M |
|
ZEH-M Ready |
|
ZEH-M Oriented |
|
参照:国土交通省「ZEHの普及促進に向けた政策動向と令和5年度の関連予算案」
集合住宅に定義されているZEH-M(ゼッチマンション)は4種類あり、エネルギー消費量の削減割合によって分類されます。ZEH-Mは、いずれも再生可能エネルギーを除く基準一次エネルギー消費量から20%以上一次エネルギー消費量を削減することが前提です。
集合住宅のZEH化に対応するためは、断熱性能が高い外壁や窓ガラス、高効率のエアコン、省エネ性の高い給湯器の導入によって給湯と冷暖房におけるエネルギー削減を図ります。さらに、各住戸に太陽光発電設備や燃料電池を設置することで電力の自給自足を叶えます。
なお、一般社団法人 環境共創イニシアチブによる「集合住宅におけるZEHの設計ガイドライン」が公開されています。集合住宅ZEHの設計などを検討している事業者は確認しておきましょう。
ZEHのメリットとデメリット
ZEHは、断熱と再生可能エネルギーによって消費電力をゼロに抑えられる住宅です。省エネルギー効果以外にも、ZEH仕様ではない住宅と比較した場合のメリットとデメリットがあります。
ZEHのメリット
ZEHは1年を通して省エネルギーを実現しながら快適に過ごせることも特徴です。省エネルギー設備や太陽光発電を導入しない住宅と比較した場合のメリットはおもに3つ挙げられます。
【ZEHのメリット】
- 光熱費を抑えられる
- 災害時の備えになる
- 断熱効果が期待できる
たとえば、ZEHでは太陽光発電システムや性能の高いサッシなどの導入によって、自家発電を行ったり断熱性能を高めたりできます。断熱性が高まるとエアコンを効率的に稼働させられるため、結果的に光熱費を抑えることが可能になります。
また、ZEHでは災害による停電などに備えられます。蓄電池や自家発電システムを導入しておけば、太陽光発電設備の電力を非常用に備えておいたり自給自足でのエネルギー供給が可能になったりします。
加えて、ZEHの特徴のひとつである断熱効果によって冬場のヒートショックのリスクを軽減できます。断熱効果の高い複層ガラスや樹脂サッシを導入し、建物の中の温度を適温に保つことで、部屋間の温度差も生じにくくなり、ヒートショックを防止します。
なお、東京都は、都内の住宅特性を考慮した「東京ゼロエミ住宅」を提案しています。東京ゼロエミ住宅を選択するメリットは、求める省エネ性能の水準が高く設定されているため、断熱性を確保しやすく、光熱費を削減できることです。
また、省エネ性能により、結露や建材の劣化も抑えられるので住宅が長持ちしやすい点も特徴です。東京ゼロエミ住宅については東京都環境局「東京ゼロエミ住宅とは?」をご確認ください。
ZEHのデメリット
ZEHは、省エネルギー設備や太陽光発電を導入しない住宅と比較した場合のデメリットはおもに3つ挙げられます。
【ZEHのデメリット】
- 初期コストがかかる
- 太陽光発電の定量化が難しい
- デザインが制約される場合がある
たとえば、ZEHに対応した家を建てる際に初期コストがかかります。初期コストがネックとなりZEH化を踏みとどまるケースもありますが、省エネルギーに対応していない住宅に住むより年間の光熱費を抑えられるため、初期コストは回収できる可能性があります。
また、太陽光発電は天候によって左右されるため、電力の定量化が難しいのもデメリットの1つです。悪天候や日照時間などをコントロールできず、電力を安定して得られない可能性があるからです。
なお、ZEHは断熱性能を高める都合上、吹き抜けや大きな窓を採用しにくい点がデメリットとなる場合もあります。住宅の設計にこだわりがある場合にはデザインを保ちながら気密性の高い住宅を作れるメーカーに相談することを検討してみてください。
ZEHに活用できる補助金制度
ZEHはその種類に応じて、国の補助金制度を活用できます。令和4年度には、環境省・経済産業省・国土交通省の連携によって補助金制度が実施され、ZEHは60万円、にはそれぞれ105万円の補助金が交付されました。
【令和5年度交付決定の補助金の種類】
補助金の種類 | 詳細 |
戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業 |
|
住宅省エネ2023
キャンペーン |
<事業名>こどもエコすまい支援事業 <補助対象> 令和4年4月1日時点で18歳未満の子を有する世帯 <補助内容>
|
<事業名>先進的窓リノベ事業 <補助対象>窓の断熱に関するリフォーム工事発注者 <補助内容>
|
|
<事業名>給湯省エネ事業 <補助対象>住宅の建築主および購入者、リフォーム工事発注者 <補助内容>
戸建住宅はいずれか2台まで、共同住宅等はいずれか1台まで |
ZEHとZEH+を対象とした補助事業には環境省の「戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業」があります。ZEHの要件を満たす戸建住宅は55万円、ZEH+の要件を満たす戸建住宅には100万円の定額補助が交付されます。
また、令和5年度は国土交通省・経済産業省・環境省による「住宅省エネ2023キャンペーン」が展開され、3つの補助事業が創設されました。住宅の新築や購入、リフォームにとどまらず、窓の断熱改修や高効率給湯器の導入も補助対象になっています。
なお、補助金制度は公募の年度ごと条件が変わる場合があります。補助金へ申請できる要件も異なる場合があるため、最新の公募要領を確認してから活用してください。
建築業者はZEHビルダー/プランナー制度の登録を検討する
ZEHの補助事業にはZEHビルダー/プランナー制度に登録された事業者の関与が必要になります。ハウスメーカー、工務店、建築設計事務所、リフォーム業者、建売住宅販売者は登録を検討してみてください。
ZEHビルダー/プランナー制度は、事業趣旨を理解し、定められた要件を満たすことで登録が可能です。登録時、建設会社は「ZEHビルダー」を、建築設計事務所は「ZEHプランナー」を選択します。
【ZEHビルダー/プランナー制度の登録要件】
要件 | 詳細 |
「普及目標」を設定する
|
2020年度のZEH建築実績に基づく目標設定
|
普及実績と普及目標の公表 | 自社ホームページでの以下の公表
|
参照:一般社団法人 環境共創イニシアチブ「ZEHビルダー/プランナー登録 (フェーズ2)」
また、ZEHビルダー/プランナーは、オーナーの代わりに補助制度の申請を行う手続代行者も兼務できます。ZEHビルダー/プランナーが手続代行者として行う業務は各補助事業の公募要領によって異なります。
まとめ
ZEHとは断熱と再生可能エネルギーによって消費電力をゼロに抑える住宅のことです。ZEHの基準を満たすためには、創出する電力が消費電力と同じか上回るような設備の導入が必要となります。
ZEHはエネルギー消費量の削減割合に応じて「ZEH」「Nearly ZEH」「ZEH Oriented」「ZEH+」「Nearly ZEH+」の5種類に分類されます。また、ZEHの定義として外皮性能の基準や年間エネルギー消費量や外皮性能の定量的な基準が設けられています。
ZEHにはそれぞれ省エネルギー設備や太陽光発電を導入しない住宅と比較した場合のデメリットがあります。デメリットのひとつである初期コストがかかる点に関しては、ZEHの種類に応じた国の補助金制度を活用することを検討してみてください。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
本ウェブサイトを利用される方は、必ず下記に規定する免責事項をご確認ください。
本サイトご利用の場合には、本免責事項に同意されたものとみなさせていただきます。当社は、当サイトに情報を掲載するにあたり、その内容につき細心の注意を払っておりますが、情報の内容が正確であるかどうか、最新のものであるかどうか、安全なものであるか等について保証をするものではなく、何らの責任を負うものではありません。
また、当サイト並びに当サイトからのリンク等で移動したサイトのご利用により、万一、ご利用者様に何らかの不都合や損害が発生したとしても、当社は何らの責任を負うものではありません。