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スターツCAMの脱炭素戦略 PAS 2080認証取得、BIM活用、免震技術と脱炭素の関係(後編)

スターツCAMの脱炭素戦略

前編では、PAS2080認証取得までの経緯や、取得後の効果、脱炭素関連の施策を進める上での社内環境の醸成などについて伺いました。

後編では、BIMの活用による建物のライフサイクルにおけるCO2削減への可能性、免震技術と脱炭素との関係などについてお聞きしていきます。

CO2排出量削減にBIMが貢献

スターツCAMが国内の建設会社の中でも先駆けて導入しているのが、BIM(Building Information Modeling)です。BIMとは、コンピューター上に作成した3次元の建物モデルに、形状情報だけでなく、建物のコストや仕様、性能、管理などの属性情報を加えたシステムのことをいいます。建物のデータベースとして、建築の設計、施工から維持管理までの各工程で情報活用を行うことができます。

「弊社では10年前に導入開始して、今では設計・工事社員にライセンスを付与してBIMを使用できる環境を構築しています。建設業界は、設計、施工、管理と各工程を別の会社が担当することが一般的です。そうすると、設計、施工段階でBIMを使っても、その後の管理段階が対応できないと尻切れトンボで終わってしまいます。その点、弊社は、お客様への提案から、設計、施工、管理とグループ会社として一気通貫で仕事ができる点を強みとしています。BIMを導入しやすい環境があるので、他社との差別化の面からも力を入れています」(吉田氏)

吉田氏は、建物のライフサイクルにおけるCO2排出量削減にBIMが貢献できる可能性を示唆します。「BIMの活用は、建物のライフサイクルにおける脱炭素に関してかなり大きな可能性を秘めていると感じております。BIMモデルは情報の塊で、設計初期段階のデータで詳細度が低いモデルであっても、ある程度正確な数量を算出することが可能なので、随時エンボディドカーボン※1を算出することも可能になります」

「改修も利用ができ、竣工図と現地調査から既存の建物のBIMモデルを作成することで、その建物で使用している材料の数量が算出できます。それを利用することで、照明をLEDに交換すると年間でどのくらいのCO2排出量が削減できるかも検討できます」(村蕃氏)

建物の情報をBIMモデルに一元化することで、データ活用による様々なCO2削減策を立てることが可能になるのです。吉田氏は「BIMモデルから自動積算技術を利用して、CO2排出量とコストの比較が容易にできるようになると思っています。また、BIMモデルに設備機器の情報が入力されていれば、BIM-FM※3との連動も可能になり、オペレーショナルカーボン※2も算出が容易にできるようになると思っております」と期待を込めます。

BIM 属性情報イメージ

BIMの属性情報のイメージ

建設統轄本部 執行役員 環境・設備統括部長 吉田 一則 氏

建設統轄本部 執行役員 環境・設備統括部長 吉田 一則 氏

建設統轄本部 設計部 環境計画部 室長 村蕃 大貴 氏

建設統轄本部 設計部 環境計画部 室長 村蕃 大貴 氏

※1建物の生涯を通じて排出されるすべての温室効果ガスの総量
※2建物の使用中に排出されるGHG排出量のこと
※3BIMモデルの属性情報を利用して、施設の運営や管理に利用するシステム

免震による建物の長寿命化

さらにスターツCAMが注力する技術のひとつが免震です。免震は、建物と基礎との間に、免震装置と呼ばれる特殊な緩衝材を組み込むことで、地震の揺れが直接建物に伝わることを防ぎ、地震の被害を抑制するものです。耐震とは異なり、地震の揺れを受け流すことで建物の倒壊などを防ぎます。吉田氏は「免震の建物は長寿命化に貢献できると考えております。建築物のエンボディドカーボンは躯体の部分が8割を占めるため、躯体を長く利用できる方が、建物のライフサイクルにおけるCO2排出量は少なくなります」と話します。

スターツCAMでは、木の軽さを活かした木造とRC造のハイブリッド免震の開発など新しい技術開発にも力を入れています。

「地震発生時に、免震技術は人と建物を守る上でとても有効な技術です。また、建物の躯体の損傷が少ないということは、その躯体の修繕も少なくなるため、環境を守る上でも有効な手段だと考えております。また今後は建物の躯体を残してのリノベーションが多くなってきています。建物のCO2排出量削減の観点からしても、建物の土台となる躯体を残して洗練させる方が、全部壊して建て替えるよりも優位です。免震技術と組み合わせて、骨組みを残しながらリファインなりリニューアルしていく手法も、これから注目されていくかもしれません」(吉田氏)

高層ハイブリッド木造免震ビル

高層ハイブリッド木造免震ビル

お客様の喜びにつながる提案

BIMの活用と免震技術というビジネス上の大きな柱が、環境への取り組みと密接に結びついているのも、スターツCAMの環境施策の大きな特徴です。吉田氏は「弊社は『お客様に喜びを』を創業当時から社訓の第一に掲げており、お客様に喜んでいただくために何が提供できるかをまず考える。CO2排出量削減に関しても、我々建設業に何ができるかを考えて、社会貢献できる会社として取り組んでいきたい。まずは提案することが大事。社員にとっても、環境への取り組みがが多少の業務負担になったとしても、次のビジネスにつながることで、モチベーションの向上にもつながると考えています」と力を込めていました。

スターツ 吉田氏 村蕃氏

建設統轄本部 執行役員 環境・設備統括部長
吉田 一則(よしだ・かずのり)氏【写真右】
建設統轄本部 設計部 環境計画部 室長
村蕃 大貴(むらしげ・だいき)氏【写真左】

建設統轄本部 執行役員 環境・設備統括部長 吉田 一則(よしだ・かずのり)氏【写真右】

建設統轄本部 設計部 環境計画部 室長 村蕃 大貴(むらしげ・だいき)氏【写真左】

終わりに

設計施工会社としてはアジアで初めてPAS 2080の認証を取得したスターツCAM。建物の設計、施工から管理まで自社グループで請け負うことができる強みを生かしつつ、認証取得はステークホルダーに対してカーボンニュートラル施策への説得力を持たせるという大きな効果を生んでいます。さらに、BIMの活用と免震技術という2本柱を、CO2排出量削減と巧みに融合させることで、社員の環境に対する意識醸成にも寄与しています。既存の業務の中に環境施策を溶け込ませることで、社員一丸となって取り組む環境づくりへとつながっているようです。

組織名・役職などの情報は取材当時(20246月)のものです。

前編はこちら:スターツCAMの脱炭素戦略 PAS 2080認証取得、BIM活用、免震技術と脱炭素の関係(前編)

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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