セミナー情報
2024/4/8 2024/6/14
これからどうなるの?大学生が考える「脱炭素」の未来
こんにちは、リバスタ編集部です。編集部の呼びかけに集まってくれたSDGsに興味のある学生たちが「リバスタ学生記者」として興味のあるテーマについて調べてもらいました。記者メンバーは「建設業界の脱炭素」についてはじめて触れるとのことですが、調べるうちに、どんな気づきを得たのでしょうか?
早稲田大学に通う黒野さんが興味を持ったのは、建設業界における「脱炭素の未来」について。脱炭素社会というテーマは近年の義務教育や高校でもよく扱う分野とのことで、その中で建設業界が担う役割を学生の視点でまとめてくれました。ぜひご覧ください。
このテーマを選んだきっかけ
はじめまして。私は、主に心理学を中心に学んでいる大学3年生です。SDGsやカーボンニュートラルなどのワードを様々な場面で聞くようになった近年、各々の環境に配慮する意識が向上しているように感じます。環境に関する話題に少なくとも興味を持ち、人並みの意見を持てるようになった一方で、これからの世の中はどのように変容していくのかに興味を抱き「脱炭素の未来」というテーマにすることを決めました。今回は、建設という切り口から脱炭素社会を私なりに考察してみましたので、最後まで読んでいただけますと幸いです。(早稲田大学3年 黒野まな)
※画像はイメージです
建設業界の脱炭素を実現するために
建設業界における「脱炭素の未来」というテーマを設定した際に、大学生の私がまずイメージしたのは「様々な建設シーンでCO2は排出されているのではないか」ということです。考えられる建設シーンは、建設時、運用時、解体・廃棄時の3つで、それぞれの場面でどのようにCO2を排出しているかについて述べていきます。
1つ目の建設時には、材料に含まれるCO2、材料を加工する際に出るCO2、材料や機材を運搬する時に出るCO2、建設するための機材を使用する時に出るCO2が考えられます。
2つ目の運用時には、住宅やオフィスなどを実際に使用する時、具体的には、冷暖房使用時、電気をつけている時、常時必要な機器等の運用時などにCO2の排出が考えられます。3つ目の解体・廃棄時には、解体する際の機材の使用時、解体した資材の運搬時、資材の廃棄時にCO2が排出するのではないでしょうか。実際、どのくらいの割合でCO2が排出されているのかについては、最終エネルギー消費に占める建築セクターの割合は37%であること、うち全体の約28%が居住時のエネルギー使用による暮らすときの CO2 排出量(オペレーショナルカーボン)で、残り 9%が原材料の調達から加工、輸送、建設、改修、解体に至るまでの建てるときの CO2 排出量(エンボディドカーボン)となっています。
参照:東京都環境局「気候変動への対応令和4年度東京都環境建築フォーラム 基調講演「エンボディド・カーボン削減の重要性と展望」」
参照:2022 United Nations Environment Programme「2022 GLOBAL STATUS REPORT FOR BUILDINGS AND CONSTRUCTION」
参照:国土交通省「不動産の脱炭素化に向けた国交省の取り組み」
「オペレーショナルカーボン」と「エンボディドカーボン」
これらのことをふまえ、「建設業×脱炭素」の実現のために、割合が高い方から随時取り組むことによって、将来的に建設業界全体のCO2排出量の大幅削減を実現するという相乗効果を図る取り組みを提案します。つまり、現在CO2排出割合が高いオペレーショナルカーボンを減らし、それにともなって割合が上がるエンボディドカーボンについても今後取り組んでいき、その後また割合が上がるオペレーショナルカーボンについて取り組み、というシーソーのように変化する割合から高割合の方を交互に取り組むことによって、全体の排出量を減らすという目標に徐々に近づくということです。
この方法において重要なことは、直近で解決が必要な課題について理解する力が求められ、担当している分野のみではなく、建設業界全体のニーズや最新情報にキャッチアップするアンテナをはるという意識を多くの人が持つことにあります。意識的にアンテナをはることによって、その時々で適切な施策を打ち出せるようになり効果効率的な「建設業×脱炭素」を実現させることができるのではないでしょうか。
※画像はイメージです
私が注目した「オペレーショナルカーボン削減」の取り組み
ここからは、「建設業×脱炭素」の取り組み事例や最新技術についてオペレーショナルカーボンとエンボディドカーボンの削減に役立つと思ったものそれぞれひとつずつを紹介していきます。
まず、私がオペレーショナルカーボン削減のために注目した事例は、ドイツの「パッシブハウス基準」という世界一厳しい省エネ基準と言われているドイツの「パッシブハウス研究所」が考案した省エネ建築基準です。「active(=積極的な)冷暖房を必要としない=passive」という意味でこの名前が付いているそうで、具体的には、断熱、日射遮蔽と日射取得に特徴があり、冷暖房に頼らずとも夏は涼しく冬は暖かく一年中健康で快適な暮らしを実現する基準が採用されていて、「家の燃費」が可視化され、後付けの設備ではなく家そのものの機能が高性能であるため、家自体が長持ちするそうです。パッシブハウスの建設には、一般的な家の建設よりもコストがかかったり、十分な自然エネルギー(太陽光等)を受けられない立地では建設が難しいというデメリットもありますが、エネルギー消費量削減の観点から考えれば、効果はとても大きい基準となっています。
また、パッシブハウス基準の考え方は主に、住宅建設に用いられてきましたが、ビルなどの住宅以外の建設物にもその考え方を応用できるような技術が開発されれば、より脱炭素の対策が進むのではないかと考えます。
参照:環境省「家庭のエネルギー事情を知る」
参照:パッシブハウス・ジャパン「パッシブハウスとは」
LCA(ライフサイクルアセスメント)を通じた「エンボディドカーボン削減」の取り組み
次に、エンボディドカーボンの削減のために注目したい技術は、フィンランドの One Click LCA 社が開発した、建物のCO2 排出量等を見える化するソフトウェア「One Click LCA」です。
日本においては、現在住友林業が単独の代理店契約を結んでいます。
住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎 本社:東京都千代田区)はフィンランドの One Click LCA 社と、建物の CO2 排出量等を見える化するソフトウェア「One Click LCA」の日本単独代理店契約を締結しました。 ソフトウェア「One Click LCA」は欧州を中心に 130 カ国で利用され、ISO や欧州規格を含めた世界の 50 種類以上の環 境認証に対応したソフトウェアです。ライフサイクル全体での環境負荷を評価する LCA(ライフサイクルアセスメント、以下LCA) を通じて、実際に建築現場で使用する個々の資材データをもとに建設にかかる原材料調達から加工、輸送、建設、改修、廃棄時の CO2 排出量(エンボディード・カーボン)等を算定できます。全世界の CO2 排出量に占める建設部門の割合は約 37%※と言われている中、当社は One Click LCA 社と連携して、日本の建設業界での CO2 排出量の見える化や削減に取り組みます。
引用:住友林業株式会社 2022年1月27日
「建物の CO2 排出量を見える化し、建設業界の脱炭素を目指す ~ソフトウェア「One Click LCA」 日本単独代理店契約を締結~」
この技術ですごいと思った点は、LCAのCO2 排出量等を可視化できる点です。資材調達、輸送、建設・施工、解体などのそれぞれの場面での排出量を測定、計算することはこれまでもあったかと思いますが、建物を作る前と後までの「建物の一生」を見通せることが、その建物を建てることで発生する環境負荷に関わる問題発見の可能性を高め、建物を解体するまでの環境に対する責任意識を芽生えさせることができるのではないでしょうか。サステナブルな社会を作り、ひいては、地球を守るために必要不可欠な意識の根底部分を変えることができる可能性を秘めているという観点から有意義な技術であると思います。
参照:住友林業株式会社「One Click LCA」
引用:住友林業株式会社 2022年1月27日
「建物の CO2 排出量を見える化し、建設業界の脱炭素を目指す ~ソフトウェア「One Click LCA」 日本単独代理店契約を締結~」
この記事を書いてみて
これまでの私は建設業界の取り組みについて調べたことがなかったため、CO2削減の課題があるということや、どのような取り組みが行われているということを知りませんでしたが、この記事を書くことにより、
- 建設業界は脱炭素の取り組みが不可欠であり、その成果が社会全体のカーボンニュートラル達成に重要な役割を担っている
- 建設時のエンボディドカーボンと運用時のオペレーショナルカーボンに分けて、個人や企業が最新情報へのアンテナを張ることが重要
であるということがわかりました。
これらを踏まえ、私が考える「脱炭素の未来」とは「LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)」であると考えます。LCCMは、LCAで排出されるCO2を0以下=マイナスにするという考え方で、日本政府も推進しています。
参照:国土交通省「ZEH・LCCM住宅の推進に向けた取組」
結局は政府と同じ考えに辿り着いてしまいましたが、これまで我々人間が壊してきた生態環境や地球を持続的に使うためには、過去の負荷分を帳消しできるくらいの努力をすることが必要となるのではないかと思います。高い目標とも言えるLCCM実現には、個人レベルでの意識の向上や、企業単位での取り組み、更なる技術の研究が不可欠です。
脱炭素も、SDGsの実現も、求められることはどちらも同じ意識向上なのではないかと思いました。私にとって建設業界が身近な存在ではなかったように、建設業界の取り組みについて自ら興味を持って調べる人は多くはないと思います。そのため、このような記事や取り組み事例などがより多くの人に届き、たとえば家を買う時などに環境に配慮をした選択を真っ先にできるような社会となり、建設業界がそれを主導していることを知ってほしいと思いました。最後まで読んでいただきありがとうございました。
この記事を書いた学生記者
早稲田大学人間科学部3年
黒野まな(くろのまな)
※記事執筆時の情報です。
出典まとめ
東京都環境局「気候変動への対応令和4年度東京都環境建築フォーラム 基調講演「エンボディド・カーボン削減の重要性と展望」」
2022 United Nations Environment Programme「2022 GLOBAL STATUS REPORT FOR BUILDINGS AND CONSTRUCTION」
国土交通省「不動産の脱炭素化に向けた国交省の取り組み」
住友林業株式会社「One Click LCA」
住友林業株式会社「建物の CO2 排出量を見える化し、建設業界の脱炭素を目指す ~ソフトウェア「One Click LCA」 日本単独代理店契約を締結~」
環境省「家庭のエネルギー事情を知る」
パッシブハウス・ジャパン「パッシブハウスとは」」
<記事リンク:学生記事①>
<記事リンク:学生記事②>
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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