業界事例
2024/6/10 2024/9/25
「木」のある街づくりで脱炭素化実現を目指す 東急建設の木造・木質建築への取り組み(後編)
前編では、脱炭素を掲げた「VISION2030」の概要、木造建築へのこだわり、木造・木質建築ブランド「モクタス」立ち上げの背景などについてお話しいただきました。
後編では、「モクタス」の詳細、木造建築を取り巻く現況、CO2排出量削減への取り組み、今後の展望などについてお聞きしていきます。
新技術で標準化・規格化を推進
「ki-cocochi ― 木心地のよい都市を創る。」をブランドビジョンとして掲げる東急建設の中大規模木造・木質建築ブランド「モクタス」。住宅以外の分野での木造・木質建築を後押しするのが、さまざまな新技術の開発です。木造建築においても、建物の規模、用途、地域により防耐火性能が求められます。まず最初に、低層中規模木造建築で求められるであろう準耐火技術として2020年に「モクタスWOOD(準耐火)」柱、梁(準耐火構造 国土交通大臣認定取得、特許取得)を開発しました。一般的に準耐火性能を確保するためには木質荷重支持部材を石膏ボードなどの不燃材で被覆する方法(メンブレン型)や荷重支持部材の必要断面より大きな断面の部材を使用し荷重支持部材の周りに必要な燃え代層を設ける(燃えしろ設計)方法があります。メンブレン型では被覆してしまうため、木の温もりが損なわれます。燃えしろ設計では断面が大きくなりコスト、納期がかかるなどのデメリットがあります。「モクタスWOOD(準耐火)」は木質荷重支持部材に後張り可能な燃えしろとして木質被覆材を張ることで「木現し」を実現し納期短縮とコストダウンも実現しました。また、2021年には、木質耐火部材のパイオニア企業「シェルター」とOEM契約を締結し、日本で初めて3時間耐火の認定を取得した木質耐火部材「モクタスWOOD」がラインアップされました。
技術開発の他にも構法の開発にも取り組んでいます。(株)市浦ハウジング&プランニングを代表とする「P&UA構法共同技術開発グループ」に参画し、2022年に10階建て共同住宅のモデルプランで(一財)日本建築センターの評定を取得しました。この構法は、一方向ラーメン構造と耐力壁を木造で架構しており、新たに開発した「GIUA」と「シアリングコッター耐力壁」を用いることで、高耐力・高剛性・高靭性を実現しています。
「このような高層建築も含め、非住宅木造では、標準化、規格化が大きなポイントになると思います。また、できるだけ工場で製作し、品質の確保および生産性の向上を図る。現場作業を単純化し作業時間の短縮を図ることは安全の確保と生産性の向上につながり、これからの労働時間の制約や、人手不足を解消するうえで不可欠だと思います。」(大給氏)
モクタスWOOD(準耐火 )の構造
出典:東急建設Webサイト
モクタスWOOD
3時間耐火する木質耐火部材。「燃え止まり層」に石こうボードを使用するのが特徴。
出典:東急建設Webサイト
P&UA構法
P&UA構法 架構全体図
出典:東急建設Webサイト
建築事業本部 事業統括部 木造推進部 部長
大給 乘禎 氏
ゼネコンならではの総合力
ゼネコンとして木造・木質建築を手がける意義について、大給氏は「我々も、都市に“木”を足す、と言っているように、一つひとつの建物だけでなく、都市という空間の中でいかに木造を取り入れていくか、コストを抑えながらもどんなことができるかという提案をしていきたいと思います」と語ります。「たとえば、全部木造でなくても、大きなビルの一部に、木を取り入れる。純木造にとらわれず適材適所で木材を使い、構造合理性および経済合理性を係る観点からS造やRC造と組み合わせられるのもゼネコンとして強みだと思います」
建築物を発注する側にも、CO2排出量の少ない工法を選択する意識が高まる中、木造建築に対するニーズは高まりを見せているようです。
「CO2削減に貢献できるという部分は、木造・木質建築を推進する上で大きな部分だと思います。さらに、使われることによって『やっぱり木はいいよね』と体感して気づいていただくことで、木造が一層広まっていく足がかりにもなるのではないでしょうか。
オフィスビルや店舗など、いろんな方々が集まる場所に木を取り入れることで使った評判が広まったという話も聞いていますし、テナントさんが入るスピード感が全然違うという話もあります。しかし、 脱炭素社会への取り組みとしては建物を木造化するだけでは不十分だと考えています。当社のブランドメッセージ『「建てる」を超え、未来を生み出す。』を掲げ、3つの提供価値 の1つである脱炭素への取り組みとして、ZEB※1、ZEH-M※2を持続可能な社会を実現するための一つの柱と捉え、ZEBおよびZEH-Mの普及に努めています。このように木造建築とZEB、ZEH-Mの両面によりカーボンニュートラル実現のための提案ができることもゼネコンならではの総合力だと考えます」(大給氏)
東急池上線 池上駅
出典:東急建設Webサイト
※1:Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼ぶ。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。
※2:Net Zero Energy House Mansionの略称で、ZEHは戸建・マンションの住戸を対象とし、ZEH-Mはマンションの住棟のみを対象とする。
街に新しい価値をもたらす
「VISION2030においては、他にも脱炭素へ向けたさまざまな取り組みが設定されています。Scope1、2については、再生可能エネルギー電力の使用や、重機に用いる低炭素燃料の導入、Scope3については工事の発注元に対して、環境負荷の少ない資機材の提案を積極的に進めています」(梅田氏)
安全環境本部 環境部長
梅田 直樹 氏
「ただ発注を受けて建物を作るだけの会社だったら、東急建設である必要がない」と榊原氏は言います。「多摩田園都市の開発として、沿線の山を切り開いて街を作るところからスタートした会社なので、グループ全体で、それぞれの街に新しい価値をどうやってもたらしていくかという部分を一番大事にしなければならないと思っています。気候変動リスクに対応し、環境負荷をどう低減するか。ただ言われたものを作っていればいい会社ではないですし、我々はこういう価値が提供できるのだと言える会社でありたいと考えています」
価値創造推進室 サステナビリティ推進部 部長
榊原 将 氏
価値創造推進室 サステナビリティ推進部 部長 建築事業本部 事業統括部 木造推進部長 安全環境本部 環境部長 |
終わりに
これまでに20,000戸以上の木造住宅を手掛けてきたという東急建設。ゼネコンでありながら木造建築への強いこだわりの根底には、住宅を作り、街を作ってきたという原点への思いがあるようです。都市に関わるからこそ、環境負荷をいかに減らすか、そこに暮らす人にサステナブルな空間をいかに提供するかという課題意識が生まれてくるのでしょう。
「VISION2030」の冒頭には「誰がみても100%大丈夫だという事業なら何も東急がやらなくてもよろしい」という五島昇東急建設初代社長の言葉があります。困難な課題だからこそ挑戦する。そういう姿勢は、CO2排出量削減という大きな課題に取り組む上でも求められているのではないでしょうか。
※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年3月)のものです。
前編はこちら:
「木」のある街づくりで脱炭素化実現を目指す
東急建設の木造・木質建築への取り組み(前編)
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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