基礎情報
2024/11/4 2024/12/23
メタネーションとは?メリット・デメリットや取り組み事例について
日本では現在、脱炭素社会の実現に向けてさまざまな取り組みが行われています。その中でも特に期待されるのが、「メタネーション」という技術です。メタネーションは大気中のCO2排出量の増加を抑える技術として、特に注目されています。メタネーションを各地で導入すれば、持続可能な社会の実現も期待できるでしょう。
本記事ではメタネーションの仕組みや注目される理由、建設業界においてメタネーションを導入した事例も合わせてご紹介します。
メタネーションとは
メタネーションとは、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)からメタンを合成する技術のことです。メタンは天然ガスの原料として、私たちの生活のあらゆる場面で利用されます。しかし、天然ガス由来のメタンが含まれる都市ガスは燃やすと大気中の二酸化炭素濃度が増加するため、地球に優しくありません。
メタネーションは原料としてCO2を利用するため、それだけでCO2排出量を抑制できます。また生成したメタンを燃焼したときに排出される二酸化炭素量は、メタネーションで合成した二酸化炭素量と同等なため、大気中の二酸化炭素を原料にした場合は実質二酸化炭素が大気中に増えない仕組みを作れます。
メタネーションの仕組み
引用:ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術|経済産業省 資源エネルギー庁
メタネーションの仕組みは次の通りです。
- 発電所や工場などから排出される二酸化炭素を回収する
- 回収した二酸化炭素と水素から合成メタンを作成する
- 合成メタンを利用し、発電所や工場などにエネルギー供給する
メタネーションにより製造された合成メタンは燃料として利用されており、燃焼時に二酸化炭素を排出するため地球温暖化などの環境に影響していると思うかもしれません。しかし、燃焼時に排出される二酸化炭素は、メタネーションの時に原料として使用される二酸化炭素と相殺されます。そのため二酸化炭素の排出量は実質ゼロとなります。つまりメタネーションは環境に悪影響を与えず、脱炭素社会に向けた重要な手段となります。この仕組みを構築することは、持続可能な社会の実現への大きな一歩です。
メタネーションが注目される理由
メタネーションが注目される理由は、日本政府が目指している脱炭素社会の実現に起因しています。現在世界では二酸化炭素の排出量をゼロにする「脱炭素」が主流です。特に日本では2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにする脱炭素社会の実現を目指しています。脱炭素社会実現のために脱炭素が必要ですが、その解決策として期待されているのがメタネーションです。
メタネーションの仕組みは前章で解説しましたが、取り入れることで二酸化炭素の排出量を抑え、持続可能な社会の実現を期待できます。またメタネーションの技術は、新たなインフラ設備に巨額投資する必要もありません。つまり経済効率に優れ、環境に優しい社会の実現を目指せることがこのメタネーションという技術です。
メタネーションのメリット
メタネーションは、脱炭素社会の実現に向けて貴重な技術です。メタネーションを導入すれば、より持続可能な社会の手助けとなることは間違いありません。そこで本章では、メタネーションの具体的なメリットを2つご紹介します。
- 大気中の二酸化炭素の量が増えない
- 環境への負荷を軽減できる
大気中の二酸化炭素の量が増えない
メタネーションのメリットの1つ目は、大気中の二酸化炭素の量が増えないことです。メタネーションを用いても二酸化炭素の量が増えない理由は、メタネーションの仕組みにあります。メタネーションでは、二酸化炭素と水素を反応させてメタンと水を生成します。もちろんメタンは燃料となる物質なので、燃やすと二酸化炭素と水が発生しますが、発生量はメタネーションの合成時に使った量のみです。結果的に二酸化炭素が循環しているだけで、二酸化炭素の排出量は増えていないため、気候変動対策になることがメリットです。
環境への負荷を軽減できる
メタネーションのメリットの2つ目は、環境への負荷を軽減できることです。メタネーションは、発電所や工場から生み出された二酸化炭素を用いてエネルギーを生成する技術です。そのため、メタネーション前後の二酸化炭素排出をゼロにすることができます。またメタンが天然ガスと同じ成分であることも着目すべき点です。そのメタンを再利用することで、従来の化石燃料に依存したエネルギーシステムから脱却し、よりクリーンなエネルギー源としての利用が可能となります。この循環型のプロセスは、持続可能なエネルギー利用を促進し、地球温暖化防止に貢献する重要な手段として期待されています。
メタネーションのデメリットと課題
メタネーションは、導入できれば脱炭素社会に向けて大きな役割を果たすと期待されています。しかしメタネーションを導入する段階では、いくつかの課題があります。次に主な課題点を2つご紹介します。
- 製造コストがかかる
- 設備投資
製造コストがかかる
メタネーションのデメリットの1つ目は、製造コストがかかることです。メタネーションは二酸化炭素と水素を反応させて、メタンと水を生み出しますが、原料である二酸化炭素を捕集する時や水素調達する時にコストがかかります。また脱炭素を実現するためには原料の水素は再生エネルギーを利用して製造された「グリーン水素」を用いる必要があります。脱炭素を目指したメタネーションの技術を用いるには、二酸化炭素・水素といった原料やエネルギーの確保と安定して供給できる体制をつくる必要があるため、設備及び製造コストがかかることがデメリットとなります。
大規模な設備投資コスト
メタネーションのデメリットの2つ目は、設備を作るにあたって莫大な費用がかかることです。メタネーション合成を行う際は、大規模の設備と広大な土地が必要となります。理由としては、メタネーションの反応を安全的かつ効率的に行うには、徹底した温度管理や触媒の適切な配置が必須であるからです。
現在、世界最大級と言われるメタネーションの装置は1時間あたり数十〜数百Nm3の合成メタンを生成しています。しかし商用化を考えた場合、1万〜6万Nm3の合成メタンを生成する必要があるため、現在の設備規模から、最低でも20〜100倍に拡大しなければなりません。それに対して周辺に広大な土地が必要であり、設備を作る費用もかかります。このように設備を大きくするために莫大なコストなどが必要なこともデメリットの1つです。
※Nm3(ノルマルリューベ)とは、圧力や温度、湿度が基準状態であるときの気体の体積を表す単位
メタネーションの現状
現在世界では、メタネーションの技術を用いた脱炭素社会に向けた動きが各地で見られ、メタネーションの研究も進行中です。そこで本章では、メタネーションの現状を日本と世界に分けてご紹介していきます。
日本の現状
日本では、2050年のカーボンニュートラル化に向けて、メタネーションを利用したさまざまな取り組みが行われています。特に国内では、特定の地域を利用した実証実験が進行中です。
例えば東京ガスと横浜市が連携したメタネーションの実証実験では、下水道センターの消化ガスや再生水などをメタネーションの原料として、合成メタンを生成する実証実験を実施しています。
この実験では、メタネーションの技術を利用して、再生可能エネルギーを用いたメタン変換が行われています。また日本独自のエネルギー事情に合わせた実験もなされています。これらの取り組みは、日本のエネルギー供給の多様性と安定化をもたらし、脱炭素社会への貢献が期待できるものです。
世界の現状
世界では、主にヨーロッパを中心にメタネーションの技術を用いた取り組みが進んでいます。特に海外メタネーション事業実現タスクフォースの第6次エネルギー基本計画では、「2030年に既存インフラへ合成メタンを 1%注入し、水素直接利用やバイオガス等その他の手段と合わせて5%のガスのカーボンニュートラル化」を目標としています。またガスの脱炭素に向けて、合成メタンだけでなくバイオガスなどの導入拡大も視野に入れており、合成メタンとバイオガス導入促進の設備が進行中です。
※バイオガスは、生ごみや紙ごみ、家畜のふん尿などのバイオマスを原料とし、微生物の力によって発生するガスのことです。このガスには「メタン」が含まれており、発電などのエネルギーとして利用できます
メタネーションの企業の取り組み事例
メタネーションを実用化するには、すでに導入している企業の取り組みを参考にするのがおすすめです。本章ではメタネーションを導入している企業の事例をご紹介します。脱炭素社会の実現に向けた取り組みを行う際には是非とも参考にしてみてください。
西松建設株式会社
「当社と国立大学法人横浜国立大学(学長:梅原出)ならびに三機工業株式会社(代表取締役社長:石田博一)は、二酸化炭素の回収・利用を実現するため、バイオメタネーション※1技術の研究開発に共同で取り組んでいます。本技術は、メタンへの変換にMBfR※2と呼ばれる膜技術を適用することで、二酸化炭素の分離精製から回収までをコンパクトに一体化した点が特徴です。このたび、本技術の開発成果が第60回環境工学研究フォーラムの環境技術・プロジェクト賞を受賞しました。
※1 バイオメタネーション
水素と二酸化炭素からメタンを生産するメタネーション技術のうち、微生物(主に水素資化性メタン生成古細菌)の反応を利用するもの。※2 MBfR
membrane biofilm reactorの略称。MABR(membrane-aerated biofilm reactor)と呼ばれることもある。気体透過膜の片側に生物膜を担持して、逆側から生物に用いる気体を供給する技術。膜を介した気体の供給は濃度勾配に応じた拡散現象であるため、曝気(気泡生成+撹拌)に比べて大幅な省エネとなる。また、気体を溶存状態で局所的に供給できるため、適切な制御の下では、供給した全量が生物膜内部で消費される」
引用:二酸化炭素の回収・利用に適したバイオメタネーション技術の研究開発を推進|西松建設株式会社
株式会社IHI
「IHIは、二酸化炭素(CO₂)と水素(H₂)を反応させて、1時間に12.5Nm³の合成メタン(CH₄)を製造する小型メタネーション装置の販売をこのたび開始します。本装置は工場や研究所、事業所などにおけるカーボンニュートラル実現に向けた検討のために,当社のメタネーション装置を試験運用したいという多数のニーズから製品化したもので、設計標準化により、導入コストを抑え、短納期での納入を可能としました。さらに、メタン合成に必要な機器をコンパクトな筐体にパッケージ化しているため、短期間で容易に据付することができ、かつ本装置を複数導入することにより、メタン製造量を拡張することが可能となります。」
引用:CO₂と水素から燃料をつくる,メタネーション装置を販売開始|株式会社IHI
まとめ
本記事では、メタネーションの仕組みや注目される理由、日本と世界の現状、建設業界における現在の取り組み事例をご紹介しました。日本が目指す脱炭素社会の実現において、メタネーションは有望な手段といえます。もちろん各地で導入できれば、環境だけでなく私たちの生活にも利便性をもたらします。しかしメタネーションの導入には、コスト面や設備面などさまざまな課題を抱えています。そのため技術が普及するには、これらの課題解決が必要です。しかし実現できれば、持続可能な社会に向けた大きな進歩が期待できます。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
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この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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