業界事例
2024/1/20 2024/8/26
建設業界の脱炭素経営の実践~中小企業の事例から学ぶ 3つの手順と実践事例~
「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」の達成に向けて日本全体で取り組みが広がりはじめています。大手企業を中心とした脱炭素の取り組みは、2023年現在、大手企業だけでなく中小企業も取り組むべき課題となっています。本記事では、環境省が策定した「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック」に基づき、建設業界における脱炭素を進める為の取り組みについて、実際に2つの企業の事例をご紹介します。
中小企業における脱炭素経営とは?
脱炭素経営とは、気候変動対策の視点を組み込んだ企業経営のアプローチです。
脱炭素経営は、企業が持続可能な未来を築くために、炭素排出を削減し、環境に配慮した経営戦略を採用することを意味します。
取り組みによるメリット
先行して脱炭素経営に取り組む中小規模事業者は、主に5つのメリットを獲得しています。
- 優位性の構築
他社より早く取り組むことで「脱炭素経営が進んでいる企業」や「先進的な企業」という良いイメージを獲得できます。
- 光熱費・燃料費の低減
年々高騰する原料費の対策にも。企業の業種によっては光熱費が半分近く削減できることもあります。
- 知名度・認知度向上
環境に対する先進的な取り組みがメディアに取り上げられることもあります。また、お問い合わせが増えることで売上の増加も見込めます。
- 社員のモチベーション・人材獲得力向上
自社の社会貢献は社員のモチベーションにつながります。また、サステナブルな企業へ従事したい社員数は年々増加しています。
- 好条件での資金調達
企業の⾧期的な期待値を測る指標として、脱炭素への取り組みが重要指標化しています。
脱炭素経営に向けた3つのステップ
脱炭素経営に向けた取り組みを考える上で、「知る」「測る」「減らす」の3つのステップがポイントとなります。
・知る:情報の収集と方針の検討
・測る:CO2排出量の算定と削減ターゲットの特定
・減らす:削減計画の策定と削減対策の実行
(出典:環境省「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック」)
今回は八洲建設株式会社(以下 八洲建設)と加山興業株式会社(以下 加山興業)の事例を、この3つのステップに当てはめて解説します。
現状把握から具体的なCO2削減対策の構築に成功した会社
1つ目の事例は、八洲建設です。2023年現在で創業77年となる八洲建設は、地域密着の建設会社として地元から愛され続けています。また、2014年にはISO14001認証を取得、SDGs宣言およびSBT認定取得などさまざまな脱炭素経営に積極的に取り組まれています。
ここからは、八洲建設の具体的な脱炭素の取り組みについて詳しく解説します。
知る:正確な現状把握
八洲建設では、経営企画部において産官学連携事務局を創設し、国・地方自治体・大手ゼネコン・関連する業界団体などが公表している情報から、脱炭素に向けた目標や取り組みなどの情報収集を行いました。また、脱炭素社会への移行に伴う事業環境変化を分析し、脱炭素社会において自社の事業環境がどのように変化するのかを検討することで、正確な現状把握に努めました。
現状把握の結果、「顧客からの脱炭素要請の高まり」や「グリーン建材化・再生材料への転換によるサプライヤーの価格交渉力の強まり」、「地域の同業他社との脱炭素に向けた投資、ブランディング競争の激化」が予見されました。
これらの情報を分析した結果、八洲建設では「2030年カーボンハーフ」に向けて自社のCO2排出量の削減が重要であることを認識したのです。
測る:CO2排出量の測定
八洲建設におけるCO2排出量は、設計および施工計画などの開発管理業務を司る管理部門と、土木および建築工事の施工を司る現場部門に分類することができます。管理部門では、2020年に取得した中小企業向けSBT認定取得時点で営業車などに係る燃料および本社と支店で使用している電気を対象として使用料金などを算定しています。
一方、現場部門ではCO2排出量の算定を行っていなかったため、実際の重機稼働時間を基本として算定を行いました。CO2排出量の算定は、自社の工事および建設現場で稼働するすべての工事業者を対象として行う必要があったことから、効率的にデータを収集するため各現場で作成されている安全衛生点検や作業内容などを記録している作業日報を活用しました。
このように、管理部門と現場部門において適切な手法を講じることで正確なCO2排出量の測定に成功しました。
減らす:CO2排出量の削減に向けた取り組み
CO2排出量の削減を有効化するためには、「使用量の削減」、「効率改善」、「低炭素への切り替え」が重要でした。そのため、自社だけでなく工事業者に対しても脱炭素の取り組みを理解してもらい、積極的に取り組む必要があると考えました。現在では、上述した3つの方針を基本として各現場単位で脱炭素の取り組みに向けた意識醸成および普及活動を積極的に実施することで、CO2排出量の削減に取り組んでいます。
中長期計画を視野に入れた戦略について動き出している会社
2つ目の事例は、加山興業です。2023年現在で創業62年となる加山興業は、廃棄物処理業者として研鑽を続けています。また、2019年に設定したSBT目標では2030年までに2018年比50%削減を掲げ、脱炭素経営に積極的に取り組んでいます。
ここからは、加山興業の具体的な脱炭素の取り組みについて詳しく解説します。
知る:脱炭素対策にかかる基本方針
環境や社会課題に配慮した企業として推進し続け中長期的な生存戦略を図るために、具体的なアクションを考えていく中で、2020年にSBT目標を設定しました。資源循環産業を営む同社にとって、温暖化対策の点でもサステナブルな事業を行うことが益々求められるという考えのもと、生き残りをかけた取り組みとして、削減計画を策定していく必要性が生じました。
同社の脱炭素の基本方針としては、今既にある解決方法を適用させていき積み上げて取り組んでいく方法をとりながら、あるべき姿(2050年カーボンニュートラル)から逆算してイノベーションに期待しながら行動計画をとっていく方法と同時に取り組んでいく方法の「挟み撃ち」で対応していくこととしました。
前者においては、サプライチェーン排出量のうちスコープ1において焼却炉稼働時の燃料について、重油から灯油、灯油から都市ガスへと比較的低炭素な燃料へ切り替え、重機においても軽油から液化ガス燃料へ切り替え、場内で使用するキャタピラーやフォークリフト、EV自動車を段階的に切り替えることで、脱燃料化の推進を進めています。また、スコープ2においては電力調達の全量において再生可能エネルギー由来の電力購入を推進していくことでCO2排出量をゼロにする取り組みを推進しています。
測る:中長期計画の推移に対する検証
一方で、加山興業では、どうしても燃やさざるを得ない廃棄物(汚れた廃プラスチック類や病院から排出される感染性廃棄物や工場から排出される有害廃棄物)の受入れ強化を目的に、新規焼却炉を既存の処理能力の6倍にする大きな設備投資を行ったため本格稼働時点でのCO2排出量を推計しました。結果、今後の中長期的な視点では受入廃棄物量が重量にして現状の6倍相当となることが明らかとなりました。
減らす:最適なロードマップ策定に向けたマルチステークホルダーとの連携
顧客からお預かりした廃棄物を焼却した際に発生する非エネルギー起源のCO2排出量や当社が製造した固形燃料を顧客が利用した際に発生するCO2排出量が当社サプライチェーン排出量の7割以上を占めており、2050カーボンニュートラル実現に向けたトランジション戦略を議論していく必要性が生じました。そのためには、イノベーションを起こしていくための土台が必要であると考えました。そこで、脱炭素において学術的な側面からの知見を豊富に有する大学機関との連携を積極的に図っていくことで、当社のビジョンである「緑あふれるクリーンな日常を世界に」を体現化できるように産学連携を推進していきます。
まとめ
ここまで、建設業界中小企業の脱炭素への取り組みついて詳しく解説しました。脱炭素への取り組みの効果は一朝一夕では発現しません。CO2削減に関する検討や具体的な取り組みを実施し、はじめて効果が現れます。また、このような課題を解決するには、大企業だけではなく中小企業においても日本政府の方針を適切に理解し、取り組みを進める必要があると考えます。そのためには、他の中小企業がどのような対策を講じているのかを参考とすることで自社にとって最適な脱炭素の取り組みに関する計画が構築できるのではないでしょうか。本記事が、建設業界の脱炭素経営を進める企業やご担当者の一助となれば幸いです。
出典まとめ:
八洲建設株式会社 http://www.yashimaltd.com/
加山興業株式会社 https://www.kayamakogyo.com/
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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