業界事例
2023/6/26 2024/9/25
大成建設株式会社の環境経営の秘密:脱炭素社会に向けた取り組みとサステナビリティ戦略 #01(前編)
■はじめに
日本が2020年に脱炭素社会実現の宣言を行った以降、国内での脱炭素への取り組みが加速しています。この動きは建設業界においても例外ではありません。建設に関わる製造から消費まですべてのプロセス、いわゆるサプライチェーン全体でのCO2排出量の削減が求められています。
この課題において大成建設株式会社(以下、大成建設)は先駆的な存在として注目されています。大成建設では、宣言以前から環境問題を重要なサステナビリティ課題と捉え、10年以上環境経営を積極的に推進しています。事業活動と並行して環境経営をうまく継続してきた秘訣はどこにあるのでしょうか。
大成建設のサステナビリティ総本部サステナビリティ経営推進本部でカーボンニュートラル推進部長を務める御器谷良一(ごきたに よしかず)氏に話を伺いました。
■これまでの環境経営の取り組みについて
<大成建設の環境経営の取り組み年表>
大成建設は1996年に環境方針を制定。2011年には、施工段階におけるCO2排出量削減活動「CO2ゼロアクション」を開始しました。以降、全作業所での冷暖房温度の抑制やアイドリングストップなどのCO2排出量削減活動は、同社の基本的な取り組みとして定着しています。また2018年には、これらの取り組みに加えて、全社員参加型の「TSA:TAISEI Sustainable Action®」という環境負荷低減活動を開始しました。
TSAでは「TSAアクションリスト」を作成し、現場で取り組みやすい活動や脱炭素化に効果的な技術などを具体的にリスト化。さらに2020年には、CO2ゼロアクションやアクションリストにおける活動の状況を定量評価できる「TSAポイントシステム」を導入。従業員の日々の取り組みをポイントによって可視化できるようにしています。
また、大成建設はTSAの普及促進のため、四半期ごとに「TSA通信」を全役職員に配信しています。TSAに関連する情報や最新の取り組み事例を紹介することで、従業員の関心・モチベーション向上に努めています。
<大成建設のグループ長期環境目標-TAISEI GreenTarget2050->
大成建設グループは「人がいきいきとする環境を創造する」という理念のもと、以下3つの社会の実現と2つの個別課題の解決に向けた取組目標を掲げています。脱炭素社会については、2050年までに自社の事業活動ならびにサプライチェーン全体を含めたCO2排出量をゼロにすることを目指しています。
出典:大成建設株式会社「2050年カーボンニュートラルへの取り組み」
「TAISEI Green Target 2050(2023年度版)」
■環境への取り組みは、地道な啓蒙活動から開始
―大成建設では10年以上にわたり環境経営に取り組まれています。まずは、本格的に環境問題に取り組むことになった背景を教えてください。
背景にあるのは、2009年に打ち出された「日本国としてCO2排出量を2020年までに1990年比で25%削減する」という環境政策です。
CO2削減が求められる社会動向がある中、当社では「施工段階のCO2を2020年までに1990年比で40%削減する」という目標を策定して取り組みを開始しました。現在は削減目標を社会の要求に合わせて適宜改定しながら、継続的に取り組みを行っています。
―環境対策を行うにあたり、当初はどのような活動から始められたのでしょうか。
まず、全社で横断的に環境対策に取り組む環境本部を立ち上げました。
そこでCO2削減の基本的活動「CO2ゼロアクション」を作り、全作業所への啓蒙活動を開始。照明のこまめな消灯や冷暖房温度の抑制といったCO2ゼロアクションを啓蒙するため、ポスターや標語を作って各現場に貼り出したり、メールで継続的に働きかけたり。代表的な現場には直接出向き、個別の説明会や勉強会をすることもありました。
地道な啓蒙活動からのスタートでしたね。
―当時の「CO2ゼロアクション」に加え、現在ではより進化した取り組みとして「TSA:TAISEI Sustainable Action®」も開始されているとか。どちらも従業員を対象とした活動ですが、従業員環境マインドはどう育んでこられたのでしょうか。
「CO2を削減しましょう」と言って、明日から全従業員がそのとおりに動いてくれるわけではありません。特に現場で働く従業員は、具体的に何をどうすべきかピンときていないことが多い。また、新しい取り組みには必ず手間がかかるものですから、一人一人の従業員が理解し、納得できる形で取り組んでもらうことが大切です。
そのためには、「こういう活動をすれば、これだけCO2を減らせますよ」と地道に伝え続けるしかありません。そうやって啓蒙を継続してきた結果と合わせて、近年の社会動向が後押しして、ようやく従業員の中で環境に対する意識が醸成されてきたところです。
■継続する鍵は、取り組みの内容や進捗、成果の見える化
―実際に取り組みを始めてから気づいた課題はありましたか?
会社も現場も、取り組み内容の進捗や成果、疑問などが双方見えにくい状況にあることに気づきました。
会社としては、各作業所、現場の取り組み状況を把握しづらい。一方で現場では、自分たちの行動の成果が把握しづらく、疑問についてどこに聞けばいいかがよくわからない状況でした。当社には環境対策の問合せを受ける専門部署がありますが、立ち上げ当初は専門部署の存在すら社内でほとんど認知されておらず、現場の声を拾い切れていなかったと思います。
―課題に対して、どう対策されたのでしょうか?
CO2ゼロアクションの実施によって生じた課題を解決するべく行った取り組みが、2018年から始めたTSAです。TSAでは、環境負荷低減活動の啓蒙に加えて活動を促進するツールやシステムを開発しました。たとえばTSAアクションリストでは、CO2削減に繋がる行動や効果的な技術を100項目以上リストアップ。写真やイメージを多用し、リストをわかりやすくビジュアル化しました。さらに、活動の取り組み状況や成果についてはTSAポイントシートを導入して見える化。各現場の取り組み状況をポイント制にして把握できるようにしました。TSAポイントの状況は現場の支店同士でも確認できるため、良い意味で支店同士の向上意識を駆り立てたいという狙いもあります。
また、長く啓蒙活動を実施してきたことで問合せを受ける専門部署の存在が認知され、受付体制をしっかり構築できるようになったことも、間接的に課題対策になったと思います。
―TSAのツールやシステムの導入、問合せ体制の構築といった対策によって、従業員の意識に変化はありましたか?
「もっと効率的に取り組む方法はないの?」「一番CO2削減に効果的な方法は?」という、前向きな相談や問合せが増えましたね。取り組みたい意識はあるものの、その先の進め方がよくわからずにモヤモヤとしている従業員は意外と多いのだと、改めて実感しました。
■CO2排出量削減には従業員の協力が不可欠。ひとりひとりの声を拾う問合せ窓口を作ろう
―取り組みを行うにあたり、問合せ窓口は重要ですか?
窓口を明確にすることは、一番重要だと思います。
環境対策の一番のターゲットは従業員。特に建設業界は、現場も含めて全従業員が一致団結しなければ、CO2排出量を大幅に削減することはできません。だからこそ一人一人の声をしっかり拾い上げ、取り組みについて継続的に伝えることで、従業員の理解と行動変容を促していく必要があります。問合せや相談の受け皿を作って対応することは、どのような規模形態の会社でも取り組みやすいので、ぜひやってみてほしいですね。
大成建設株式会社 サステナビリティ総本部/サステナビリティ経営推進本部 カーボンニュートラル推進部長 御器谷良一(ごきたに よしかず)氏
|
前編では、環境経営の取り組みや具体的な課題解決方法、さらにCO2排出量削減には従業員の協力が必要不可欠であること、その意識改革で重要なポイントの1つめとして「ひとりひとりの声を拾う窓口の明確化」についてお伺いしました。
続く後編では、意識改革で重要なポイントの2つめ「継続的に声をかけ続けること」を伺います。さらに、注力されている革新技術の開発やスコープ3に対する考え、業界全体の意識の変化や関連企業の動向などを深堀していきます、お楽しみに!
後編はこちら:大成建設株式会社の環境経営の秘密:脱炭素社会に向けた取り組みとサステナビリティ戦略 #02(後編)
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
本ウェブサイトを利用される方は、必ず下記に規定する免責事項をご確認ください。
本サイトご利用の場合には、本免責事項に同意されたものとみなさせていただきます。当社は、当サイトに情報を掲載するにあたり、その内容につき細心の注意を払っておりますが、情報の内容が正確であるかどうか、最新のものであるかどうか、安全なものであるか等について保証をするものではなく、何らの責任を負うものではありません。
また、当サイト並びに当サイトからのリンク等で移動したサイトのご利用により、万一、ご利用者様に何らかの不都合や損害が発生したとしても、当社は何らの責任を負うものではありません。