基礎情報
2024/7/10 2024/12/4
グリーンメタノールとは?現状と課題について
グリーンメタノールがなぜ注目され、現状どのような状況か気になっている方は多いのではないでしょうか。アメリカやEUでは、クリーンエネルギー推進の企業に対して支援金が支給されています。このため、国内でもさまざまな企業がグリーンメタノールに注目し活用に取り組んでいます。
今回の記事では、グリーンメタノールの現状と課題を解説します。また、3社のグリーンメタノールの取り組みを紹介していますので、グリーンメタノールに興味がある方は参考にしてみてください。
グリーンメタノールとは
グリーンメタノールは、天然ガスや石炭などの化石燃料由来の原料を使用せずに作られたメタノールのことです。再生可能なエネルギーやバイオマスなど枯渇しない資源を元にした、持続可能な方法で製造されています。
これまで、メタノールは天然ガスを原料としていることから、製造過程やメタノールの燃焼により多くのCO2が排出されていました。そのため、メタノール製造および燃焼が地球温暖化につながる温室効果ガスの増加が懸念材料として挙げられています。
従来のメタノールに対して、グリーンメタノールはCO2排出を減らし、環境への負荷を大幅に減らすことが期待できます。このグリーンメタノールの製造原料の1つが、バイオマスです。バイオマスは、動植物の廃棄物や木材などを使用しているため、化石燃料に依存せずに生産することができる上に、炭素のリサイクルが可能になります。
また、グリーンメタノールは再生可能エネルギーを利用して水素分子とCO2を反応させて合成するためCO2の排出量を抑えることができます。
このように、グリーンメタノールは持続可能なエネルギー源として、脱炭素社会の実現に大きく貢献することが期待されています。
グリーンメタノールが注目されている背景
グリーンメタノールは、特に海運業界で大きな注目を集めています。メタノールは従来燃料である重油と比較して硫黄酸化物や窒素酸化物の排出を大幅に軽減できると共に、CO2排出量を最大15%削減できるとされています。国際エネルギー機関IEAのデータによれば、2020年度の国際海運業によるCO2排出量は7億トンです。7億トンの排出量は、世界全体の排出量の約2.1%を占めており、今後グローバルな経済発展に伴い、海運によるCO2排出量も増加すると推測されます。
世界的なカーボンニュートラルの波は海運業界にも押し寄せており、国際海事機関IMOが掲げた目標は、2050年までに国際海運による温室効果ガスの排出量をゼロにすることです。掲げた目標を達成するためには、従来の化石燃料に代わる持続可能なエネルギー源が求められており、グリーンメタノールが目標達成のカギを握っています。
このように、世界全体に占めるCO2排出量の多さから、海運業界で持続可能でクリーンな燃料の需要が高まっていることが、グリーンメタノールが注目されている背景です。
参照:「次世代船舶の開発」プロジェクト海運のカーボンニュートラルを取り巻く動きと追加研究開発について|国土交通省
グリーンメタノールの製造方法
グリーンメタノールの製造方法は、次の2つの種類があります。
グリーンメタノールの種類 | 製造方法 |
バイオメタノール | 廃棄物や木材のチップなどのバイオマスを利用した製造方法 |
e-メタノール | 再生可能エネルギーを利用した製造方法 |
まず初めに、バイオメタノールを解説いたします。バイオマスとは、生物資源「bio」と量「mass」を指す概念で、植物や動物由来の有機物質を含みます。バイオマスは動植物と太陽エネルギーが存在する限り持続的に生産できるため、石油や石炭などの化石資源とは異なり、枯渇の心配がありません。そのため、バイオマスは再生可能なエネルギー源として注目されています。
バイオマスである廃棄物や木材のチップなどの原料を高温にした後、特殊な触媒反応によってメタノールを生成します。このバイオマスによって生成されたメタノールがバイオメタノールです。
次にe-エタノールの製造方法を説明します。まず太陽光や風力などの再生可能エネルギーから得られた電気を使い、水を電気分解し水素を生成します。この電気分解により得られた水素と、産業活動で排出された大気中のCO2と反応させてメタノールを合成します。この方法により製造されたメタノールがe-メタノールです。
グリーンメタノールの使用方法
グリーンメタノールは、従来のメタノール同様に次の用途で使用されています。
- 化学工業
- 発電
- 自動車
- 建設
- 船舶用燃料 など
化学産業では、メタノールはプラスチックや薬品の原料として使用され、発電分野では燃料として活用されることが一般的です。また、自動車業界では化石燃料の代替として、建設分野では配管やロープの成分として使われることがあります。
CO2排出量抑制を目標として掲げている海運業界では、船舶用燃料としての使用用途が挙げられます。従来の船舶燃料である重油に比べ、グリーンメタノールはCO2排出量を大幅に削減できるため、環境負荷を軽減する効果が見込まれています。
株式会社商船三井では、2024年に重油とメタノールの「二元燃料船」を運航開始する予定であり、グリーンメタノールを使った航行が進められています。グリーンメタノールは、化石燃料由来のメタノールと同様に使用できる上に、環境への影響を大幅に抑えられるため、グリーンメタノールの使用により、国際海運業界で脱炭素の推進が期待されています。
グリーンメタノールの現状
グリーンメタノールは世界的な脱炭素の動きの中で、次世代のクリーンエネルギー源として大いに期待されています。2021年11月に開催されたCOP26で、154カ国・1地域が2050年等の年限を区切ったカーボンニュートラルの実現を表明しました。この表明により、世界的なCO2排出削減の流れが加速しています。
このような背景から、バイオマスや再生可能エネルギーを活用して製造されるグリーンメタノールへの期待が急速に高まっており、グリーンメタノールに関連する海外プロジェクトも増加傾向です。政府の支援も受けながら、環境負荷を抑えたグリーンメタノールへと移行する流れが世界的にも加速しています。
現在、グリーンメタノールの生産能力は年間5,000〜10,000トン程度です。しかし、今後5年間で技術の進歩や政府の支援が強化されることで、年間50,000〜250,000トン以上に増加すると予想されています。
今後、さらなる技術革新とインフラ整備が進むことで、グリーンメタノールのコスト効率が改善され、より広範な産業で活用されていくでしょう。脱炭素社会の実現に向け、グリーンメタノールは重要な役割を果たすことが見込まれています
グリーンメタノールの世界の動向
グリーンメタノールは、世界各国の脱炭素を目指す政策の中で重要な役割を果たすクリーン燃料として注目されています。
アメリカでは、再生可能エネルギーを支援する政府の政策によって、クリーンな燃料への需要が急速に高まっています。アメリカ各州では、CO2排出量削減の取り組みが強化されており、持続可能なエネルギーソリューションとしてグリーンメタノールへの関心が高まっています。
EUでは「グリーンディール」や「Fit for 55」などの国をあげた大規模な政策により、再生可能エネルギーへの移行が加速しているのが現状です。グリーンディールは、欧州全体での脱炭素を推進するための長期的な投資計画であり、その一環として、グリーンメタノールなどのクリーン燃料技術の活用が期待されています。
また、Fit for 55は、2030年までに温室効果ガス排出量を55%削減することを目標とした政策であり、クリーンエネルギーの導入を促進している政策です。国をあげた政策により、欧州各国ではグリーンメタノールに対する関心が高まり、最先端のプロジェクトが次々と進められています。
グリーンメタノールの海運業界による取り組み
海運業界でグリーンメタノールの導入は、脱炭素に向けた取り組みの中でも重要な役割を果たしています。IMOは、2050年までに温室効果ガス排出ゼロを達成することを目標に掲げており、その施策の1つとして「課金・還付制度」が挙げられます。
従来の化石燃料を使ったメタノールを船舶燃料として使用する場合に課金し、グリーンメタノールを使用する船舶に対しては還付金を支給する仕組みです。一連の流れを通じて、海運業界がゼロエミッション船を導入しやすくする狙いがあります。
コンテナ船の分野で先陣を切ってグリーンメタノールを導入しているのが、世界最大の海運会社の1つであるA.P. モラー・マースク(A. P. Møller – Mærsk A/S)(以下、Maersk社)です。Maersk社は、次の取り組みをしています。
- 2021年に世界初のグリーンメタノールを燃料とするコンテナ船を導入
- ノルウェーの大手エネルギー企業であるEquinor社とパートナーシップ締結
- 中国の大手風力発電企業であるゴールドウィンド社とパートナーシップを締結
- 商品の運輸に伴う温室効果ガスの排出を削減するAmazon社との契約
Maersk社の取り組みは海運業界全体に広がる可能性もあり、他の海運会社もMaersk社に続いてグリーンメタノールの利用を検討することが期待できます。
グリーンメタノールの活用事例
グリーンメタノールの活用事例として次の3つの企業を紹介します。
- 三井物産株式会社
- 三菱ガス化学株式会社
- 住友化学株式会社
それぞれの企業の詳細をみていきましょう。
三井物産株式会社
三井物産株式会社(本社:東京都千代田区、社長:堀 健一、以下「三井物産」)は、米国のスペシャリティ・化学品大手企業のCelanese Corporation(本社:テキサス州ダラス市、「セラニーズ社」)と折半出資で設立したFairway Methanol LLC(以下「フェアウェイメタノール社」)の工場(テキサス州パサデナ市)で、周辺プラントから排出される産業由来の二酸化炭素(CO2)を原料としたメタノールの製造を開始しました。最大で年間18万トンのCO2を有効利用してメタノールを年間13万トン増産します。これにより、メタノール年間製造能力は163万トンとなりました。
本メタノールの増産は、CO2を回収・有効利用するCCU(Carbon Capture and Utilization)の取組みの一つで、CO2を資源として捉え素材や燃料に再利用することで、大気中への排出を抑制するカーボンリサイクルを実現するものです。これにより、三井物産はフェアウェイメタノール社でのバイオメタノール(マスバランス方式)やデンマークSolar Park Kasso ApS(「ソーラーパーク・カッソー社」)でのe-メタノールと共に低炭素メタノールの製品ポートフォリオを拡充します。
三井物産は中期経営計画2026において、Global Energy Transitionを攻め筋の一つとして定めています。GHG(温室効果ガス)排出量の少ない次世代燃料バリューチェーン構築を進める中で、CCUにより化学品製造時の化石燃料使用量を低減させ、社会全体の持続可能な発展に貢献します。
引用:トピックス | 米国で回収CO2を活用したメタノール生産開始 – 三井物産株式会社
三菱ガス化学株式会社
JFEエンジニアリング株式会社(社長:大下元、本社:東京都千代田区)と三菱ガス化学株式会社(社長:藤井政志、本社:東京都千代田区)はこのたび、CO2を原料としてメタノールを合成するCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization:二酸化炭素回収利用)プロセスの実証実験において、清掃工場の排ガスから回収したCO2をメタノール転換することに、国内で初めて成功しました。
メタノールは様々な化学製品の基となっており、その中でも特にバイオマス由来のCO2と、再生可能エネルギーから生産した水素を用いた脱炭素効果の高いグリーンメタノール※1は、クリーンエネルギーの有力な素材として注目を集めています。
両社は、脱炭素社会の構築にグリーンメタノールの製造を通じて貢献したいという思いが一致したことから、このたび共同で実証実験を行うことと致しました。「クリーンプラザふじみ※2」で回収したCO2を用いて、三菱ガス化学新潟研究所においてメタノール転換試験を行った結果、ごみ燃焼排ガス中のCO2からメタノールを製造出来ることを確認しました。
なお、JFEエンジニアリングは、ごみを焼却する際に発生する排ガスからCO2を回収する実証試験を同工場にて2021年度より実施中であり、CO2の回収率は90%以上、回収したCO2の純度は99.5%以上であることを確認しています。
JFEエンジニアリングは、国内各地の清掃工場で採用されている独自の高効率発電や省エネ・DX等の技術に、「CCU-Ready Plant(CCU適用準備施設)※3」機能を融合させることで、地域における清掃工場の存在価値を一層向上させることに尽力します。
また、三菱ガス化学は、グループミッション「社会と分かち合える価値の創造」に基づき、長年培ってきた自社触媒を基にしたメタノール製造技術により、CO2・廃プラスチック・バイオマスなどをメタノールに転換し、化学品や燃料・発電用途としてリサイクルする取り組み(「環境循環型メタノール構想※4」)を引き続き進めます。
両社は今後も環境省が提唱・推進する「脱炭素先行地域」の構築に向けこれらの取り組みを加速し、地域経済の活性化と地域課題の解決に貢献してまいります。
引用:日本初!ごみからメタノールの製造に成功~国内清掃工場から排出されるCO2を化学製品原料に転換~/三菱ガス化学株式会社
住友化学株式会社
住友化学はこのたび、CO2からメタノールを高効率に製造する実証に向けたパイロット設備を愛媛工場(愛媛県新居浜市)に新設し、運転を開始しました。本設備は、NEDO※1のグリーンイノベーション(GI)基金事業の助成を受けて建設したものです。今後、2028年までには実証を完了し、30年代の事業化、および、他社へのライセンス供与を目指してまいります。
CO2を回収利用する技術(Carbon Capture and Utilization、以下CCU)は、地球温暖化防止や炭素循環型社会実現のための「切り札」として、その開発と普及が期待されています。特に、プラスチックや接着剤、薬品、塗料など、多様な製品の原料であるメタノールをCO2から製造する技術は、CCUの代表的な存在です。しかしながら、従来のCO2からのメタノール製造には、可逆反応※2であることによる収率の低さや副生する水による触媒劣化といった課題がありました。
住友化学は、国立大学法人島根大学 総合理工学部の小俣光司教授が研究を進めてきた内部凝縮型反応器(Internal Condensation Reactor、以下ICR)に着目し、共同開発を進めることで、これらの問題を解決しました。ICRでは、既存技術では難しかった反応器内でのメタノールや水の凝縮分離が可能であり、これにより、収率の向上、設備の小型化、省エネルギー化につながるとともに、触媒劣化の抑制も期待できます。
引用:CO2から高効率にメタノールを製造する革新的技術の確立へ~GI基金事業の実証に向けたCCUパイロット設備が完成~/住友化学株式会社
まとめ
今回の記事では、グリーンメタノールの現状と課題を解説しました。グリーンメタノールは、従来のメタノールと異なり、天然ガスや石炭などの化石燃料由来の原料を使用せず、持続可能な方法で製造される新しいメタノールです。世界的な脱炭素の動きの中で、次世代のクリーンエネルギー源として大いに期待されています。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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