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2024/10/30 2024/10/30
CO2排出量実質マイナスへの挑戦 国内初の商用実装 「ネガティブエミッション技術」をバイオマス発電所へ
CO2排出量実質マイナスへの挑戦
中国電力は2024年9月、防府バイオマス発電所(山口県防府市)で、バイオマスエネルギー利用時の燃焼により発生したCO2の回収・貯留(CCS)設備の設計・検討に着手したと発表しました。バイオマス発電にCCSを組み合わせたBECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage)の国内初となる大規模な商用実装となるもので、2030年度の導入を目指しています。
当該の技術概要、プロジェクトの効果や将来的な期待などについて紹介します。
燃焼時に発生するCO2を回収
今回、中国電力が導入を目指すBECCSはネガティブエミッション技術のひとつ。ネガティブエミッション技術とは、大気中のCO2を減少させる技術のことを言い、大気中から直接CO2を回収して貯留するDACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage)を始め、植物によるCO2吸収量を高めるための植林や森林管理、海洋生態系の再生にまつわる技術など、さまざまなアプローチがあります。
BECCSは、バイオマス発電とCCSを組み合わせることで、CO2排出量をマイナスにすることが実質的に可能になるとされています。従来の木質由来のバイオマス発電は、燃焼時にCO2を発生させますが、原料となる植物は成長過程で大気中のCO2を吸収するので、実質的なCO2排出量はゼロになるとされています。さらにBECCSの場合は、燃焼時に発生するCO2も回収・貯留するので、CO2排出量を実質的にマイナスにすることができるとされています。
従来のバイオマス発電とBECCSの違い(イメージ)
今回のプロジェクトは、中国電力が独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)から令和6年度「先進的CCS事業に係る設計作業等」に関する委託調査業務として受託したもの。中国電力を始め、住友重機械工業、東芝エネルギーシステムズ(東芝 ESS)、日揮グローバルの4社が共同で進めます。
中国電力の役割は、CCS設備の全体配置計画の策定や、CO2分離回収から払出までの全体コスト評価など。また、全体の取りまとめを行う立場として、CO2輸送・貯留事業者との協議・調整、発電所周辺の事業者や地元行政との協議や必要な手続きの実施、JOGMECへの報告書作成等を行います。
新たにCO2回収設備を導入するにあたり発生する、防府バイオマス発電所のボイラ設備の改造は住友重機械工業が担当します。東芝ESSは、2016年に環境省の「環境配慮型CCS実証事業」を受託した経験から、バイオマス発電所からのCO2分離回収技術の知見を有しており、分離回収設備の設計・検討を担います。さらに、CO2液化・貯蔵・払出設備の設計・検討は日揮グローバルが担当します。
BECCSの優位点と社会実装への道筋
ではなぜ中国電力はBECCSの導入を目指すのでしょうか。ひとつはコスト面の優位性です。BECCSはCO2の分離・回収から貯留までの要素技術が確立されており、バイオマス発電所の排ガスという比較的CO2濃度の高い排出源からCO2分離・回収を行うため、ネガティブエミッション技術のなかで相対的にコスト優位といわれています。
さらに、既存の発電設備の改修でBECCSを導入できれば、ネガティブエミッション技術の社会実装にとっても近道となります。
防府バイオマス発電所の使用燃料は、約45%が石炭で、残りの約55%をカーボンニュートラル燃料である木質系バイオマスが占めており、排ガス中CO2量の約80%回収を目指しています。これが実現すれば石炭の燃焼に伴って排出されるCO2を全て回収したうえで、さらにバイオマス由来のCO2も回収・貯留することとなり、ネガティブエミッションを達成することが可能になります。
BECCS によるネガティブエミッションの実現(イメージ)
国内展開に向けた課題解決への期待
BECCSの導入に関しては、北米および欧州の動きが先行していると言われています。北米では、既に複数のBECCSが操業を行っており、大規模なものではCO2回収量が100万トン/年に及ぶものもあります。欧州では特に英国が推進しており、大手再生可能電力サプライヤーのDrax社が大規模なBECCS事業の導入に向けて、所有する2つの発電所の改修計画について英国政府の承認を取得しています。
日本国内でも、2023年度から経済産業省・JOGMECの先進的CCS事業が始まっています。半面、CCSの導入に当たっては、コスト高、CO2貯留地の確保、国民理解の醸成等が課題として挙げられており、先進的CCS事業を通じてこれらの課題をクリアすることが期待されています。
日本全体でのCO2排出量削減を考えると、製鉄やセメントなど、その生産プロセスから燃料、原料の転換が難しく、CO2排出量削減が困難な産業分野があります。大気中のCO2を減少させるネガティブエミッション技術は、これらの産業から排出されるCO2を相殺してカーボンニュートラルを実現する上で不可欠な技術といえるでしょう。
2024年度先進的CCS事業採択案件(出典:JOGMEC WEBサイト)
CCSについては、技術的に概ね確立されており実用段階にあるといえますが、事業成立性・採算性の面ではいくつかの課題が指摘されています。このため、政策面では、建設、運用時だけでなく、経済的に自立するまでの期間における支援制度の構築が検討されています。また、CO2分離・回収プロセスのエネルギー効率向上、液化CO2輸送船の大型化に向けて研究開発が進められています。
海外へのCO2輸送・貯留に向けて、ロンドン議定書に沿った政府間協議を進めるとともにCCS導入に関する国民理解の増進に向けた取り組みを行うこととしています。
国内でのCCSは、北海道苫小牧市においてCO2の回収から貯留までの大規模実証試験が実施されています。バイオマス由来のCO2の回収と利用については、比較的小規模ながら国内で複数の導入事例があります。
中国電力は、エネルギーに携わる企業として、安全の確保を大前提として、環境への適合、安定供給、経済性の同時達成による持続的発展が可能な社会の実現を基本的な方針として掲げています。気候変動対策に関しては、発電事業からのCO2排出量削減目標として、2030年に半減(2013年度比)、2050年にカーボンニュートラル達成を設定して取り組みを進めており、今後のBECCSの展開については、まずは防府バイオマス発電所におけるBECCSの実現に注力しつつ、同発電所での検討成果を踏まえて、他の発電所への展開や他の事業者との協業についても今後検討するとしています。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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