業界事例

時計 2024/6/19 アップデート 2024/6/24

不動産デベロッパーとして脱炭素に取り組む 大和ハウスグループの「脱炭素への挑戦」(後編)

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

前編では、大和ハウスグループの“将来の夢”(パーパス)、脱炭素(カーボンニュートラル)への挑戦、エネルギー消費や脱炭素の視点から見た街づくりなどについてお話しいただきました。

後編では、新築建物の原則全棟ZEH・ZEB化推進や、全棟太陽光発電搭載への取り組み、ICP制度導入の背景、脱炭素社会実現に向けた今後の展望などについてお聞きしていきます。

全棟ZEH・ZEB化、太陽光発電搭載を推進

大和ハウスグループは、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、バリューチェーン全体の温室効果ガス排出量を2030年度までに2015年度比で40%削減するという目標を掲げています。目標達成に向けた具体的な取り組みの一つが、販売する新築建物の原則全棟ZEH・ZEB化、全棟太陽光発電搭載の推進です。

ZEBにおいては、「先進技術でエネルギーをカシコク使う」をコンセプトにした環境配慮型建築「D’s SMART シリーズ」を2011年から展開。オフィスや店舗、工場など多様な用途の建築物における環境配慮技術をパッケージ化しています。

また、新築戸建住宅については、ZEH※1を推進しています。ZEHは、建物の断熱性能を高め、省エネ設備などを導入することで消費エネルギーを少なくし、さらに太陽光発電などにより再生可能エネルギーを創り出すことでエネルギー収支を正味ゼロとすることを目指す住宅です。賃貸住宅ではZEH-M※2対応商品「TORISIA(トリシア)」も発売しています。

小山氏は「環境配慮型建築がマーケットの中できちんと評価される土壌を作っていく必要があります」と話します。「例えば、再生可能エネルギーが使えるオフィスへの入居希望が高まっているという具体的な話などをエビデンスとして示し、投資家にも共有することで、マーケットの理解を得る取り組みを進めていく必要があります。環境配慮型建築をさらに推し進めていくためには、業界を挙げての取り組みが求められます」

出典:大和ハウス工業Webサイト

※1:Net Zero Energy Houseの略称で、断熱と再生可能エネルギーによって消費電力をゼロに抑えることを目指した住宅のこと
※2:Net Zero Energy House Mansionの略称で、ZEHは戸建・マンションの住戸を対象とし、ZEH-Mはマンションの住棟のみを対象とする

インターナルカーボンプライシング制度を導入

不動産開発におけるZEH・ZEH-M・ZEB※3を加速させる一つの手段として2023年4月に、社内の投資用不動産の投資判断基準としてICP(インターナル カーボン プライシング)制度を導入しました。ICPとは、企業が独自にCO2排出量に価格を設定し、CO2排出量削減効果を金額換算することで、脱炭素投資を推進させる効果が期待できます。

「導入のきっかけの一つは、環境配慮と経済の両立をいかに図るかという課題です。これは社内でも長く議論されてきました。開発段階で環境に配慮しようとすると、どうしてもコスト高になって事業収支に影響が出る。この問題をどうにかするためには、環境価値を経済価値に換算して投資判断に組み入れることが不可欠だと考えました。当社は、金利の上昇リスクなどを踏まえて2023年2月から社内の投資用不動産の投資判断基準を少し上げたのですが、そうなると環境に配慮した案件が減る恐れもあったため、ICPを活用することで、脱炭素に資する開発案件を着実に増やしていく環境整備をしたということです」(小山氏)

社内炭素価格は20,000円/t- CO2で、Nearly ZEBまたはNearly ZEH-M以上の建物に適用する。炭素価格の設定について小山氏は「20,000円/t- CO2という価格はアグレッシブな数字だと思います」と話す。「不動産は長期にわたって使用されるものなので、現在の炭素価格よりも将来の価格を見据えて設定しました。国際機関の予測では2050年で30,000円くらいの数字が出されています。※4もうひとつの設定理由は、投資判断に影響する数字かという点です。いろいろとシミュレーションをするなかで、投資判断にも効果があるという確認ができたため、20,000円という価格を設定しました」

ICPの導入は、業界にもインパクトを与えたという。「環境省のモデル事業として進めたという点もあって、業界の方々からもお問い合わせをいただいたり、ヒアリングにお答えしたりしています」(小山氏)

《ICPの概要》

出典:大和ハウス工業Webサイト

大和ハウス工業株式会社
経営戦略本部 サステナビリティ統括部長
小山 勝弘 氏

※3:Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。

※4:環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン~企業の脱炭素投資の推進に向けて~(2022年度版)」より参照。

資材メーカーなどベンダーとの協働も

脱炭素社会の実現に向けては、ZEBの推進などデベロッパーとしての取り組みだけでなく、他社との情報共有やベンダーとの協力体制づくりも欠かせない要素です。小山氏は「2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、建物のライフサイクル全体を見通したときに、CO2排出量を予めどれだけ削減できるかが非常に重要」と指摘します。「いわゆる建物使用におけるCO2排出量削減だけでなく、資材・建材レベルでの削減に、メーカーさんと一緒にいかに取り組んでいくかという点が今後の大きな課題だと思っています。大和ハウスグループには、ゼネコン、ハウスメーカーという側面もあり、資材メーカーさんと直接の取引があるため、資材の購入先にはCO2排出量削減の実績や目標を報告していただいています。毎年約200社の主要サプライヤーを対象にアンケートを取っているのですが、約9割の企業が自主目標を設定しており、そのなかで約4割がSBT水準※5の削減目標を立てて下さっており、仲間がだんだん増えてきたような実感を持っています」

大和ハウスグループはカーボンニュートラル戦略の推進に対して「2030年までに、やれることはすべてやる」という基本姿勢を示しています。

小山氏は「脱炭素をさらに進めていくためには、環境価値が資産価値と結びついてビジネスの基本的な部分に組み込まれていく必要があります」と強調します。「長期投資家やESGアナリストからは脱炭素への取り組みに対して好評価をいただきますが、短期的な目線からはコスト高を懸念する声も聞かれます。ただ最近は、経営説明会などでも環境配慮型建築の進捗状況について質問が出るなど、投資家の意識変化も感じています。こうした流れはカーボンニュートラルへの取り組みを推進する上で不可欠なため、業界を挙げて確実なものにしていきたいと思います。さらに、アップフロント側のCO2排出量削減については、脱炭素型の資材が優先的に採用されるような仕組み作りが必要になると考えています。カーボンニュートラルへの取り組みがビジネスの中でしっかりと評価され、標準化される流れができるよう、業界全体としても取り組んでいきます」(小山氏)

※5:パリ協定に基づく温室効果ガス排出削減目標を立てていることを示す国際認証。大和ハウスグループの「SBT水準」の目標レベルは、WB2℃水準(温室効果ガス排出量を毎年2.5%以上削減)としている。

大和ハウス工業株式会社
経営戦略本部 サステナビリティ統括部長
小山 勝弘(こやま・かつひろ)氏

1970年滋賀県生まれ、京都大学工学部にてシステム工学を学んだ後、1992年大和ハウス工業入社。入社後、大阪工業大学で建築を学び、2006年まで本社設計部門にて、「大和ハウス大阪ビル」「石橋信夫記念館」など、大型建築プロジェクトの設計・デザインを担当。2006年より本社環境部門にて、大和ハウスグループ全体の環境マネジメントを統括。環境経営戦略の立案、気候変動対策の推進等に従事。2015年から環境部長、2024年より現職。一級建築士、CASBEE評価員(戸建・建築・不動産)

終わりに

新築建物の原則全棟ZEH・ZEB化、太陽光発電搭載推進への取り組みや、ICP制度のいち早い導入など、カーボンニュートラルに向けたアグレッシブな取り組みの背景には「やれることはすべてやる」というグループの基本姿勢が伝わってきました。個人の戸建住宅からオフィスや店舗まで、幅広い用途の建物を供給するなかで培ってきた省エネやCO2削減に資する技術や経験があるからこそ、新しいチャレンジが可能になっているのではないでしょうか。

「脱炭素化への取り組みとは、将来世代の“生きる”を支えていく取り組み」という小山氏の言葉は、カーボンニュートラルを推進する上で欠かせない視点だと感じました。

※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年3月)のものです。

 

前編はこちら:
不動産デベロッパーとして脱炭素に取り組む
大和ハウスグループの「脱炭素への挑戦」の概要(前編)

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