業界事例
2024/6/2 2024/9/25
住宅・建築物における環境性能評価ツールCASBEEがもたらす効果とは? 制度を運営するIBECsに聞く、CASBEEのポイント
IBECsについて
一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)は、住宅、建築、都市の分野におけるSDGsの推進に向けて、調査、研究、技術開発などを進めている団体です。特に、建築物等の環境性能評価ツールCASBEE®(キャスビー)に基づく評価員登録制度や評価認証制度の運営を担っていることで知られています。今回は、IBECs専務理事の長﨑 卓氏に、CASBEEの概要、開発の経緯、建設業界においてCASBEEが果たす役割などについてのお話をお聞きしました。
CASBEE:建物の環境性能を総合的に評価
CASBEEは、建築物等の環境性能を評価するためのツールとして、建築や不動産業界の中で広く知られています。建築物や街区、都市などに関する環境性能を総合的に評価するシステムで、2001年4月に国土交通省住宅局の支援のもと、産官学共同プロジェクトとして設置された「建築物の総合的環境評価研究委員会」によって開発されました。
長﨑氏は「建物の環境性能を総合的に評価する、いわば物差しが欲しいということでスタートしました。今でこそ、建築物や不動産を評価する手法として重視されていますが、開発当時からしばらくは不遇の時代が続きました」と振り返ります。「おそらく時代的に環境性能という部分への理解がまだ進んでいなかったのだと思いますが、経済原理だけでなく環境性能も大事だというように意識が変わってきて、施主側もその点を認識するようになって普及してきたのだと思います」
ターニングポイントの一つは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)という3つの要素を考慮して投資先を選定するESG投資の原則が世界的な流れとなった点だといいます。「ESG投資の流れの中で、海外だけでなく日本の企業経営者も環境を一つの評価基準として用いていこうという動きがあり、CASBEEへの評価が高まったのもそのあたりだと思います」(長﨑氏)
CASBEE認証物件数は増加しており、特に2021年以降の増加が著しい。
出所:一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センター(IBECs)
一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター
専務理事 長﨑 卓 氏
スケールや目的に応じた評価ツールを開発
CASBEEには、建物などを評価する建築系(住宅建築、一般建築)だけでなく、都市・まちづくり系(都市、まちづくり)や住宅系などさまざまな評価ツールがあり、全体を総称して「CASBEEファミリー」と呼ばれています。
出所:一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センター(IBECs)
CASBEEファミリーは、当初の新築建築物の評価ツールからその後、既存、改修等の評価が可能なツール、戸建や街区等様々な規模の建物評価が可能なツールを開発し、2012年には不動産評価への活用を目的としたCASBEE-不動産が登場しました。
「従来は建築物であれ戸建て住宅であれ、基本的に新築を対象にした評価が主でした。しかし、投資側のニーズもあって、従来よりも評価項目を減らして、かつ既存の建物を対象にしたCASBEE-不動産を新たに加えました。例えば、既存の建物であれば、エネルギーの消費性能などは実際にその建物を使ってみてどのくらい消費しているのかというデータに基づいて評価するので、データのない新築よりもある意味簡単にできます。古い建物でも改修することで性能がアップすることもあり、そこを評価することもできるようになりました」(長﨑氏)
評価する対象のスケールなどに応じて評価ツールを細かく設定することで、建築物等の目的に合致した評価が可能となったとのことです。
「最新のツールであるCASBEE-ウェルネスオフィスは、建物内で執務するワーカーの快適性、生産性向上に資する要素や、安全・安心に関する性能を客観的に評価する点に特化した指標として作られています。また、これらの評価ツールを活用し第三者が評価のお墨付きを与える認証制度の仕組みを設け、高い環境性能を有することを公にアピールできます。建物の用途に応じた評価法を用意するだけでなく、CASBEEの評価結果を誰がどう使うかまで考えて、評価ツールを開発しています」(長﨑氏)
また、一部の自治体では、一定規模以上の建築物について、環境に配慮していることを示す環境計画書等の届出を義務付けており、その際にCASBEEによる評価書の添付を必要とする制度を設けているところもあり、CASBEEを活用いただいています。
出所:一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センター(IBECs)
建設業界のSDGsを研究・開発で後押し
CASBEEの評価の仕組みとして、「Q(Quality)」という建築物の環境品質を評価する分野と、「L(Load)」という建築物の環境負荷を評価する分野があります。このQとLの2つの評価区分を用いることで、建築物の環境効率(BEE:Built Environment Efficiency )を指標として算出できるとともに、CASBEEには建築物のライフサイクルを通じたCO2排出量を比較的簡易に算定する機能もあります。
長﨑氏は「最近では、SDGsの視点から建物を評価する手法もCASBEEに取り入れてきました」と説明します。「住宅産業や建設業といった業界がSDGsを推進する上で、SDGsの観点から建物を評価することも、非常に重要な要素だと思います。一定の基準等がないとどこを目指していいのか判断が難しい。環境負荷の少ない建物などの技術開発は民間企業がどんどん進めていますので、我々も評価基準の研究・開発の部分で、企業のSDGs推進の一助となるよう、世の中の知見を集めていきたいと思います」
長﨑氏は「SDGsは企業の社会的責任の一つ」と位置付けます。「取り組みは大変ですが、CASBEEなどのツールも活用しながら推進していってほしいと思います。IBECsとしても、建物の環境性能評価に限らず、SDGsの観点から企業の取り組み全般の状況を測れるようなツールの開発やデータベースの整備、セミナーの開催などで、企業や業界の取り組みを後押ししていきます」と、心強いお言葉をいただきました。課題をお持ちでしたら今回を機に、活用を検討してみてはいかがでしょうか。
一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター
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※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年3月)のものです。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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