業界事例
2024/8/5 2024/9/24
建築物ホールライフカーボン算定ツールJ-CATをリリース 開発背景と特徴、今後の展望をIBECsに聞く
はじめに・J-CAT=ジェイキャットとは
産官学連携による「ゼロカーボンビル推進会議」(委員長:村上周三IBECs理事長)は、原材料の調達から廃棄まで建築物が関係する全段階において排出するCO₂量を算定する「建築物WLC算定ツール建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT=ジェイキャット)」を開発、2024年5月にβ版を公表しました。
同会議事務局を務める一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センター(IBECs)専務理事の長﨑卓氏に、J-CATの特徴や開発の背景、建設業界におけるCO₂排出量削減に与える影響などについてお話を伺いました。
産官学連携で算定ツールを開発
資材調達から建設、運用、解体・廃棄まで建物が関係する全ての段階において排出するCO₂量をホールライフカーボンと言います。J-CATはこのホールライフカーボンを算定するためのツールです。
長﨑氏は「運用時だけでなく、建物のライフサイクル全体を通じたCO₂排出量を減らしていこうというのが世界の流れ」とホールライフカーボンに注目が集まっている現状を説明します。
「建物運用時のCO₂排出量自体は、省エネ技術の開発でどんどん下がっています。そうすると建設や修繕、解体のときに排出するCO₂の割合が相対的に高くなってくるわけです。
ライフサイクル全体を通じてのCO₂排出量を規制しようという動きが欧米を中心に高まるなか、日本においても国土交通省の支援のもと、産官学連携による『ゼロカーボンビル推進会議』が2022年12月に発足しました」
推進会議では、ホールライフカーボンの算定手法の開発を始め、関連する建材等のデータベース整備、関連する海外情報の収集などについて検討を進めてきました。
不動産協会や日本建築士事務所協会連合会、日本建設業連合会などとも連携。国土交通省、環境省、経済産業省、林野庁もオブザーバーとして参加しています。
出所:一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センター(IBECs)
一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター |
利用目的に合わせた3つの算定法
J-CATの特徴の第一は、ホールライフカーボンの算定が可能な点です。原材料の調達段階から建物解体後の廃棄物処理段階まで区分ごとに算定できます。
「原材料の調達段階からというと、例えば鉄骨なら、海外で鉄鉱石を掘り出すところから始まり、製鉄して鋼材にして鉄骨に加工するといった全工程が対象になります。
日本建築学会が、産業連関表に基づいて、例えば鉄骨1kgを使うとその製造過程も含めてどれくらいのCO₂が排出されるのかというデータベースを持っているので、算定はこのデータベースにまず基づいて行います」(長﨑氏)。
出所:一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センター(IBECs)
特徴の第二は、利用目的に合わせた3つの算定法を提供する点です。設計から竣工まで最も標準的な利用を想定した標準算定法、設計初期段階での概算用を想定した簡易算定法、特に詳細な分析・検証に用いる竣工段階の詳細算定法の3つを整備しました。
「ホールライフカーボンの算定には、建築物の資材数量の入力が重要ですが、J-CATの簡易算定法では、躯体を構成する鉄、コンクリート、木材などは実際の資材数量を入力してもらう一方で、他の建築資材や設備については、建物の規模等に応じて統計資材数量が半自動的に入力されるようになっており、使用目的に応じた使い勝手を考慮したものになっています。
また、IBECsが提供している環境性能の総合評価ツールであるCASBEE(キャスビー)では、例えば鉄筋コンクリート造の事務所の場合、建設時は平米当たりこれぐらいのCO₂排出量が生じるという原単位を設定して、それに基づいてホールライフカーボン(CASBEEではLC CO₂)の概算値を計算するというさらに簡易なツールも用意しています」(長﨑氏)
出所:一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センター(IBECs)
データベースの整備、充実を図る
公表されたJ-CATは、原則として使用登録者に対して無償で提供されます。使用登録者に対しては、使用方法の解説や算定事例紹介を行う使用登録者限定講習会の開催などがある一方、J-CATを使って実際の建築物について算定を行った場合に、算定結果(匿名化したデータ)の報告が求められます。
今後のJ-CATの改良やいわゆる「相場観」形成の基礎データとして活用するためです。長﨑氏はまた、「J-CATのブラッシュアップや普及には、建築資材や設備、部品に関するCO₂排出量に関するデータを充実させていくことが欠かせません」と話します。
「ホールライフカーボン算定の基礎となる資材等のデータベースの体系をどう作っていくのかという議論もすでに始められており、もっと実用的な、国際的にも通用するEPD(環境製品宣言)によるデータベースを構築していくのが目標です」(長﨑氏)
長﨑氏は、J-CATが、環境に配慮した資材や製品の普及を後押しする一助となることを期待しています。「例えば、あるコンクリートメーカーが製鉄所で出たスラグを使ったコンクリートを作る場合、一般的な石灰石から作る場合よりCO₂排出量は少ない。そういう取り組みを個別に評価し、算定できるデータが揃えば、CO₂排出量削減に向けてより努力した企業が評価されることになりますし、環境に配慮した製品の普及にもつながるかもしれません。ゼロカーボンビル推進会議としても、データベースの整備・充実を通じて環境に配慮した製品が増えるような枠組みを後押し、ひいてはそうした商品を使う企業がもっと増えていくような流れを作っていきたいと思います」
ホールライフカーボンを算定することで、建設業界だけでなく、施主や一般消費者の意識改革にもつなげたいという期待も込められています。
長﨑氏は「推進会議には、業界から多くの参加をいただき、皆さんの関心も高いので、試しにJ-CATを使ってみよう、という企業は多いのではないでしょうか」と話します。「CO₂排出量の算定や削減には手間もお金もかかります。
そのコストに対しては、最終的には施主の理解が欠かせません。CO₂排出量が少ないビル、といっても実感しにくいですが、J-CATのような算定ツールがあることで目に見えないものをわかりやすくすることはできると思います。
現在は投資判断の指標としてCO₂排出量に注目するということが先行していますが、将来的には、マンション購入判断の指標の一つにするというユーザーも必ず出てくると思いますし、CO₂排出量を算定することへの意識が高まり環境が整ってくれば、近い将来何らかの制度化にもつながり、広く普及するのではないかと期待しています」
一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター
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※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年3月)のものです。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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