業界事例
2024/9/25 2024/10/30
スターツCAMの脱炭素戦略 PAS 2080認証取得、BIM活用、免震技術と脱炭素の関係(前編)
はじめに
スターツCAM株式会社(以下、スターツCAM)は2024年2月、PAS 2080に基づいたカーボンマネジメントの取り組みの認証を取得しました。スターツCAMの認証取得は、設計施工会社としてはアジアで初めての例となりました。
PAS 2080認証取得までの歩みや、認証取得の効果、スターツCAMが進めるBIM活用や免震技術とカーボンニュートラルとの関係などについて、環境・設備統括部長の吉田一則氏と環境計画部室長の村蕃大貴氏にお話しいただきました。
利害関係者に対しより透明性の高い指針を
PAS 2080は、建設及びインフラプロジェクトにおける温室効果ガスの排出を管理・削減し、気候変動への影響を最小限に抑えるための指針を提供するカーボンマネジメントの公開仕様書です。
認証取得のきっかけについて、吉田氏は「脱炭素戦略を進める上での何らかの指針になるのではないかと考えました」と説明します。「脱炭素に取り組んでいく必要があるというのは明らかなのですが、肝心の何をしたらいいのかというときに、自社だけで目標を掲げて取り組むだけでは、ステークホルダーに対して、透明性や説明根拠という点で弱いと感じておりました。そのような状況で、以前より、お付き合いがあったBSIグループジャパン様よりPAS2080の事を伺いました。PAS2080は単純に自社でCO2排出量を算定して、削減するだけではなく、さまざまなステークホルダーを巻き込んで脱炭素に向けた指針になっています。そのため、他社が設計したものを施工するという立場ではできることが限られてしまいますが、弊社はお施主様に近い立場で提案することが多いため、弊社のような会社にはPAS2080に基づいたカーボンマネジメントの取り組みがとても合っていると感じております」
PAS 2080認証書と規格書
建設統轄本部 執行役員 環境・設備統括部長 吉田 一則 氏
ガイドラインと業務フローをリンク
設計施工会社としてはアジア初の認証であり、取得まではさまざまな苦労があったと言います。「公開仕様書は元々英国で作られたものなので全て英語です。その英語のニュアンスがものすごく難しくて、直訳すると意味が違ってくるため、実際の業務とどう関係してくるのかという解釈のハードルが高かったです。また、英国と日本では建設業の慣習も違うためそこのハードルも高かったです」(村蕃氏)
膨大な量のガイドラインを一つひとつ訳し、建設業界や自社の業務フローとリンクさせていく地道な作業を環境計画部で進めていきました。村蕃氏は「仕様書を訳して業務にリンクさせていくのは大変でしたが、こういう明確な基準があると、現場に説得しやすい。何もない状態で脱炭素に取り組んでください、と言うよりも、仕様書を示してこれに沿って進めましょうと言う方が、現場もわかりやすいですし、私たちも推進しやすいと感じています」と効果を実感しています。
対外的な部分ではどのようなメリットがあるのでしょうか。吉田氏は、第三者認証を得た手法に沿って、建物全体のカーボンマネジメントに取り組める点を挙げます。「ひとつの建物を建てるに当たっては、お施主様や融資先の金融機関、我々が発注する協力業者様やメーカーなどさまざまなステークホルダーが存在します。建物のカーボンマネジメントを進めるには、こうしたステークホルダーと一体となって行うことが必要です。そのとき、弊社としては認証を取ることによって、我流で物事を進めているわけではなく、第三者にもきちんと認証された手法でカーボンマネジメントを提案できるという一種の信頼性の担保みたいな部分があると思います」
建設統轄本部 設計部 環境計画部 室長 村蕃 大貴 氏
通常業務に環境施策を融合
スターツCAMでは2021年9月着工の新築現場から、工事用電力に再生可能エネルギー100%の電源を導入しています。こうした脱炭素関連の施策を推進するにあたり、スターツCAMでは、社員の環境への意識づけを重視しています。「建設会社は、脱炭素社会、循環型社会とは切っても切れない関係にあることから、脱炭素に取り組むことは企業命題であると思っております。ただ、そこに実が伴っていないのでは意味がない。弊社ではCO2排出量削減等の目標を掲げるのも必要ですが、まずは社員への浸透が重要と考えております。
社員一丸となって取り組んでいくスタイルが我々の会社の理念にも非常に合っているので、まずは社内の統制を図りながら、社員教育も含め各目標を立てていくところからスタートしています」(吉田氏)
「環境施策を推進している部署など一部の人が頑張っても脱炭素は進まないので、CO2削減の施策を通常業務に落とし込もうとしています。新しいことをやるとなると、社員にとっては仕事が増えるという負担感がある。その点で非常にハードルが高くなり環境施策が浸透しにくい現状があります。そこで、通常の業務のなかに融合させることで、社員が負荷を感じないような業務フローを構築しています」(村蕃氏)
出典:240520スターツ環境取り組み資料(DRAFT) 1
スターツCAMの事業領域における各種マネジメント要素を可視化した図。
マネジメントシステムを構築することで、様々なステークホルダーに対して透明性を確保し、スターツCAM社員への理解浸透をめざしている。
建設統轄本部 執行役員 環境・設備統括部長 |
前編では、PAS2080認証取得までの経緯や、取得後の効果、脱炭素関連の施策を進める上での社内環境の醸成などについて伺いました。
後編では、BIMの活用による建物のライフサイクルにおけるCO2削減への可能性、免震技術と脱炭素との関係などについてお聞きしていきます。
※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年6月)のものです。
後編はこちら:スターツCAMの脱炭素戦略PAS 2080取得、BIM活用、免震技術と脱炭素の関係(後編)
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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