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総合インフラサービス企業を掲げるインフロニア・ホールディングス 脱炭素に向け、グループ会社が生み出すシナジー効果とは(前編)

脱炭素インタビュー インフロニア・ホールディングス(前編)

はじめに

インフロニア・ホールディングスは、前田建設、前田道路、前田製作所の共同持株会社として2021年10月に設立されました。2024年1月31日には日本風力開発が加わり、主要事業会社4社でグループを構成しています。
ホールディングス化したことで、カーボンニュートラルに向けた取り組みにどんな効果をもたらしたのか。経営戦略部サステナビリティ推進室長の岡崎充浩氏に、各事業会社の施策を交えながらお話しいただきました。

上流から下流までワンストップで

インフロニア・ホールディングスが標榜する「総合インフラサービス企業」。岡崎氏は「インフラに関わるあらゆる分野において、上流から下流までワンストップでサービスを提供できる会社」と説明します。「通常の建設会社ですと、施工を中心とした建設事業が仕事の大半を占めますが、総合インフラサービス企業は、上流における企画提案や投資、下流にあたる運営・維持管理までを一気通貫で手がけるビジネスモデルです」

インフラ ライフサイクル
インフロニア・ホールディングス統合報告書2023
ビジネスモデルより抜粋 一気通貫モデル
インフロニア提供

各社の事業内容を見ていくと、前田建設は建築土木の請負事業、公共施設の運営権を得て事業を行うコンセッション、再生可能エネルギー事業などのインフラ運営事業を中心に展開。前田道路は道路舗装の工事が主な事業であり、舗装の際に使用するアスファルト合材の製造、販売も手がけています。前田製作所は、長野に拠点を置く建設機械の製造販売会社であり、外観がカニに似ているクレーンで、ミニカーにもなっている『かにクレーン』が有名です。日本風力開発は、風力発電所の開発や発電所からの売電などが主な事業です。クレーンかにクレーンリチウムイオンバッテリー搭載リチウムイオンバッテリー搭載 かにクレーン(MC285CB-3)
インフロニア提供

「総合インフラサービス企業」というめざす姿は、ホールディングス化前の前田建設において始まりました。岡崎氏は「前田建設単体では土木建築が中心分野でしたが、道路舗装や建設機械、風力発電の会社が一体となることで、総合インフラサービスという特徴がより強固になりました」と、上流から下流まで一気通貫でサービスを展開できる点を強みとして挙げます。「やはり施工を中心とした建設事業だけですと、対発注者、例えばデベロッパーやメーカーとの関係しか築けず、新たな収益がなかなか生まれづらいですし、私たちも請け負ったものをそのまま作るというのが基本になります。しかし、企画提案や投資の分野にも力を入れることで更なる利益の源泉を生み出していくことができます。下流の方でもオペレーションやメンテナンス、例えば道路のコンセッションなどを担うことで、請負以外の一般消費者を対象としたサービスを展開でき、収益を多様化できるというメリットがあります」

ホールディングス化によるシナジー効果

カーボンニュートラルへの取り組みも、各事業会社の施策に加え、ホールディングス化したことによるシナジー効果が生まれているといいます。ホールディングス全体としては、2050年のカーボンニュートラル実現を目標として、2018年度CO2排出量を基準に、2030年にマイナス40%達成を目指しています。

GHG排出スコープ

インフロニア GHG排出量スコープ1+2の実績と目標
インフロニア提供

「各事業会社それぞれで施策を進めていますが、一番CO2排出量が多いのが前田道路。アスファルト合材は、高い温度で骨材を加熱させながら製造するので、どうしても通常の製造方法ですと燃料を大量に使用するためCO2の排出量も大きくなります」そこで、同社が開発したのが、フォームドアスファルト混合物「LEAB(レアブ)」です。製造温度を最大で約30度下げることができ、製造時のCO2排出量の削減につながります。さらにアスファルト合材の製造時に使用する燃料にバイオ重油を採用しています。「広島にバイオ重油を生産する会社を作り、そこで製造を始めたところです。自社工場で使うだけでなく、将来的には、他の産業に販売するなど社外への展開も視野に入れています」(岡崎氏)

経営戦略部 サステナビリティ推進室長 岡崎 充浩

経営戦略部 サステナビリティ推進室長 岡崎 充浩 氏

前田建設では、建設した建物が将来にわたって排出するCO2をいかに減らすかが課題だといいます。「いま力を入れているのがZEB※1です。特に我々はW ZEB(ダブル・ゼブ)と言って、新築はもちろん、改修工事でもZEB化を提案できるよう、自社建物で施工実績を積み上げるなどしてデータやノウハウを蓄積しています」(岡崎氏)
前田製作所では、かにクレーンをはじめとした建設機械の電動化にも取り組んでいます。「一部の製品では既に電動化を実現して出荷もしていますが、今後、よりラインナップを拡充させていき、特にニーズが多いと言われる欧州を中心に販売網を広げていきたいと考えています」

施工事例(東京国際空港C滑走路中央部舗装改良工事)

施工性改善型アスファルト混合物「LEAB」施工事例(東京国際空港C滑走路中央部舗装改良工事)
インフロニア提供

日本バイオフューエル(株) 世羅工場(広島県)

バイオ重油を生産する日本バイオフューエル(株) 世羅工場(広島県)
インフロニア提供

※1:Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼ぶ。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。

新たなアイデアは異なる業態の掛け合わせから

こうした各事業会社の取り組みが進むなか、ホールディングス化したことでどのような効果が生まれたのでしょうか。岡崎氏は「例えば、前田道路のLEABを前田建設が施工する現場で使ったり、前田建設が受注していない工事であっても、お客様に対してLEABの利用を前田建設から働きかけたりするといった動きが出てきています。そうすると、前田道路としてはLEABの出荷量が増えればCO2排出量は減っていきますし、お客様のScope3のCO2排出量削減にもつながっていく。そういうシナジーが生まれてきています」と説明します。
「業態が事業会社ごとにそれぞれ少しずつ異なるので、掛け合わせることでいろいろなアイデアが出てきています。脱炭素に限った話ではないのですが、現場や支店単位でも様々な場面で人の交流が生まれてきているので、その点は、ホールディングス化してからより加速した、と感じています」
グループシナジーを生かした取り組みの一つとして、つくば太陽光発電事業が挙げられます。前田建設が茨城県つくば市に所有する土地に太陽光発電所を建設。発電した再生可能エネルギー電力は前田道路のアスファルト合材の製造に利用し、グループ全体でCO2排出量を削減する取り組みです。
さらに、再生可能エネルギー事業のノウハウを用いて、電力系統の系統用蓄電池事業にも乗り出しています。電力系統に直接蓄電池をつなぐことで、太陽光や風力などの再生可能エネルギーにおける出力変動の平滑化や、需給バランスの調整を図るもので、2025年1月をめどに前田建設所有地に1号案件を稼働する予定です。「日本風力開発が加わったことで、再エネ事業も加速化しています。さらに前田道路は、全国に工場や営業所を200拠点以上有しており、地域に根強いネットワークを持っています。再エネ事業に限らず各事業会社がもつ、こうしたネットワークや情報を活用することで、様々なシナジーが生まれていくといいなと考えています」

つくば太陽光発電所

つくば太陽光発電所
インフロニア提供

経営戦略部 サステナビリティ推進室長 岡崎 充浩(おかざき・みつひろ)氏

インフロニア・ホールディングス株式会社
経営戦略部 サステナビリティ推進室長
岡崎 充浩(おかざき・みつひろ)氏

前編では、各事業会社のCO2排出量削減に向けた施策、ホールディングス化によるシナジー効果などについてお話しいただきました。
後編では、カーボンニュートラルなどを進める上でのサステナビリティ推進室の位置付け、総合インフラサービス企業としてサステナビリティ経営に対する今後の展望などについてお聞きしていきます。

※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年5月)のものです。

後編はこちら:
総合インフラサービス企業を掲げるインフロニア・ホールディングス
脱炭素に向け、グループ会社が生み出すシナジー効果とはー(後編)

 

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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