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2024/11/5 2024/12/6
カーボンニュートラル燃料とは?取り組み事例とメリット・デメリットについて
カーボンニュートラル燃料は、製造から使用の過程でCO2排出量が実質ゼロとなる燃料です。化石燃料の使用によって発生するCO2の影響で深刻化する地球温暖化の対策において、カーボンニュートラル燃料は重要な役割を果たしています。
特に建設業界での応用が期待されており、現場での建設機械や発電設備への利用が進むことで、工事中のCO2排出量を削減し、より環境に優しい建設プロセスを実現することが可能です。
しかし、実用化が進んでいない現状から、「カーボンニュートラル燃料についてよく知らない」という方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、「カーボンニュートラル燃料」について、メリットやデメリットを踏まえながら解説します。国内の取り組み事例も紹介するので、ぜひ最後までお読みください。
カーボンニュートラル燃料とは
カーボンニュートラル燃料とは、製造から使用の過程で、CO2の排出量が実質ゼロとなる燃料のことです。そもそも「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの、排出量と吸収量を均衡させることを意味します。
カーボンニュートラル燃料は、使用の過程でCO2が排出されるという点では、従来の化石燃料と変わりません。しかし、例えばカーボンニュートラル燃料の1種である合成燃料は、工場や発電所から排出されたCO2を原料とするため、排出されるCO2と相殺できます。
つまり、カーボンニュートラル燃料の製造と使用を通して、大気中のCO2の排出量は増加しないという仕組みです。このため、カーボンニュートラル燃料は、温室効果ガスの排出による地球温暖化の対策として、大きな注目を集めています。
カーボンニュートラル燃料の種類
前の項では、カーボンニュートラル燃料の概要について解説しました。カーボンニュートラル燃料には、原料や使用用途によって異なるいくつかの種類が存在します。
ここでは、代表的な以下の5種類のカーボンニュートラル燃料を解説します。
- 合成燃料
- e-fuel
- 水素
- バイオ燃料
- SAF
合成燃料
合成燃料とは、CO2と水素を合成して製造される燃料です。燃焼されることでCO2が発生しますが、原料として使われるCO2と相殺できるため、カーボンニュートラル燃料となります。
合成燃料は従来の化石燃料に似た性質を持つため、既存インフラがそのまま使用でき、コストを抑えた導入が可能です。また、自動車や航空機など様々な用途で使用できる点も大きなメリットとなります。
e-fuel
e-fuelは、前述した合成燃料の1種です。原料となる水素が、再生可能エネルギーによる水分解で発生したものである場合に限り、e-fuelと呼ばれます。再生可能エネルギーを使って製造されるため、合成燃料よりもさらにクリーンな燃料となっています。
しかし、DAC技術やグリーン水素の製造が必要となるため、実用化が進んでいないのが現状です。
水素
水素は、燃焼しても酸素と結合して水を生成する、カーボンニュートラル燃料です。水素の製造には、化石燃料由来・再生可能エネルギー由来・バイオマス原料由来など様々な方法があります。特に、再生可能エネルギーを使って製造された水素はグリーン水素と呼ばれ、製造過程でのCO2の排出が一切ない、完全なクリーンエネルギーです。
水素は、ガソリンに代わる自動車の燃料としての利用をはじめ、発電所や家庭用燃料電池など様々な用途で使用されます。また、上記で紹介した合成燃料の原料など、二次エネルギーとしても利用できるため、脱炭素社会の実現に向けて、さらなる活用が期待されています。
バイオ燃料
バイオ燃料は、再生可能な生物資源(バイオマス)を原料とする燃料です。燃焼するとCO2が発生する点において、バイオ燃料は従来の化石燃料と変わりません。しかし、原料である動物や植物などの生物資源が、成長過程でCO2を吸収するため、カーボンニュートラル燃料となります。
バイオ燃料は以下のような種類に分けられます。
- バイオディーゼル
- バイオエタノール
- バイオジェット燃料
- バイオガス
バイオ燃料は自動車や航空機など様々な用途で使用できるカーボンニュートラル燃料です。既存のインフラをそのまま活用できることから、水素と並んで脱炭素社会の実現に大きな役割を果たしていくと予想されます。
SAF
SAFはSustainable Aviation Fuelの略で、生産資源、生活廃棄物、廃食油などを原料とする、持続可能な航空燃料です。燃焼するとCO2が発生する点において、SAFは従来の化石燃料と変わりません。しかし、SAFの主な原料となる生物資源(バイオマス)は、成長過程で光合成によってCO2を吸収するため、燃焼時に発生する分と相殺できます。
また、SAFは従来の化石燃料と混合して航空機に使用することができます。そのため、航空機という巨大なインフラを、既存の設備を変えることなく使用できるという点も大きなメリットの1つです。
カーボンニュートラル燃料が注目されている理由
カーボンニュートラル燃料が注目されているもっとも大きな理由は、地球温暖化です。2015年に採択されたパリ協定で以下の目標が掲げられたことにより、カーボンニュートラルという言葉が広がり始めました。
- 世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに(2℃目標)、1.5℃に抑える努力を追求すること(1.5℃目標)
- 今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること
現在では、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げているものの、CO2の排出量ゼロの実現は、現状では難しいことが事実です。そこで、地球温暖化を引き起こす原因である化石燃料に替わるエネルギー資源として、カーボンニュートラル燃料が注目され始めました。
カーボンニュートラル燃料のメリット
カーボンニュートラル燃料が温室効果ガスの排出量削減に向けた取り組みとして、重要な役割を持つことは前述した通りです。ここでは、カーボンニュートラル燃料のメリットを解説します。
エネルギー自給率が向上する
カーボンニュートラル燃料の普及は、エネルギー自給率の向上にもつながります。2021年度の日本のエネルギー自給率は13.3%、全体で37位と、先進国の中でもとりわけ低い水準となっています。つまり、日本はエネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に依存しているというわけです。
引用:2023―日本が抱えているエネルギー問題(前編)|資源エネルギー庁
しかし、カーボンニュートラル燃料が普及すれば、日本国内での資源の大量生産・長期貯蔵が可能となります。これにより、エネルギー自給率の向上だけでなく、エネルギー安全保障の強化にもつながります。
CO2排出量を抑えることができる
カーボンニュートラル燃料の使用によって、CO2の排出量を削減できます。
前述した通りカーボンニュートラル燃料は、製造から使用の過程で、CO2の排出量が実質ゼロとなる燃料のことです。発生するCO2は、製造過程や原料の成長過程で吸収されるため、大気中のCO2が増えることはありません。
また、製造や使用の過程でCO2の発生がゼロとなる燃料の普及が進むことで、さらに脱炭素社会の実現に近づくでしょう。
カーボンニュートラル燃料のデメリットと課題
前の項では、カーボンニュートラル燃料のメリットについて解説しました。しかし、メリットがあればデメリットも存在します。ここでは、カーボンニュートラル燃料のデメリットと課題について解説します。
コストがかかる
カーボンニュートラル燃料には、コスト面で大きなデメリットがあります。カーボンニュートラル燃料は、化石燃料と比較して製造コストがかかります。そのため、実用化を進めるためには、製造コストの削減が必要不可欠です。
経済産業省は、2021年10月のCO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性(案)で以下のような目標を定めています。
- 合成燃料:2050年までに約100-150円/L
- SAF:2030年までに約100-199円/L
- 合成メタン:2050年までに40~50円/Nm3
- グリーンLPG:2030年までに約950-990円/Nm3
原料の確保が困難
カーボンニュートラル燃料には、原料の確保への課題もあります。カーボンニュートラル燃料の原料の中には、供給量に限界があるものがあります。例えば、SAFの原料となる廃食油などがその一例です。
また、カーボンニュートラル燃料の実用化が進むことで、原料の確保はさらに難しくなることが予想されます。
カーボンニュートラル燃料の事例
ここまでで、カーボンニュートラル燃料について詳しく解説しました。カーボンニュートラル燃料にデメリットがあることは事実ですが、温室効果ガスの排出量削減に向けて重要な役割を担っていることに変わりはありません。
ここでは、国内企業が行うカーボンニュートラル燃料に関する取り組みを3つ紹介します。
出光興産、ENEOS、トヨタ自動車、三菱重工業グループ
出光興産株式会社(以下、出光興産)、ENEOS株式会社(以下、ENEOS)、トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)および三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)は、カーボンニュートラル(以下、CN)社会の実現を目指して、自動車の脱炭素化に貢献する「CN燃料」の導入・普及に向けた検討を開始しました。日本国内において2030年頃のCN燃料の導入を目指して、供給、技術、需要のそれぞれで主要な役割を果たす4社が共同で検討を進めてまいります。
出光興産は2050年ビジョン「変革をカタチに」のもと、中期経営計画で表明した3つの事業領域の1つとして、多様で地球環境に優しい「一歩先のエネルギー」の社会実装に取り組んでいます。その一環として、国内外の様々な企業と連携しながら、合成燃料やバイオ燃料といったCN燃料の早期導入・普及を目指しています。
ENEOSは、グループの長期ビジョンにおいて「エネルギー・素材の安定供給」と「CN社会の実現」との両立への挑戦を掲げ、水素や再生可能エネルギーの活用を推進し、合成燃料などのCN燃料の事業開発を進めるなど、温室効果ガス排出量を削減するためのさまざまな取り組みを行っています。
トヨタはCNに向けて、マルチパスウェイを軸に、電動車の普及だけではなく、エンジン搭載車両におけるCO2排出量削減にも取り組んでいます。2007年には、ブラジルでフレックス燃料車(バイオ燃料とガソリンの混合燃料で走る自動車)を導入。今後も、保有車を含むエンジン搭載車両のCO2削減に取り組むとともに、CN燃料の普及に貢献するエンジンの開発も検討してまいります。
三菱重工グループは2040年までにCNを達成する「MISSION NET ZERO」を宣言し、CO2エコシステム、水素エコシステムの構築などに取り組んでいます。CO2削減に貢献できる三菱重工グループの製品・技術・サービス、世界中のパートナーとの新しいソリューション・イノベーションによりCN社会の実現に貢献していきます。
CN社会の実現に向けたCN燃料の普及には、産業を超えた連携・仲間づくりが不可欠です。その第一歩として、出光興産、ENEOS、トヨタ、三菱重工は連携して、CN燃料の導入・普及に向けた検討を進めてまいります。
引用:出光興産、ENEOS、トヨタ自動車、三菱重工業、自動車向けカーボンニュートラル燃料の導入と普及に向けた検討を開始|トヨタ自動車株式会社
SECOM(セコム)
セコムグループでは、緊急対処、現金護送、技術・工事対応、営業活動などで約9,000台の四輪車両を使用しており、排出される温室効果ガス排出量は全体のおよそ30%を占めています。そのため、車両燃料に起因する温室効果ガスと大気汚染物質(NOx/PM)の削減は環境保全活動の重要課題と考え、さまざまな取り組みを行っています。
当社グループでは、2030年度に向けた温室効果ガス削減目標を達成すべく、2030年度までにすべての四輪車両を「電動車※」にする、という導入目標を掲げています(電動車に代替できない特殊車両を除く)。また、カーボンゼロ達成のため、2045年までには走行時に温室効果ガスを排出しない電気自動車・燃料電池車などにすべて切替を行う予定です。
車両を用途や走行距離、特殊装備の有無などにより20タイプに分類し、タイプごとに環境性能や走行性能から車種を絞り、最も排出ガスが少なく環境に優しい車を選定しています。燃費が良い場合でも排出ガスが多めの車は除外するなど、1台ごとに判断して最適な車両を選定しています。
引用:「セコムグループ カーボンゼロ2045」実現に向けて|セコムグループ
日産自動車
日産自動車は4日、温暖化ガスの排出量が実質ゼロの「カーボンニュートラル燃料」を活用する開発車両を公開した。新型スポーツ車「Z(日本名フェアレディZ)」をベースにした車両で、耐久レースへの参戦を通じて技術やノウハウの蓄積を進める。
同社のアシュワニ・グプタ最高執行責任者(CO)は「モータースポーツは日産の『DNA』。技術やノウハウを車両開発に生かしたい」と意欲をにじませた。
静岡県小山町で3日から開かれている耐久レースの会場で、開発車両を公開した。使用するバイオ燃料は廃棄された食品や木材チップなどが原料。製造過程にも再生可能エネルギーを使った。日本の規格に合わせるため成分も調整した。搭載する車両のエンジンも一部改良したという。グプタCOOは「バイオ燃料はコスト競争力などで課題があるが、メリットも多い」と期待を示した。
日産は2050年までにカーボンニュートラルを実現する目標を掲げている。モータースポーツは過酷な状況でも使える車両が求められるため、技術やノウハウの蓄積に向けて取り組みを強化している。18年には電気自動車(EV)レースの世界シリーズに参戦。エンジン車を対象とする今回の耐久レースも、チームとして参戦するのは08年以来14年ぶりだ。
参戦する車両のフェアレディZは日産を代表する車。14年ぶりに刷新する新モデルは米国と日本で今夏にも投入する見込み。現時点で市販するフェアレディZのバイオ燃料活用は想定していないが、エンジン車でも脱炭素の取り組みを進め、データやノウハウを開発に生かす。
引用:日産、「Z」で脱炭素燃料活用 開発車両公開|2022年6月4日|日本経済新聞
まとめ
カーボンニュートラル燃料は、製造から使用の過程でCO2排出量が実質ゼロとなる燃料です。地球温暖化対策が大きな課題となる中で、CO2排出量を削減できるカーボンニュートラル燃料は大きな役割を果たします。
特に資源の乏しい日本において、自国での生産・貯蔵が可能なカーボンニュートラル燃料の実用化は不可欠です。しかし、カーボンニュートラル燃料の普及には、コスト面や原料の確保といった課題の解決が必須となります。
建設業界においても、カーボンニュートラル燃料の活用が注目されています。建設現場での大型機械や車両は大量の燃料を消費するため、これらをカーボンニュートラル燃料に置き換えることで、現場のCO2排出量を大幅に削減することが可能です。さらに、建設プロジェクトにおけるエネルギー供給の持続可能性を高めることも期待されています。
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建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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