基礎情報
2024/12/17 2024/12/20
環境配慮設計とは?脱炭素社会に向けた事例を紹介
大量廃棄の経済社会から脱却するための循環型社会の実現に向けて、環境への影響について考慮された設計の環境配慮設計は欠かせません。この循環型社会の実現の一環として、廃棄物や河川・土壌への排出物等の削減に向けて、建設業界をはじめとする多くの企業では環境配慮設計に関する規格に則った製品開発が進められています。
本記事では、脱炭素社会に向けた環境配慮設計の具体的な取り組みや、環境配慮設計に関連する企画の概要と適用例について詳しく解説します。
環境配慮設計とは?
環境配慮設計とは、製品のライフサイクルの過程において環境への影響を考慮した設計のことです。これらはDfE(Design for Environment)、環境適合設計やエコデザインとも呼ばれます。
製品のライフサイクルとは、資源・生産・流通・使用・再資源化・処分のことを指します。これら一連の過程において、再使用や再利用ができるよう対策を施すことで、環境配慮設計を満たした製品の創出が可能となります。
環境配慮設計の目的
製品のライフサイクル段階別に、それぞれ環境配慮設計の目的が存在します。以下にライフサイクルの各段階と環境配慮設計の目的を表にまとめました。
ライフサイクル段階 | 環境配慮設計の目的 |
資源 |
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生産 |
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流通 |
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使用 |
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再資源化 |
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処分 |
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参照:環境配慮設計(DfE)の取り組みについて(平成29年12月4日)
上記の環境配慮設計の目的を組み込んで開発を行うことで、再資源化が容易になるだけでなく、製品の使用性や再利用・リサイクル時のユーザビリティが向上するなどのメリットもあります。
従来の設計との違い
各業界では、これまで、省エネや安全配慮の観点からガイドラインを作成するなどの取り組みをおこなってきました。しかし、資源有効利用促進法によって、業種などが具体的になり、3R(リデュース、リユース、リサイクル)への配慮が求められるようになりました。
また、従来設計との差別化を図る点において、ライフサイクルアセスメント(LCA :Life Cycle Assesment)の強化により、環境負荷を包括的に把握することができます。
環境配慮設計の例
環境配慮設計は省エネ設計や再生可能エネルギーの利用などに採択された事例が多くあります。ここでは、環境配慮設計が取り入れられた事例について詳細に解説いたします。
省エネルギー設計
省エネルギー設計とは、製品の設計段階からエネルギーの消費量を削減することをいいます。エネルギーの消費量を削減することで、CO2削減に繋がり、環境配慮設計に該当します。省エネルギー設計を証明する制度としては、「省エネラベリング制度(2000年8月〜)」や「統一省エネラベル(2006年10月〜)」があります。
省エネラベリング制度は、消費者が商品を選ぶ際の省エネ性能を比較するため、JISに基づきカタログなどを通じて、省エネ基準達成率などの情報を提供します。また、統一省エネラベルは、「多段階評価点」「目安年間エネルギー使用料金」「省エネルギーラベル」を組み合わせた内容が表示されているラベルです。引用:家電製品の環境配慮設計とは | 環境配慮設計|一般財団法人 家電製品協会
これらは、家電量販店などの店頭において展示されているエアコンや冷蔵庫、テレビなどの家電製品の本体、またはその付近に掲載されています。省エネ製品の開発や普及を目的として作られたこの省エネラベリング制度が要因の一つとなり、家電メーカーでは年々消費電力の省エネ化が進んでいます。
下記は、各家電製品の消費電力の削減を示した表です。
家電製品 | 2009年製 | 2019年製 |
冷蔵庫(401〜450L) | 490〜550kWh | 293kWh |
エアコン(2.8kWクラス) | 978kWh | 811kWh |
テレビ | 81kWh | 57kWh |
参照:家電製品の環境配慮設計とは | 環境配慮設計|一般財団法人 家電製品協会
特に、冷蔵庫の年間消費電力量は10年で半減しており、統一省エネラベル制度などの環境配慮設計を意識した結果であることが考えられます。
再生可能エネルギーの利用
太陽光発電・風力発電・水力発電・地熱発電・バイオマス発電などの再生可能エネルギーを用いた環境配慮設計の人気製品も、近年高まりを見せています。エネルギー自給率が顕著に低い国内においては、完全国産の再生可能エネルギーを使用した製品は、社会的に大きな役割を持っています。
再生可能エネルギーを利用した環境配慮設計の最も有名な製品としては、給湯器「エコキュート」が挙げられます。エコキュートは大気中の熱を上手く利用して熱湯を作り出しています。大気は太陽光により暖められているので、大気中の熱の利用は再生可能エネルギーの利用と言えます。
エコキュートという名称は、日本の電力会社や給湯器 メーカーが使用している愛称です。エコロジーの「エコ」と、給湯をもじった「キュート」を組み合わせて ネーミングされています。
エコキュートは、光熱費が安くなる・オール電化にしたい・火の気がなく安心などの理由から、特に新築時に購入されるユーザーが一般的です。以下の2019年の調査結果では、戸建住宅の24.4%、集合住宅の3%、全体で14.8%の世帯においてエコキュートが普及しています。引用:エコキュートのメリット | 一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センター
またエコキュートは、給湯エネルギー消費量を約28%削減でき高い省エネ性能を持ち合わせており、再生可能エネルギーを利用した環境配慮設計の代表例と言えます。
持続可能な材料の使用
環境配慮設計を行う際に選択される持続可能な材料としては、自然環境に配慮し環境負荷の少ない素材であるサステナブル素材が挙げられます。サステナブル素材には、天然素材やリサイクル素材などがあり、商品の普及が進むことでより地球環境へ貢献できます。
ここでは、環境配慮設計の一環としてサステナブル素材を使用したシリーズ展開を行っているアパレル企業2社をご紹介いたします。
1社目は、100%再利用のダウンジャケット「リサイクルダウンジャケット」を販売しているユニクロの事例です。再利用されているダウンとフェザーは、店舗で回収したダウン商品から再利用されており、一連の取り組みで生産時のCO2排出量を約20%削減することに成功しています。
2社目は、海洋プラスチックゴミを用いたスニーカーを展開しているadidasの事例です。adidasは、海洋環境保護団体である「PARLEY FOR THE OCEANS」 と連携しています。今回、本団体と共に「PRIMEBLUE」と呼ばれるリサイクル素材シリーズの展開を始めました。
このシリーズでは、海岸や離島、海に近い地域で回収した、海洋に流出する前のプラスチック廃棄物を回収し、アイテム全体の40%以上にこれらリサイクル素材を使用しています。この他、エコロジカルな羊のウールやユーカリの繊維などを用いたシューズ展開が話題のブランド「Allbirds」と連携し、軽量のサステナブルランニングスニーカーを販売しています。
PRIMEBLUE製品のライフサイクル全てにおいて、CO2排出量削減が達成可能となるよう設計されており、素材にはサトウキビ由来の素材を融合させたバイオ素材や天然ラバー、リサイクル可能なポリエステル等が使われています。
衣類繊維などを扱うアパレル業界は環境汚染の問題が深刻で、国連貿易開発会議(UNCTAD)の調査では、世界第2位の環境汚染業界に指定されています。
このため、上記業界で引き起こされている環境問題解決のため、早期の対策が望まれています。
水資源の管理
商品のライフサイクルにおいて、使用された水の量を示す指標として 「ウォーターフットプリント」があります。この指標は、環境配慮設計や水資源の管理を行う上で欠かせません。
ウォーターフットプリントとは、商品や製品が生産から廃棄されるまでの、一連の流れで消費される水の量を図る概念のことをいいます。水の使用方法と水源によってウォーターフットプリントは以下の3種類に分類されています。
- グリーンウォーター:雨水から作物に取り込まれた量
- ブルーフォーター:河川や地下水を消費した量
- グレーウォーター:汚染した水を特定の水質に戻すのに使用される水の量
そのため、グリーンウォーターは主に農作物や森林剤、ブルーウォーターは商品を製造する過程で使用される水、グレーウォーターは汚染処理に使用される水です。
廃棄物の最小化とリサイクル
廃棄物の最小化やリサイクルに貢献する環境配慮設計を行った商品を展開している事例としては、2019年にアメリカとフランスでサービスを開始した再利用容器提供サービス「Loop」が挙げられます。
Loopは、再利用可能な容器を用いてネットショップや 小売店で販売を行い、使用後に容器を回収・洗浄・再充填した後、再販売することで、廃棄物を減少させる仕組みです。
日本で古くからある牛乳配達などと似ています。一方で、これらの新事業には、アース製薬、味の素、エステー、キヤノン、P&Gジャパン、ロッテ、フィッツコーポレーションなどの企業が参画を表明しています。また、都内イオンの17店舗においても、同サービスの導入が進んでいます。
なお、経済産業省が策定した環境配慮設計のガイドラインでは、以下項目において、廃棄物がどれ位最小化できるかや、どれ位リサイクルしやすい製品かを、一定の基準に基づいて評価できるようになっています。
- 5:廃棄物の抑制
- 9:リペアリユースサービスの活用
- 10:易リサイクル設計
- 11:繊維製品のリサイクル
項目内の評価基準をさらに詳しく見てみると、以下の記載もあります。
- 廃棄物の発生を抑制する取り組みをしているか
- 使用者が製品を持ち込みやすい方法になっているか
- リペアしやすい商品設計となっているか
- 部品パーツの共有化が図られているか
- 再生資源をどのくらい使用しているか(品質基準はあるか・品質は確保されているか)
これらの内容を盛り込んだ、廃棄物に関する環境配慮設計の規格化が今後検討されています。
JISで環境配慮を求めている規格は?
ここでは、JISが環境配慮で求めている規格について解説します。
JISの概要と役割
JISは、製品の安全性や環境性能が満たされているかどうかを判断する日本規格協会(JSA)が定めた規格です。主に、製品やサービスなどを標準化させる役割を持ちます。たとえば、トイレットペーパーはほとんどの商品がご自宅のトイレのサイズに合うように設計されています。これは、サイズを日本のJIS規格で標準化しているからです。安心・安全に使用できる消費者保護の観点以外にも、リサイクルや省エネなど環境を保護する役割も担います。
主要な環境配慮規格の一覧
以下の表に環境配慮設計に関する主要なJIS規格をまとめました。
規格番号 | 規格名称 | 制定年月日 |
JISC9914 | オーディオ,ビデオ,情報及び通信技術機器-環境配慮設計 | 2010年 |
JISC62125 | 電力用及び制御用ケーブルの環境配慮に関する指針 | 2022年 |
JISC9911 | 電気・電子機器の資源再利用指標などの算定及び表示の方法 | 2007年 |
JISQ62430 | 環境配慮設計-原則,要求事項及び手引 | 2022年 |
JISZ0130-1 | 包装の環境配慮-第1部:一般的要求事項 | 2015年 |
JISZ0130-2 | 包装の環境配慮-第2部:包装システムの最適化 | 2015年 |
JISZ0130-3 | 包装の環境配慮-第3部:リユース | 2015年 |
JISZ0130-4 | 包装の環境配慮-第4部:マテリアルリサイクル | 2015年 |
JISZ0130-5 | 包装の環境配慮-第5部:エネルギー回収 | 2015年 |
JISZ0130-6 | 包装の環境配慮-第6部:有機的リサイクル | 2015年 |
環境配慮設計に該当するJIS規格としては、上記の9件が挙げられます。環境配慮に関するJIS規格は、比較的近年に制定されたものが多く、現段階では多くありません。このため、将来的には上記の規格に加えて、環境配慮設計に関する規格が増えていくことが予想されます。
具体的な規格内容と要件
ここでは、2022年に経済産業大臣が制定した日本産業規格である JISQ62430「環境配慮設計-原則,要求事項及び手引」について説明します。
本規格は、2019年に制定された国際電気標準会議のIEC62430に対応した規格です。いずれも電子製品のみならず、あらゆるサービス設計やマネジメントシステムにおける事項を含んでいることが特徴です。電気・電子製品およびシステムから、サービスを含む全ての製品に適用範囲が広がり、様々な業種の連携協力が活発となりました。
また、2007年に制定された、冷蔵庫や液晶テレビなどの家電製品におけるJIS規格(JIS C 9911、JIS C 9912)では、以下の表の通り解体性向上のためのマーク表示を行うことや、プラスチックなどの再生材使用含有率と難燃剤不使用の記号について表記することなどを定めています。
JIS C 9911 | JIS C 9912 | |
項目 | 電気・電子機器の資源再利用指標等の算定及び表示の方法 | 電気・電子機器のプラスチック部品の識別及び表示 |
適用範囲 |
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想定される当該JIS利用者 |
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内容 | 家電製品メーカー自らが資源循環利用をコントロールした再生材料投入率の指標 |
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目的 | ステークホルダーによる判断 評価 | リサイクラーにおける分別作業効率向上 |
表示例 |
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想定される情報表示の媒体 |
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製品/部品などの本体 |
引用:家電分野における環境配慮設計への取り組み(2007年4月5日)- 家電製品協会
それぞれの項目に則って製品開発を行うことで、年間消費電力量の削減や基盤・発泡スチロールの軽量化、分解時間の短縮、リサイクル可能率の向上などが見込めます。
環境配慮設計の規格への適用例
環境配慮設計の最も有名な適用例としては、1989年に制定が行われた「エコマーク制度(JIS Q14024)」 が挙げられます。
エコマークは、ライフサイクル全体で環境への負荷が少ないと認められた製品・サービスの目印です。購入者は、マークの有無で環境配慮設計の商品であるかどうかを判断できるため、分かりやすくとても便利です。
まとめ
ここまで環境配慮設計の概要や導入の背景や経緯、具体的な規格への適用例について解説いたしました。環境配慮設計が適用された規格を採択することにより、環境に配慮した製品開発が可能になります。
2020年代以降はさらなる循環型社会の実現を目指し、多くの企業が環境に対する取り組みを強化することが予想されます。このため、建設業界にとって環境配慮設計を行った商品の開発は、近々の課題となっています。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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