基礎情報
2024/10/4 2024/10/9
バイオマス発電の特徴について|メリット・デメリットを軸に解説
脱炭素社会の実現に向けて、さまざまな施策が実行に移されています。特に温室効果ガスを発生させずに利用できる再生可能エネルギーには注目が集まり、多くのシーンで活用されています。「バイオマス発電」もその1種であり、さまざまな業界で今後使用されることが予想されます。
本記事ではバイオマス発電ならではの特徴と、メリット・デメリットを解説します。
バイオマス発電とは何か?
そもそも、「バイオマス発電とは?」と疑問を持っている方も多いかもしれません。バイオマス発電という言葉を聞いたことがあっても、具体的な意味や内容まで把握している人は多くないでしょう。以下では、まずバイオマス発電の基本について解説します。
生物由来の再生可能資源を活用する発電方法
バイオマスとは、「bio(生物)」と「mass(量)」という言葉を組み合わせてつくられた造語です。その名前通り生物由来の再生可能資源を利用し、発電を行う方法を意味します。従来の化石燃料を使わないことから、環境に配慮した発電方法として注目されています。
バイオマス発電は、バイオマスに該当する燃料を使って発生させた水蒸気・ガスを使ってタービンを回し、その運動エネルギーを利用して発電することが基本的な仕組みです。以前までは、バイオマス発電に燃料の生産量や技術が追いつかず、実現が難しいとされていました。
しかし、徐々に使用できる資源が増加し、日本国内では2000年代ごろから各地で導入が始まり、再生可能エネルギーとして知名度を高めて行きます。「国内の発電電力量に対する自然エネルギーの割合」の2022年調査によると、バイオマス発電は4.6%と前年から0.5%増加しています。
今後もバイオマス発電の割合が増加し、再生可能エネルギーとして定着していくことが期待されています。
参照:2022年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報)|環境エネルギー政策研究所
バイオマス発電で実施される発電方式
バイオマス発電では、「熱分解ガス化方式」「直接燃焼方式」「生物化学的ガス化方式」といった方法が実施されています。熱分解ガス化方式とは、木材を高温で蒸し焼きすることで熱処理した際に発生するガスを使って発電を行う方式です。木材を熱処理すると炭がつくられますが、この過程で発生する可燃性の熱分解ガスを燃焼させて発電します。熱分解ガス化方式は燃焼温度が高いことが特徴で、燃料の可燃成分を有効に利用できます。そのため規模の小さな発電所でも利用できる点が特徴です。
直接燃焼方式とは、木材などを燃焼した際に発生する熱で水を沸騰させて水蒸気をつくり、膨張した水蒸気の力でタービンを回す方法です。火力発電と同じく、水蒸気を活用して発電しています。直接燃焼方式は温度が低い処理方法となるため、ある程度大きな施設でないと効率よく発電できません。
生物化学的ガス化方式とは、発酵しやすい原料を使ってバイオガスを発生させ、そのガスを燃焼させる方法です。水分が多い燃料も利用できるため、本来なら廃棄物となるものも有効活用できます。この方法はガスの発熱量が多いため、効率よく処理が可能です。
このようにバイオマス発電には多数の方式が採用されています。
バイオマス発電で使用される燃料の種類
バイオマス発電では、さまざまな特徴を持つものが燃料として使用されています。燃料の種類ごとに特徴が異なるため、使用方法が異なります。以下では、バイオマス発電で使用される燃料の種類を解説します。
林地残材などの木材
木材はバイオマス発電で使用される、主な燃料の1つです。間伐材や建築廃材のほか、山を切り出した際に発生する小径材・枝条・端材などの林地残材が燃料として用いられます。一般的には燃焼しやすいように、乾燥させてからチップやペレットに加工します。加工することで燃焼しやすくなり、効率よく発電ができます。
木材と石炭による混合燃料
木材と石炭によってつくられた混合燃料も、バイオマス発電で使用されます。一般的に石炭を使った火力発電所はCO2の排出量が多く、環境に悪いことが問題とされています。そこで石炭火力発電所で使用されている石炭の一部を木質のバイオマス燃料に変換し、環境へかかる負担を軽減する取り組みが実施されています。
既存の発電所を活用できるため、バイオマス燃料を大量に確保できなくても少しずつ石炭を置き換えることで発電できる点が特徴です。専用の発電所を新たに立てなくてもバイオマス発電が実施できるため、早急に環境を整えられる点が評価されています。
生ゴミや下水汚泥
生ゴミや下水汚泥など、発酵するとメタンガスが発生するものもバイオマス発電の燃料として使用されます。本来なら処分するしかないものが燃料として再利用できるため、エネルギーの新しい原料として活用される可能性があります。一方で、このような原料は基本的に専用の発電所を構築し、処理施設で対応する必要があるため、その分コストがかかります。
それ以外にも、バイオマス燃料の原料が存在する下水処理場に発電設備を設置し、そのままバイオマス発電に活用する事例もあります。生ゴミや下水汚泥のほかにも、家畜の糞尿なども燃料の原料になることから、複合的な効果も期待できます。
調理などで使用される廃油
飲食店などの調理現場で使用され、廃棄される廃油もバイオマス発電にとっては貴重な燃料になります。外食産業などから1日で発生する廃油は相当な量に上ります。近年ではリサイクルができる廃棄物として区役所や市民センターが廃油回収ボックスを使用し、食用油などの廃油を回収するケースも増えています。
外食産業に属する企業だけでなく家庭で発生する廃油も回収対象となり、バイオマス発電に使用されます。
ヤシの殻を使うパームヤシ殻(PKS)
パームヤシ殻(PKS)とは、パーム油を取り出したヤシの殻を指します。ヤシの殻には一般的な燃料よりも脂分が多く、木材などよりも燃焼しやすい特徴があります。そのためアジアを中心に安定して輸入できるパームヤシ殻(PKS)をバイオマス発電の燃料に活用し、その実用性を広めています。
現在は国内でバイオマス発電に使用できる燃料を安定して確保できないため、海外などから積極的に導入するケースも一般的です。しかし、輸送時にはCO2が排出されるうえ、パームヤシ殻の栽培に熱帯雨林が切り開かれていることから環境問題に貢献できていないとする声もあります。
バイオマス発電を行うメリット
バイオマス発電を行うことには、さまざまなメリットがあります。以下では、バイオマス発電によって得られるメリットを解説します。
カーボンニュートラルとして認められている
バイオマス発電はカーボンニュートラルとして認められている発電方法です。一般的に再生可能エネルギーには、太陽光発電・風力発電・水力発電など、燃料を使用しないものが当てはまります。
一方で、バイオマス発電は資源を燃やしているため、CO2を排出量が増加すると指摘されることもあります。しかし、木材などの燃料は成長の段階で大気中のCO2を吸収しているため、バイオマス発電で利用される場合にはCO2排出量が差し引きゼロであるカーボンニュートラルと認められています。
廃棄されるものを有効活用できる
本来なら廃棄されてゴミとなるものを燃料に変えられる点も、バイオマス発電のメリットです。廃材となる木材や生ゴミなどを燃焼させるため、ゴミの発生を削減できます。これにより、ゴミの量を減らせる上、廃棄コストも減らせるメリットがあります。
安定した発電が可能
風力発電や太陽光発電は、天気によって発電量が増減します。これにより、悪天候が続けば太陽光発電で十分な電力をまかなうことは難しくなる問題があります。
一方で、バイオマス発電は燃料があれば常に安定してエネルギーの確保が可能です。将来的に燃料が安定して調達できる環境が整備できれば、バイオマス発電によって安定した発電が継続できることも期待されます。
火力発電所やゴミ処理施設を活用できる
バイオマス発電は、火力発電所やゴミ処理施設といった既存の施設を再利用できる点でもメリットがあります。これにより、バイオマス発電のために新規で施設を立てる必要がないため、その分発電コストが安くなることもメリットです。小規模な施設でも再利用可能なので新規参入しやすく、バイオマス発電事業への参入障壁が低いことも魅力と言えます。
農山漁村の産業を活性化できる
農山漁村における産業の活性化につながる点もメリットとして考えられます。燃料として使用できる、廃棄用の木材や家畜の糞尿は農山漁村で大量に確保できます。本来、利用されずに廃棄されていたものを利用することで農山漁村の産業発展や雇用拡大などのメリットも期待できます。さらに、バイオマスの発生源である森林の価値も高まるため、自然を循環させる機能を向上することができます。
昨今は木材が余剰状態にあるため、森林機能が低下している点が課題となっています。余剰木材はバイオマス発電の燃料として有効活用できるため、林業の活性化などにもつながるでしょう。
バイオマス発電によるデメリット
バイオマス発電には多くのメリットがある一方で、デメリットになる部分もあります。以下では、バイオマス発電における主なデメリットを解説します。
発電効率が悪い
バイオマス発電は風力発電といった別の再生可能エネルギーと比較すると、発電効率が悪い特徴があります。バイオマス発電で使用される燃料のなかには水分が多量に含むものも多数あるため、その分燃焼温度が下がりエネルギー変換の効率が低下します。
具体的には木質のバオイマス変換の効率は、蒸気タービンを使用する際には約20%とされています。石油を使用した発電の効率は約40%とされているので、火力発電の中では低い水準です。
高いコストがかかる
バイオマス発電はほかの方法と比較してコストが高くなりやすい点もデメリットです。まず、生物資源が広範囲に分散しているため運搬費用が発生します。さらに、木材を効率よく燃焼させるために乾燥させ、チップ加工しなければなりません。資源を木材チップにするにも費用が発生するため、必然的に高いコストがかかってしまいます。
燃料の安定調達が難しい
発電に使用する燃料の安定調達が困難な点もまた、デメリットの1つです。燃料に使える間伐材は「森林・林業基本計画」によって利用量が制限されています。これにより、燃料供給が海外からの輸入に依存するため、安定して燃料を確保できない点が問題視されています。
海外から供給する場合には輸送コストが発電コストを押し上げるため、普及の障害となっています。燃料の栽培や輸送のほか、収集や加工に化石燃料を使うことになると、本末転倒になる恐れもあります。
資源を確保できる地域が分散している
燃料となる各種資源を確保できる地域が分散している点も、バイオマス発電のデメリットになります。燃料となる資源を収集するだけでも大量の時間とエネルギーが必要になってしまいます。運搬費用のほかにも肥料や耕作などの費用に加えて人件費も発生するため、結果的にコスト面で非効率的な方法になる可能性があります。
バイオマス発電の事例を紹介
国内でバイオマス発電を実施している事例は、いくつかあります。それぞれの特徴を、以下で解説します。
バイオマス利活用センター|豊橋市
豊橋市バイオマス資源利活用施設整備・運営事業では、未利用バイオマス資源のエネルギー利用を行うため、PFI手法により中島処理場にバイオガス化施設を整備します。
下水汚泥、し尿・浄化槽汚泥及び生ごみを中島処理場に集約し、メタン発酵により再生可能エネルギーであるバイオガスを取り出します。
バイオガスは、ガス発電のエネルギーとして利活用します。また、発酵後に残った汚泥は、炭化燃料に加工してエネルギーとして利用します。
引用:豊橋市バイオマス資源利活用施設整備・運営事業|豊橋市場下水道局
吾妻木質バイオマス発電所
オリックス株式会社(本社:東京都港区、社長:井上 亮、以下「オリックス」)は、このたび、「吾妻木質バイオマス発電所」(群馬県吾妻郡)の営業運転を開始しましたのでお知らせします。吾妻木質バイオマス発電所は、木質チップ専焼発電の発電所としては、国内で3番目の発電規模となります。
木質チップ専焼発電は、木質チップ(剪定枝や廃木材などを破砕しチップ化したもの)を燃料としてボイラ内で燃焼させ、発生した蒸気でタービンを回転させて発電する仕組みです。化石燃料の代替としてバイオマス(*1)を燃料とすることで、CO2排出量の低減につながるだけでなく、サーマルリサイクル(*2)技術を活用した、より環境に配慮した発電を実現します。さらに、廃木材の適正処理の促進にも寄与します。
(*1)化石資源を除く、再生可能な生物由来の有機性資源のこと。
(*2)廃棄物を単に焼却処理するだけではなく、焼却の際に発生するエネルギーを回収・利用すること。
引用:木質バイオマス発電所の営業運転を開始|オリックス株式会社
バイオマス産業都市
バイオマス産業都市とは、地域に存在するバイオマスを原料に、収集・運搬、製造、利用までの経済性が確保された一貫システムを構築し、地域のバイオマスを活用した産業創出と地域循環型のエネルギーの強化により地域の特色を活かしたバイオマス産業を軸とした環境にやさしく災害に強いまち、むらづくりを目指す地域です。平成25年度から、関係7府省(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)が共同で選定し、バイオマス産業都市構想の具体化に向けた取組を推進しています。
まとめ
バイオマス発電は再生可能エネルギーを活用する新しいかたちとして、国内でも注目度を高めています。今後もバイオマス発電に関する取り組みが進み、多くの場所で活用される可能性があるでしょう。この機会にバイオマス発電の基本とメリット・デメリットを確認し、その動向に注目しておくことがおすすめです。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
本ウェブサイトを利用される方は、必ず下記に規定する免責事項をご確認ください。
本サイトご利用の場合には、本免責事項に同意されたものとみなさせていただきます。当社は、当サイトに情報を掲載するにあたり、その内容につき細心の注意を払っておりますが、情報の内容が正確であるかどうか、最新のものであるかどうか、安全なものであるか等について保証をするものではなく、何らの責任を負うものではありません。
また、当サイト並びに当サイトからのリンク等で移動したサイトのご利用により、万一、ご利用者様に何らかの不都合や損害が発生したとしても、当社は何らの責任を負うものではありません。