基礎情報
2024/8/23 2024/12/23
TCFDが求めるシナリオ分析とは?基本から詳しく解説
気候変動によるさまざまな影響を鑑みて、国だけでなく企業も積極的な環境保護への対応が求められる時代になっています。その一環として、例えばTCFDが求めるシナリオ分析を実施し、考えられるリスクへの対処などが必要になるでしょう。本記事では、TCFDの基本と求められるシナリオ分析の概要を解説します。
TCFDとは何か?
TCFDが求めるシナリオ分析を実行するためには、まず「TCFDとは何か?」という基本の理解が欠かせません。TCFDについての見識を深めたうえで、具体的な対応方法を考えます。以下では、TCFDの基本的概要を解説します。
TCFDとは「気候関連財務情報開示タスクフォース」のこと
TCFDとは、「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」のことを指します。G20が金融安定理事会(FSB)に要請し、2015年に設立されました。2017年6月には最終報告書の公表を行い、気候変動に関するリスクや機会に関する項目について開示することを推奨しています。
世界各国の企業が「気候変動のリスクがあるなかで、企業として対策を取っていくことは極めて重要だ」とするTCFDの考え方に賛同を示すことで、TCFD提言に沿った経営を行うことが期待されています。建設業においても、脱炭素社会の実現に向けた取り組みにおいて、TCFDの情報は重要なものとなります。
「TCFD提言」について
TCFD提言とは、TCFDが気候変動に関するリスクや機会を適切に評価および開示を実行するためのフレームワークです。TCFD提言では、企業に対して以下の4つの情報の開示が求められています。
- 「ガバナンス」: 事業体制の検討と、その内容を企業経営に反映できているか
- 「戦略」: 短期・中期・長期にわたって、企業経営にどのように影響を与えるのか
- 「リスクマネジメント」: 気候変動のリスクを考慮するために、特定・評価・低減につながる方法を実践しているか
- 「指標と目標」: リスクと機会の評価において、判断のためにどんな指標を使っているのか、どうやって目標への進捗度を評価しているのか
TCFD提言では、これらガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標に対して明確な情報を開示することが重要とされています。CFD提言による情報開示は「TCFD開示」と呼ばれており、特に「戦略」は昨今世界的な問題となっているあらゆる気候関連のシナリオを考慮し、レジリエンス(回復力)について説明を求められる重要な項目となっています。
レジリエンスは、将来的に想定すべき気候変動のリスクを考慮し、対応するための能力・方法を意味します。建設業においてもこのレジリエンス向上のため、気候変動によって懸念される建物の倒壊や劣化などのリスクを想定し対策を講じることが求められるでしょう。
TCFD開示の目的とは?
TCFD開示とは、その企業がこれからの脱炭素社会に適応していけるのかを、投資家・金融機関などが判断するために使用される情報を開示することです。投資家や金融機関は投資や融資の際に正確な判断を下すために今後の脱炭素社会において企業がどのようなスタンスで取り組んでいるのか、また現在企業がどのような状況にあるのかを評価する必要があります。
そこで企業側はTCFD開示を実施し、自社の情報をステークホルダーなどに必要な情報を開示します。TCFD開示を行う企業数は世界各国で増加しつつあると共に、TCFDの情報開示が義務化されはじめています。
例えばアメリカでは、2023年4月に向けて証券取引委員会が上場企業にTCFD提言に沿った、気候関連情報(気候変動のリスクも含める)の記載を求める規則を検討しました。日本においてはコーポレートガバナンス・コードの改訂によって、2022年以降はプライム上場企業にTCFD提言に沿った情報の開示を要請しています。
また、金融庁は有価証券報告書において、2023年1月31日にサステナビリティ情報の記載欄を新設し、企業内容などの開示に関する内閣府令等の改正案を公布・施行しています。
TCFDのシナリオ分析について
TCFD開示を行うために、まず「シナリオ分析」が行われます。シナリオ分析では気候変動により企業がどのような影響を受けるかシナリオを作り、そのリスクを分析します。そして、シナリオ分析を通して、気候変動に対する具体的な対策やイノベーションを考案することが求められています。以下では、TCFDのシナリオ分析について解説します。
シナリオ分析の基本
TCFD提言では、上記で解説した情報開示のほかに、シナリオ分析の実施を各企業に推奨しています。気候変動により起こり得る具体的なシナリオ分析を行い、その結果を情報として開示します。
環境省は企業がシナリオ分析を実施する際に、参考となる事例・方法論を記した「シナリオ分析実践ガイド」を提供しています。このガイドは2019年以降、毎年3月に改訂されているため、最新情報を把握したうえでシナリオ分析を実行できます。
TCFDのシナリオ分析の必要性
TCFD開示の「戦略」の項目において、シナリオ分析は必須のものとされています。効果的な分析手法として有効であるため、影響すべての業種にTCFDのシナリオ分析が求められています。気候変動はあらゆる業界・事業に影響を与えますが、特に気候変動の影響を受ける分野には、エネルギー・運輸・素材と建築物・農業や食料および林業製品の4つが挙げられています。
建設業も特に影響を受ける分野に該当するため、TCFDのシナリオ分析を通して具体的な対策を構築することが求められるでしょう。
TCFDへの対応が遅れた場合のリスク
TCFDへの対応が遅れたり、そもそも対応していないと判断されたりすると、企業は多くのリスクを負う可能性があります。また、遅れた期間により以下のようなリスクがあると考えられます。短期から中長期にかけて、さまざまな問題を招くことが予想されるため、TCFDのシナリオ分析などの対応はしっかりと行うことが望ましいです。
<短期的なリスク>
・財務コストの上昇(ESG投資やグリーンファイナンスを受ける機会がなくなる)
・国際的な情報開示ルールを守っていないという事実が、環境評価や自社ブランドの信頼を低下させる
・情報の報告義務を怠ったことを理由に、株主などから訴訟を受ける可能性がある
<短〜中期的なリスク>
情報開示ルールに対応しないことで、罰則に値する可能性がある
<長期的なリスク>
気候変動のトラブルに対応できず、利益の減少などによって企業の存続そのものが難しくなる可能性がある
企業規模に関わらずTCFDのシナリオ分析は必要
シナリオ分析は企業の規模に関わらず、すべての企業が対応すべきものとなります。「中小企業には影響がない」と考えるケースもありますが、取引先がTCFDのシナリオ分析結果の開示の有無に応じて、今後の対応を変える可能性も懸念されます。
相手企業と今後も変わらず付き合い続けるためにも、中小企業もTCFDのシナリオ分析が必須となると考えられます。
TCFDのシナリオ分析は新たなリスクの把握につながる
気候変動は不確実性の高い課題であり、予想が難しい要素を多分に含んでいます。そのため行き当たりばったりでは、最適な対応が困難となる可能性もあるでしょう。このため、TCFDのシナリオ分析を実施することにより、現在把握できていないリスクの発見が期待されています。
また、TCFDのシナリオ分析は、企業が組織全体の能力を活用して、戦略的に対応するためにも欠かせません。企業にとっては気候変動の課題を踏まえたうえでの議論が行えたり、事業におけるレジリエンスを公開できたりと、さまざまなメリットもあります。
TCFDのシナリオ分析の手法
TCFDのシナリオ分析を実施する際には、具体的な手法を把握しておくことが重要です。以下を参考に、TCFDのシナリオ分析の基本的な手法・流れを確認してみてください。
シナリオ分析に必要な環境の構築
TCFDのシナリオ分析を実施するには、まず必要な環境の構築が必要です。具体的には経営陣にTCFDのシナリオ分析の重要性を理解してもらったり、分析過程で必要となる部署のピックアップなどを実施したりすることが、最初のステップになるでしょう。
他にも、社内にTCFDのシナリオ分析チームを作り、専門的な作業を任せる方法も考えられます。
TCFDのシナリオ分析の対象範囲を決める
次に、TCFDのシナリオ分析における対象範囲を設定し、具体的な施策の考案につなげます。対象範囲は、「売上構成」「気候変動との関係性」「データ収集の難易度」などが選択のポイントになり得ます。対象範囲を決めた後は、例えば企業の売上構成上、比率の高い分野を分析対象にしたり、CO2の排出量が多い事業を対象に分析を行ったりします。
また、TCFDのシナリオ分析では自社への影響度などを考慮して、何年先までの分析を行うか決める必要があります。例えばカーボンニュートラルに合わせた2050年までの分析を行うケースや中期目標に軸を置いた2030年までの分析を行うケースが考えられます。
リスクの重要度の評価を行う
TCFDのシナリオ分析では、リスクの重要度を正確に評価することも重要です。事業のリスクと機会をすべて確認し、そこで起こり得る事業インパクト(災害などで業務システムの停止などの緊急トラブルが発生した場合、どのような影響があるのか分析すること)を定性的に網羅します。
そして、事業インパクトの大きさを軸にして、リスクの重要度を評価します。例えば自社を支える重要な商品にリスク・機会がかかる場合には「大」、自社への影響が少ない・まったくない場合には「小」、どちらにも当てはまらない場合には「中」などの形で評価を行います。
シナリオ群を定義する
シナリオ分析の際には、気候変動の不確実性を考慮して複数のシナリオを想定する必要があります。具体的には気温の上昇幅などを基準にして、どのような影響が起きるのかを想定します。例えば2℃と1.5℃では、考えられる環境への影響が大きく変わるため、温度ごとにそれに対応する方法をシナリオ群として定義します。
これにより、それぞれのパターンで正確な対処を行えるように気候変動対策を行います。
事業インパクトを評価する
気候変動がもたらす事業インパクトを評価することで、気候変動が自社にどのような影響を与えるのかを整理します。想定できるリスク・機会を把握したうえで、各種データを活用して財務への影響の試算を行います。
そして、試算した結果をもとに将来の事業展開と照らし合わせて、どの程度の事業インパクトがあり得るのか明確にします。
具体的な対応策を考案する
ここまでの情報をまとめたうえで、具体的な対応策を考案します。事業インパクトの大きいものから対応策を具体化し、対応策を実現するための社内体制の構築に移行します。関連部署との連携を強めて具体的なアクションを実行し、シナリオ分析の進め方などを検討するのもポイントです。
文書化および情報開示を行う
社内で実施したTCFDのシナリオ分析の内容を外部向けに整理し、文書化と情報開示を行う準備を進めます。気候変動における自社のガバナンスも明確にして、社の内外に今後の対応スタンスを伝えることも重要です。
TCFDのシナリオ分析におけるポイントとは?
TCFDのシナリオ分析時には、いくつかのポイントがあります。スムーズにTCFDのシナリオ分析を進められるように、以下のポイントをチェックしておきましょう。
企業全体でTCFDを理解する必要がある
TCFDについての詳細や重要性は、企業全体で理解する必要があります。経営層はもちろん、全従業員がTCFDへの理解を深めてアイデアを出し合える環境が、シナリオ分析においては重要となります。全員がTCFDのシナリオ分析結果を自分自身の事として捉えられるように、情報を提供してそれぞれに考える機会を与えることのがポイントです。
自治体や専門家へ相談する
TCFDに関する情報やデータ分析には、専門的な知識が求められます。そのため、自社のリソースだけでは十分な分析ができない可能性も懸念されるでしょう。そこで、自治体の支援や専門家へ相談し、シナリオ分析をサポートしてもらうことポイントです。
これにより、自社の状況やリスクについてのアドバイスを受けることで、シナリオ分析に向けた準備が進めやすくなるでしょう。
TCFDのシナリオ分析を成長の機会として考える
TCFDのシナリオ分析には多くの時間と労力が必要です。しかし、TCFDのシナリオ分析を通して自社を見つめ直し、不確定な将来について考え対策を立てることは、会社・事業を成長させるきっかけになり得ます。これに加えて、従業員の意識改革にもつながり、具体的な行動の変化を促すことも可能になります。
気候変動はすでに国際的な問題であり、すべての企業に影響する課題となっています。それは同時に、企業価値を高めるチャンスにもなり得るため、TCFDのシナリオ分析を積極的に行うことで企業に様々なメリットが生まれるでしょう。
まとめ
TCFDのシナリオ分析は、すべての企業に求められます。脱炭素社会の実現のため、気候変動への具体的な対応方法の考案のためなど、さまざまなシーンでTCFDのシナリオ分析が必要とされるでしょう。この機会にTCFDの基本とシナリオ分析の手法を確認し、実際にシナリオ分析を行ってみることをおすすめします。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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