業界事例
2024/10/30 2024/10/30
西松建設の「カーボンニュートラル社会移行計画」の全容と注力施策(後編)
前編では、「カーボンニュートラル(以下、CN)社会移行計画」策定の経緯、再生可能エネルギーの導入、建設現場におけるCO₂排出量削減に向けた各種取り組みなどについてお話しいただきました。
後編では、CO₂排出量削減に向けた社内機運の醸成、協力会社との連携、「気候関連リスクおよび機会の対応計画」などについてお聞きしていきます。
社内外の連携で進む脱炭素への理解
「西松建設では、2050年のCN社会実現のために脱炭素に向けた取り組みを推進するなど全9項目から成る環境方針を定めています。元々、西松建設のCO₂排出削減計画として『ZERO30ロードマップ2023』があり、これは『CN社会移行計画』の2030年のマイルストーン的な位置づけになります。今回、ZERO50へのステップアップにになりますが、CNを前提とした環境方針の存在やZERO30ロードマップ2023の進捗から、社内でのカーボンニュートラルに向けた理解はかなり浸透しているといいます。「目指すべき方向性はCNということが各事業本部とも共有できており、意識を持って事業活動を展開していると感じています。支社に関しても、各社ごとにCO₂排出量削減目標を割り付けていますが、目標達成に向けそれぞれに努力しています。こうした取組みがZERO30の頃から浸透してきていますので、CNへの理解も無理なく受け入れてもらえていると感じています」(長谷川氏)
西松建設では社内だけの取り組みにとどまらず、下請けなど協力会社との連携にも力を入れているようです。
「当社の協力会社さんで運営している『Nネット』という会があるのですが、当社の環境への取り組みに関してアンケートを実施しました。そうすると、約半数の協力会社さんが、当社と一緒に取り組むことができる施策として脱炭素を挙げていました。CNに向けた取り組みの必要性については協力会社さんの理解も進んでいるなと感じたところです」(千田氏)
2023年3月には、調達方針のガイドラインを策定し、協力会社にも協力を仰ぎました。千田氏は「お願いする姿勢ではいずれ限界がきてしまう。ゆくゆくは協力会社さんが一層CO₂排出量削減に取り組みやすいような施策を考えていく必要があると思います」と話します。
安全環境本部 地球環境部 環境戦略課長 長谷川 真也 氏
安全環境本部 副本部長 千田 雅人 氏
情報開示でステークホルダーの信頼を得る
松建設は戸田建設と共同でコンクリートの材料起源のCO₂排出量を最大85%削減できる「スラグリート®」を開発しました。さらに、CO₂を吸収・固定化した炭酸カルシウムを材料として使用し、材料起源のCO₂排出量が計算上ゼロとなるカーボンネガティブコンクリートの開発にも取り組まれています。
「主要な建設資材であるコンクリートの製造時には多くのセメントを使用し多量のCO₂を排出しています。コンクリート材料起源のCO₂排出量削減に向けて、当社は技術研究所を中心として、高炉スラグを材料として使用した、いわゆるネガティブコンクリートの開発に着手したところです。
また、Scope3で大きな割合を占めるのが、コンクリートを含む材料部分であるカテゴリー1なのですが、そもそも自社でどれくらいの材料を使って、CO₂をどれだけ排出しているかをしっかり把握できていないという課題があり、さまざまなCO₂削減技術を進めつつ、建設資材全体の現状把握を効率的かつ正確に行う仕組みづくりに着手しようとしているところです」(千田氏)
「CN社会移行計画」のもう1本の柱として「気候関連リスクおよび機会の対応計画」があります。千田氏は「『CN社会移行計画』の明確な目標としてCO₂ネットゼロがありますが、それにプラスして、気候関連のリスクの回避あるいは低減、機会獲得といった対応計画に明確な定量目標を定め、達成度と取組み進捗率を公表しています」と話します。「例えばネガティブコンクリートに関しては、現在まで実績がなく達成度ゼロ%です。取組みの進捗状況も「計画に対して遅れ」という状況でありますが、このような状況ををしっかり外部の方にお見せする形にしました。宜しくない状況であっても開示する姿勢がステークホルダーの皆様に対する誠実な対応だと考えたわけです。こういった資料を開示し明性を高めることで、ステークホルダーからの信頼度も上がってくるのではないでしょうか」(千田氏)
カーボンネガティブコンクリートの実証実験
出典:西松建設WEBサイト
地域に寄り添い社会課題を解決
西松建設は、サステナビリティスローガン(基本方針)の中で「私たちは地域に寄り添いながら様々なパートナーとの連携を駆使して、社会課題を解決したい」という一文を掲げています。千田氏は「『CN社会移行計画』の最終目標は、CO₂ネットゼロであり、ゼロに向かう中でリスクの回避と機会獲得を目指すという点にあります、しかし、そのプロセスにおいては、スローガンの中で示しているように、地域に寄り添い、社会課題の解決に貢献していくという姿勢が何よりも重要なことではないかと考えています」と話します。
安全環境本部 地球環境部長 豊村 勝(とよむら・まさる)氏【写真左】 安全環境本部 副本部長 千田 雅人(ちだ・まさと)氏【写真中】 安全環境本部 地球環境部 環境戦略課長 長谷川 真也(はせがわ・まさなり)氏【写真右】 |
前編はこちら:西松建設の「カーボンニュートラル社会移行計画」の全容と注力施策(前編)
終わりに
2050年のCN社会の実現に向けた計画策定の背景には、2030年までの目標達成に向けた着実な歩みがありました。再生可能エネルギーやバイオディーゼル燃料の導入に加え、電動の新型建機や環境配慮型コンクリートなど新技術に対しても積極的に取り組んでいます。さらに協力会社との連携により、多方面からCO2排出量削減を推進しています。
そこには、サステナビリティスローガンに掲げた「社会課題を解決したい」という思いが根底に流れていると感じました。単なる目標達成にとどまらず、CO2排出量削減に取り組むことで、どのような社会貢献ができるかという考え方が印象に残りました。
※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年8月)のものです。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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