基礎情報
2024/4/10 2024/11/6
排出原単位データベースとは?機能や種類について解説
多くの環境問題を抱える現代において、企業はCO2削減につながる取り組みを積極的に実施することが求められています。この第一歩として、サプライチェーン全体のCO2排出量の計算が行われています。この排出量の計算は国などが提示している排出原単位を取りまとめた「排出原単位データベース」に基づいて行われています。
本記事では、排出原単位データベースの基本と種類、メリットなどを解説します。
排出原単位データベースとは何か?
サプライチェーン排出量の算定時において、排出原単位データベースは欠かせません。まずは排出原単位データベースとは何かを確認し、理解することが大切です。以下では、排出原単位データベースの基本について解説します。
サプライチェーンのCO2排出原単位をまとめたデータベース
排出原単位データベースとは、サプライチェーンのCO2排出原単位をまとめた情報源のことを指します。主にサプライチェーン排出量を算定する際に、精度を高めることを目的に使用されています。
サプライチェーン排出量とは、自社のみではなく自社製品のサプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量を指しています。製品やサービスを生産する際のすべての排出量を足し合わせることで算出できます。
具体的には製品製造における原材料調達・製造・物流・販売・廃棄といった、サプライチェーンのすべての工程で発生したCO2を合わせた数値になります。
従来は企業が個別にCO2の排出量を減らすことが主な目的とされてきましたが、企業同士のつながりが強まっている現代社会において、サプライチェーン全体の排出状況を把握することの重要性が認識されています。
今後はサプライチェーン排出量を算定する方法が広まり、同時に排出原単位データベースの価値も向上すると予想されるでしょう。
そもそも「排出原単位」とは?
排出原単位データベースの「排出原単位」とは、「活動量一単位あたり」にどれだけのCO2が排出されるかを示す数値のことです。排出原単位は「排出係数」とも呼ばれ、経済活動において排出されるCO2の算定に利用されます。
具体的に排出原単位では、重量1tあたり生産した際のCO2排出量、輸送距離1kmあたりに排出されたCO2排出量、電力量1kWh発電した際に排出されたCO2排出量といった単位当たりのCO2排出量が用いられています。この排出原単位に活動量を掛け算することでCO2排出量が簡単に計算できます。これらの情報をデータベースとして取得することでCO2排出量の算定を簡単に実行できるようになっています。
排出原単位データベースの必要性
排出原単位データベースは、サプライチェーン排出量の算定および算定精度向上などのために重要です。サプライチェーン排出量の算定時には精度を高めるために可能な限り実測値を使用します。このため、輸送距離や使用燃料量、生産量などを記録しておく必要があります。
自社のみではなく、サプライチェーン全体の排出量を算出するためには、取引先に排出量の提出を求める必要があるなど、取引先に手間をかけてしまうケースも多いです。このため、サプライチェーン排出量の算定精度を高くすると、企業に負担とコストがかかってしまいます。
そこで排出原単位データベースを活用し、負担とコストを抑えつつサプライチェーン排出量を算出する方法が用いられつつあります。今後も容易な排出量の算出方法として、排出原単位データベースの活用が進んでいくでしょう。
サプライチェーン排出量の算定において排出原単位に求められる要件
サプライチェーン排出量は、多くの場合「排出量=活動量×排出原単位」という計算式を使って算定されます。しかし、自社で測量して一時データを利用する場合と団体が発表しているデータを利用するのでは、活動量や排出原単位は、算定精度や算定する範囲(カバー率)が変化してしまいます。
環境省の「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位について(Ver.3.4)」に記載されている基本ガイドラインによると、データの出典・情報源等のトレースが可能な信頼性など、なるべくカバー率を高められる算定方法が推奨されています。企業は入手可能な活動量データに応じた排出原単位を、カバー率を高めるためにもできるだけ多く準備する必要があると考えられます。
また、事業者が独自で作成した排出原単位の使用も認めれていますが、使用する排出原単位はカバー率を高めるためにも、以下の要件を満たすことが望ましいと環境省は推奨しています。
項目 |
基準、要件 |
信頼性 | データの出典・情報源等のトレースが可能であること。 |
代表性 | 排出原単位の入出力データが以下に示す時間、対象地域、技術を適切に 代表していること。 |
時間的適合性 | 対象時間が算定時から逸脱していないこと。または対象時間が明記され ていること。 例えば、毎年度変動する原単位については、算定時にて最も妥当(時点 が近い1)と考えられるものとする。また、データの更新時期が数年おき である原単位についても、算定時にて最も時点が近いと考えられるもの とする。 |
地理的適合性 | 対象地域は当該活動が行われる地域とし、具体的な地域が明記されてい ること。 ただし、当該活動が行われる地域における排出原単位が存在しない場 合、他の地域のもので代用可能とする。 |
技術的適合性 | 技術は算定時に存在する技術であること。 |
参照:「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位について(Ver.3.4)」
排出原単位データベースとソフトウェアの違いとは?
排出原単位データベースとは、あくまでCO2排出量の数値を一覧にしてまとめたものです。そのため排出原単位データベースだけでは使用は難しく、利用方法を理解している人による対応が必要になります。一方で、データベースをソフトウェアに組み込むことで排出量を簡単に計算できるようになります。
サプライチェーン排出量を算定する際には、排出原単位データベースだけでなくこのようなソフトウェアの利用も検討されます。
このデータベースと連携しているソフトウェアを使用すれば、排出原単位の計算式が変わることはないため、サプライチェーン排出量を容易に算出できます。
排出原単位データベースの種類について
サプライチェーン排出量を計算するための排出原単位データベースは、いくつかの種類に分類できます。どのような種類があり、それぞれにどんな特徴があるのかを知っておくことも大切です。以下では、排出原単位データベースの種類について解説します。
産業連関法
産業連関法とは、国内経済において一定期間(通常1年間)に行われた財・サービスの産業間取引を一つの行列に示した統計表である、約500項目の産業連関表を使用し、部門間の金額ベースのやり取りを参考に特定製品に関する環境負荷を算定する方法です。マクロなレベルでの分析が可能となるため、サプライチェーン排出量の全体像を把握する際などに役立ちます。産業連関法は、「購入→生産→販売」の連鎖的な繋がりを表しているので、スムーズに全製品のデータを把握できます。
積み上げ法
積み上げ法とは、製品を生産するための工程における各段階で、実際に活用した資源やエネルギー、廃棄物などを詳細に計算して集計する方法です。事業プロセスのなかで発生するインプットとアプトプットの情報をまとめて確認できるため、環境負荷の原因とその実態について明確にできるのが特徴です。
積み上げ法は、現在アメリカなどを中心に利用が進んでいます。ISO(International Organization for Standardization「国際標準化機構」)は積み上げ法を軸にした国際規格化を進めているため、今後の展開に注目が集まっています。精度の高い算定が可能な点が魅力ですが、データの収集にコストや負担がかかることや、算定結果を得るまでに多くの時間が必要になるのがデメリットです。
排出原単位データベースを活用する理由・メリット
排出原単位データベースを活用することには、さまざまなメリットがあります。利用する理由を把握することで、今後の方針や行動を明確にできるでしょう。以下では、排出原単位データベースを活用する主な理由やメリットについて解説します。
サプライチェーン全体のCO2排出量を把握できる
排出原単位データベースを用いることで、サプライチェーン全体のCO2排出量を計算し、把握することが出来ます。精度の高いサプライチェーン排出量を算出するためには、データベースの活用が不可欠です。サプライチェーン排出量の把握は脱炭素活動への第一歩となるため、非常に重要です。
全ての企業がサプライチェーン排出量に注目し、CO2削減対策を行うことで、カーボンニュートラルに大きく近づくでしょう。
CO2排出量の削減方法を検討できる
CO2排出量の削減は、全世界の企業にとって共通の課題となっています。CO2排出削減のためにはまずは排出量を算出しなければなりません。排出原単位データベースがあれば排出量の計算は容易になるため、データベースを活用することが排出量削減対策への第一歩となります。
このため、排出原単位データベースの必要性や役割を理解し、CO2排出量の削減方法を検討することが大切です。データベースは企業にとって精度の高い算定を行い、削減対策方法を確立させるために役立ちます。
自社の抱える課題を明確にできる
自社及びサプライチェーン排出量が算出できると、どのカテゴリからの排出が多く削減が必要かなど、自社が抱える気候変動対策への課題などを明確にできる点も排出原単位データベースを使用するメリットです。サプライチェーン排出量を算定して把握することは、自社の現状を理解する結果につながります。
具体的な方針や今後の方向性が見えてくる可能性があるため、排出原単位データベースの活用およびサプライチェーン排出量の算定は企業にとってより重要になるでしょう。
精度の高い算定が行える
排出原単位データベースを活用することで、サプライチェーン排出量を高い精度で算定できます。先の解説通りデータベースを使用せずにサプライチェーン排出量を把握するには多くの労力を必要とします。そこで排出原単位データベースを利用し、精度を高めていくことが重要です。
データベースを提供している団体は幾つかあり、それぞれ精度が異なります。最も良い精度を出そうとすると自社で独自に排出量の測量を行い計算しなければなりませんが、手間がかかります。データベースを用いた場合ですとIDEAなど原単位を専門に計算している団体の発行するデータベースを使用すると精度の良い計算が出来ます。次に積み上げ法のデータベースを使用すること、その次は産業連関法のデータベースという順で精度は下がっていくと言われています。
実際にどのような排出原単位データベースがあるのか
実際に排出原単位データベースとして使用されているものには、多くの種類があります。以下では、よく活用されている排出原単位データベースを紹介します。
IDEAについて
「IDEA」とは、産業技術総合研究所と産業環境管理協会の共同開発によって作成されたデータベースです。網羅性・完全性・代表性・透明性の高さが特徴となっており、分類が細かく設定されています。データを「日本標準産業分類」を中心とした分類コードで整理しているため、利便性の高い排出原単位データベースとなっています。
3EIDについて
「3EID」とは、日本の産業連関表で算出した結果を一覧でまとめたデータベースです。各部門の単位生産活動によって発生する環境負荷量を確認でき、生産プロセスで直接的と間接的の両方で出されるCO2排出量の合計を算出します。無料で使えるぶん誤差が発生することもあるため、おおよその数値を把握したい場合に役立ちます。
IDEAが排出原単位データベースのなかで注目されている理由
排出原単位データベースのなかでも、特にIDEAは広く活用されています。以下では、IDEAがなぜ利用されているのかを解説します。
IDEAは日本国内の事業に焦点を当てたデータベースであるため使いやすい
IDEAは日本国内の事業に焦点を当てた、専門性の高いデータベースです。170以上の基本フローで主要な影響領域を確認できるなど、実用性も高くなっています。日本国内のすべての事業で実施される経済活動に対応しているので、利用機会が多いデータベースになるでしょう。
国際的な認知度も高まっているため、海外との取引でも活用可能です。
環境省のホームページにも記載がある
IDEAは環境省のホームページにも記載があり、高い認知度を誇るデータベースです。その価値や使用方法なども公開されているため、スムーズに導入を進められるでしょう。使いやすい排出原単位データベースを探しているときには、まずIDEAの利用が検討されます。
まとめ
排出原単位データベースは、サプライチェーン排出量の算出において重要なツールとなります。近年では自社のCO2排出量の削減だけでなく、サプライチェーン全体に目を向けた排出量削減が重要視されています。データベースを用いることでサプライチェーン排出量の計算が容易になるため、今後も排出原単位データベースの重要性は広まって行き、より広く利用されると予想されます。
まずは排出原単位データベースの基本を確認し、詳細を把握することから始めてみましょう。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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