基礎情報
2024/7/15 2024/10/9
代替燃料で脱炭素?新時代のエネルギー活用について紹介
「2050年カーボンニュートラル」が目標に掲げられて以来、世界各国で脱炭素社会の実現に向けた様々な研究や開発が行われています。日本も2020年にカーボンニュートラル宣言を行い、「グリーン成長戦略」を策定しました。その中で、従来の化石燃料に代わる燃料として注目されているのが、「代替燃料」です。
代替燃料は、生物由来の原料の使用や廃棄物の再利用により、CO2の排出量を削減したクリーンな燃料であり、カーボンニュートラルの実現へ向けて大きな期待をされています。そこで今回は、脱炭素に向けた新時代の燃料、「代替燃料」について解説していきます。
代替燃料によるメリットや具体的な活用事例も紹介していきますので、みなさんの会社にどう結びつくか想像しながら読んでみてください。
代替燃料とは?
石油や天然ガスなど天然資源の枯渇が現実味を増すと共に、カーボンニュートラルの実現が求められている今日、それらに代わる「代替燃料」に注目が集まっています。
以下では、代替燃料について、種類や従来の燃料との違いを解説していきます。
代替燃料の定義
代替燃料とは、石油や石炭・天然ガスといった化石燃料の代わりとなる、主に再生可能な資源を原料とする燃料全般を指します。製造や使用の段階で発生するCO2の量が化石燃料よりも少なく、地球温暖化対策につながる環境にやさしい燃料です。
また、再生可能な資源を原料にしているため、枯渇のリスクが高い天然資源に代わる燃料として、各国が積極的に研究や開発を行っています。
代替燃料の種類
代替燃料には、原料によっていくつかの種類があります。代表的な代替燃料とその原料は以下の通りです。
代替燃料 | 原料 |
バイオマス燃料 | 生物資源 |
合成燃料 | CO2、水素 |
水素 | 褐炭、天然ガス、水 |
SAF | 生物資源、生活廃棄物、廃食油など |
フラフ燃料 | 廃プラスチック、紙くずなど |
RPF | 廃プラスチック、紙くずなど |
バイオディーゼル | 廃食油 |
リニューアブルディーゼル | 廃食油、植物油など |
ASR | プラスチック、ウレタン、樹脂、など |
再生重油 | 使用済み潤滑油 |
TDF | 廃タイヤ |
アンモニア燃料 | 水素、窒素 |
このように原料は様々ですが、適切な管理を行えば半永久的に枯渇するリスクのないものもあるため、安定した供給にもつながりやすくなっています。
従来の燃料との違い
従来の燃料である化石燃料と代替燃料には、主に以下のような違いがあります。
- 製造時のCO2排出量が少ない
- 持続性が高い
- 資源国以外でも製造が可能
- エネルギーセキュリティが高い
代替燃料の原料の多くはCO2や水素・生物資源であるため、枯渇のリスクが極めて低く、半永久的に生産し続けられる、という点は大きなメリットです。
また、日本のように石油や天然ガスの大部分を輸入に頼っている国にとっては、自国での製造が可能な代替燃料はインフラの維持においても重要な役割を果たすでしょう。
代替燃料のメリット
ここまでで代替燃料は、地球温暖化の原因となるCO2を発生する化石燃料に代わるクリーンな燃料であるということを解説しました。
代替燃料には「環境にやさしい」だけでないメリットがたくさんあります。以下では、代替燃料によって生じる4つのメリットを解説していきます。
環境への影響の軽減
代替燃料の使用によって、環境への影響を軽減できます。
ここまでで解説した通り、代替燃料はカーボンニュートラルや脱炭素に適した燃料です。製造や使用の過程でのCO2排出量を化石燃料と比較して最大80%減らすことができるため、環境への影響を抑えて使用できます。
例えば、CO2と水素から作られる合成燃料は、燃焼されるとCO2を排出するという点に関して化石燃料と変わりません。しかし、製造過程において工場や発電所から排出されたCO2を回収するため、燃焼によって排出されるCO2と相殺することで、カーボンニュートラルな燃料となりえます。
持続可能性の向上
代替燃料には持続可能性を向上させるというメリットがあります。
第2節一次エネルギーの動向|資源エネルギー庁によると、2015年末時点で石油の可採年数は50.7年、天然ガスの可採年数は52.8年と予想されています。これにより、石油や天然ガスをはじめとした天然資源は有限であり、枯渇する未来はそう遠くないということがわかります。
一方、代替燃料は再生可能エネルギーやバイオマス素材などを使用して製造するため、適切な管理を行えば半永久的に枯渇するリスクがありません。このように代替燃料の使用によって、天然資源の減少が進んでも燃料不足の心配がない環境を実現できます。
経済的な利点
代替燃料には経済的にも大きな利点があります。自動車の燃料として水素や電気を使用するには、自動車自体のシステムや燃料供給ステーションなどのインフラ設備を整備する必要があるため、コストがかかります。
しかし、CO2と水素から作られる合成燃料は、既存の車や飛行機などのシステムをそのまま使用できます。そのため、普及を進めていく中でも経済的負担を抑えて市場に導入できると考えられています。従来のインフラを整備するためにかかる莫大なコストを考えると、代替燃料の経済面でのメリットは大きいと言えるでしょう。
エネルギー安全保障の強化
代替燃料はエネルギー安全保障の強化にもつながります。日本は資源国ではないため、石油や天然ガスなど化石燃料を輸出に頼り切っています。
そのため、価格が社会情勢や経済に大きな影響を受けやすく、供給が安定していません。しかし、代替燃料であれば日本国内での大量生産や長期備蓄が可能となります。これによって、燃料の価格や供給が安定し、エネルギー安全保障の強化につながります。
代替燃料の活用事例
ここまでで、代替燃料の概要やメリットについて解説しました。
以下では、実際に代替燃料を使った取り組みを紹介していきます。ケース別に紹介していきますので、ご自分の業界に近い分野の取り組みはぜひ参考にしてください。
自動車産業における代替燃料
「2014年7月1日から、いすゞ藤沢工場↔湘南台駅のシャトルバスとして定期運行。
DeuSEL®バスは、通常のディーゼルエンジンを搭載したバスに、ミドリムシからつくった燃料DeuSEL®を入れて運行するシャトルバスです。2014年7月1日から、神奈川県のいすゞ藤沢工場と湘南台駅を定期運行します。このバスは、いすゞ社員の通勤や、工場に御用のお客様の送迎用として平日は毎日運行します。」
引用:【いすゞ×ユーグレナ社】ミドリムシで次世代バイオディーゼルをつくるDeuSEL®(デューゼル)プロジェクト
航空業界の取り組み
「2019年度以降、JALグループで受領しているエアバスA350型機について、フランス・トゥールーズのエアバスの工場から羽田空港までのデリバリーフライトにSAFを搭載しています。また、2021年度には、JALグループのATR-42-600型機にもSAFを搭載しました。」
引用:SAF(持続可能な航空燃料)の開発促進と活用|サステナビリティ|JAL企業サイト
発電所での代替燃料利用
「JERA碧南火力発電所における燃料アンモニア転換実証試験を開始―世界初となる大型の商用石炭火力発電機でのアンモニア20%転換の実証―
NEDOと株式会社JERA、株式会社IHIは、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/アンモニア混焼火力発電技術研究開発・実証事業」(以下、本事業)に取り組んでいます。本事業にて、JERAとIHIは、本日、世界初となる大型商用石炭火力発電機における燃料アンモニア転換の大規模実証試験(熱量比20%)を、JERA碧南火力発電所(愛知県碧南市)で開始しました。本実証試験は、2024年6月まで実施する予定です。」
引用:JERA碧南火力発電所における燃料アンモニア転換実証試験を開始―世界初となる大型の商用石炭火力発電機でのアンモニア20%転換の実証― | プレスリリース(2024年) | JERA
船舶での代替燃料採用事例
「世界初大型舶用エンジンでの水素燃焼運転に成功
株式会社三井E&S(本社:東京都中央区、代表取締役社長:高橋 岳之、以下「当社」)とライセンサーであるMANエナジーソリューションズSE(本社:ドイツ・アウクスブルク市、最高経営責任者:ウーヴェ・ラウバー、以下MAN ESという)は、国際海運の水素関連ビジネスの早期立上げを狙い、当社玉野工場敷地内にあるシリンダ直径50cmの舶用2サイクルテストエンジン(以下テストエンジン)での水素燃焼運転に世界で初めて成功しました。」
引用:世界初大型舶用エンジンでの水素燃焼運転に成功 | ニュースリリース | 三井E&Sグループ
公共交通機関における代替燃料
「廃食油等を原料とする「リニューアブルディーゼル」で走る日本初の旅客バスが誕生!
脱炭素社会実現を目指し旅客自動車としてリニューアブルディーゼルを日本初導入
西武バス株式会社(本社:埼玉県所沢市、代表取締役社長:塚田正敏、以下「西武バス」)と伊藤忠エネクス株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:岡田賢二、以下「伊藤忠エネクス」)は、世界最大級の再生可能資源由来の燃料(以下「リニューアブル燃料」)メーカーである Neste OYJ(本社:フィンランド、CEO:Matti Lehmus、以下「NESTE 社」)グループと協働で、リニューアブルディーゼル(Renewable Diesel、以下「RD」)の旅客自動車(大型の一般乗合バス)での使用を開始し、2022年 7 月 14 日(木)より、西武バス所沢営業所にて「リニューアブルディーゼルで走る日本初の旅客バス」として運行を開始します。 」
引用:廃食油等を原料とする「リニューアブルディーゼル」で走る日本初の旅客バスが誕生!
まとめ
代替燃料はカーボンニュートラル実現に向け、枯渇リスクのある化石燃料の代わりとして注目されています。
代替燃料には、CO2排出量の削減だけでなく経済的な利点が大きいということからも、世界各国で研究・開発が推進されています。しかし、「製造コスト」や「原料の安定的な確保」などの課題が多いことも事実です。
今後は、コストを抑えた製造方法やコスパの良い原料に関する研究・開発がより急務となっていくでしょう。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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