基礎情報
2024/2/28 2024/10/2
サステナビリティリンクローンとは?一般的なローンとの違いやメリット・デメリットを解説
SDGsやESGに関する施策を実行するには、資金が必要です。資金調達の方法としてサステナビリティリンクローンを活用することで、資金調達がスムーズに行える可能性があります。本記事では、サステナビリティリンクローンの基本とメリット・デメリットについて解説します。
サステナビリティリンクローンとは何か?
サステナビリティリンクローンは略してSLLとも呼ばれ、近年広く活用されている融資制度となっています。サステナビリティリンクローンを活用するには、まず制度の基本を理解することが重要です。どのような制度なのか、どんな仕組みが採用されているのかを確認することで、具体的に利用の計画を検討しやすくなるでしょう。以下では、サステナビリティリンクローンの基本を解説します。
SPTsの達成度合いによって借り入れの条件が変わるローン
サステナビリティリンクローンとは、借り入れを行う企業側が設定したSDGsおよびESG戦略に関する目標を軸に、各種条件が変わるローンのことを指します。企業はサステナビリティリンクローンを活用する際に、「野心的かつ有意義な目標」である「SPTs」を設定します。SPTs(サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット)とは、借り手が設定した社会の持続可能性に対する貢献度合いを測れる年度ごとの目標を意味します。
このSPTsの達成度合いに応じて、金利などの詳細が変動することがサステナビリティリンクローンの特徴として挙げられます。似たようなローンにグリーンローンがありますが、サステナビリティリンクローンはグリーンローンとは異なり、調達資金の使途が特定のプロジェクトに限定されない点も特徴です。
企業が設定する野心的かつ有意義なSPTsとは、借り手のビジネスにおいて、マテリアリティに関連した内容であり、かつ定量的なものを事前に設定することです。野心的かつ有意義なものとは、具体的に以下の内容を含むと定義されています。
・借り手の企業活動が、環境や社会にポジティブ・ネガティブなインパクトをもたらす
・サステナビリティに関連するポジティブ・インパクトが大きい、もしくはネガティブなインパクトを大きく改善させる
・達成困難度なことを踏まえて、個別に判断できる
上記の内容を踏まえて設定することが、SPTsを考える際のポイントです。
SPTsの詳細について
サステナビリティリンクローンを利用する際には、SPTsについての詳細を確認することがポイントです。
貸し手側としては、SPTsは融資先の企業の達成状況の取り組み目標を客観的に測る指標となります。サステナビリティリンクローンを利用する際に、ローンの貸し手はSPTsの達成状況に応じて借り手にインセンティブを提供します。
このインセンティブによって、借り手側は借入期間でサステナビリティに関する行動を積極的に実施し、成果を向上させる動機付けができます。また、企業が持続的な成長を目指すための3つの観点である、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)のTGCの取り組みと連動した、SPTsの目標を設定することも考えられます。
一方の貸し手側は年1回程度を目処にSPTsの達成状況に応じて、融資条件の見直しを行います。
結果的に環境・社会面における、企業の持続可能な経済活動の促進につながると期待されています。
SPTsのカテゴリー
サステナビリティリンクローンにおけるSPTsには、多数のカテゴリーが存在します。すべてのカテゴリーに触れることはここでは難しいので、以下では、いくつかの事例を紹介します。
カテゴリー | 例 |
---|---|
エネルギー効率 | 借り手が所有またはリースしている建築物および/または機器のエネルギー効率の評価の改善。 |
温室効果ガス排出量 | 借り手が製造または販売している製品、あるいは生産または製造サイクルに関する温室効果ガスの削減。 |
再生可能エネルギー | 借り手が生成または使用する再生可能エネルギー量の増加。 |
水の消費 | 借り手が行う節水。 |
手頃な価格の住居 | 借り手が開発する手頃な価格の住宅戸数の増加。 |
持続可能な調達 | 検証済みの持続可能な原材料/貯蔵品の利用の増加。 |
循環経済 | リサイクル率の上昇、またはリサイクル原材料/貯蔵品の利用の増加。 |
持続可能な農業および食料 | 持続可能な商品および/または質の高い商品(適切なラベルまたは認証を使用)の調達/生産の改善。 |
生物多様性 | 生物多様性の保護と保存の改善。グローバル ESG 評価 借り手のESG格付け |
サステナビリティリンクローンは世界規模で普及している
ESG投資の普及拡大が進んでいる背景もあり、2018年度から世界規模でサステナビリティリンクローンも普及しています。その知名度および利用率は急激に進んでおり、ローン開始以降、融資額と融資件数は大きく伸びています。特に欧州での普及率が高く、2018年には58件だった融資件数は、2019年に131件になっています。
融資額も2018年は503億米ドルでしたが、2019年には1315億米ドルと2.5倍以上に増えていることも注目されます。今後もサステナビリティリンクローンの普及率・利用率には、注目が集まるでしょう。日本でも「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2022 年版」を策定し、普及促進に向けて動いています。
日本におけるサステナビリティリンクローン成立件数及び組成額は、2021年に59件・3580.5億円、2022年には241件・6573.32億円まで伸びています。日本では2019年に初のサステナビリティリンクローンが組成されてから、2021年以降から急速な普及が進み、2022年には融資額が6,500億円を超える結果になっています。
このようにサステナビリティリンクローンは、日本も含めた世界中で普及が始まっています。今後の動向次第では、サステナビリティリンクローンがより身近なものになる可能性もあるでしょう。
参照:日本でも注目!サステナビリティ・リンク・ローンとは?意味やメリットを解説
国内におけるサステナビリティ・リンク・ローンの組成・融資への期待
サステナビリティリンクローン原則について
サステナビリティリンクローンを理解する際には、以下の4つの原則について確認することが重要です。4つの軸をフレームワークと規定することで、すべての市場参加者がサステナビリティリンクローンの特徴を把握できるようになっています。以下では、サステナビリティリンクローンの4つの原則について解説します。
借り手の全体的な企業の社会的責任(CSR)戦略との関係
サステナビリティリンクローンでは、借り手が包括的なサステナビリティ目標を設定しつつ、それがSPTsと整合していることを、貸し手に対して明確に伝えることが求められます。正確な情報に基づき、「持続可能性に関する包括的な目標・戦略・政策」を策定することが望ましいとされています。
目標設定 ― 借り手のサステナビリティの測定
SPTsは、借り手のビジネスにおけるマテリアリティ(重要課題)に関連している必要があります。さらに先に解説したように、SPTsは野心的かつ有意義な内容で定量的である必要があります。
サステナビリティリンクローンは、借り手のサステナビリティの向上を目指すことが第一条件と言えます。事前に設定したSPTsのベンチマークに対して、借り手のパフォーマンスと貸出の条件などを連動させることが求められます。また、SPTsは客観性が重要なポイントになります。設定した内容の適切性を確認するために、借り手は第三者の意見を求めることが望ましいとされています。
レポーティング
サステナビリティリンクローンを活用する際には、レポーティングも必要です。借り手は外部機関を活用したESG格付などを利用し、可能な限りSPTsの達成状況を提供することが求められているため、1年に1回以上は、貸し手に対して達成状況を報告する必要があるでしょう。
サステナビリティリンクローンによる資金調達の実績を外部にアピールする際には、レポーティングの情報を一般向けに開示することも考えられます。借り手が中小企業の場合、一般開示が困難となるケースがありますが、その際には開示内容を簡素化可能です。
レビュー
サステナビリティリンクローンでは、「外部レビュー」と「内部レビュー」の活用も重要となります。外部レビューは外部機関によるレビューで、借り手がサステナビリティリンクローンのフレームワークなどについて、客観的な評価が必要な場合に利用します。この外部レビューを導入することで、信頼性の向上などのメリットが得られるでしょう。
外部レビューを受けた際には、文書などを通して貸し手に結果を報告することが望ましいです。
自己評価である内部レビューを行う際には、貸し手に実施する旨とプロセスを説明します。専門性を十分な透明性を確保したうえで、説明するのが重要です。
貸し手に求められることを理解する
サステナビリティリンクローンの活用時には、貸し手側に求められていることを知ることも大切です。具体的にどのようなことが野心的かつ有意義なSPTsに当たるかについて、最終的に判断するのは貸し手側です。そのため貸し手側の考えを踏まえて、サステナビリティリンクローンの利用計画を立てます。
サステナビリティリンクローンを利用する際には貸し手側と意見を交換しあい、スムーズな融資を実現できるように備えるとよいでしょう。
サステナビリティリンクローンのメリット
サステナビリティリンクローンの利用には、さまざまなメリットがあります。これらのメリットを活かすことで、SDGsやESGに関する事業を進めやすくなるでしょう。以下では、サステナビリティリンクローンのメリットについて解説します。
関連計画の推進につながる
サステナビリティリンクローンの利用は、関連計画を推進するためのきっかけになります。例えばサステナビリティ戦略の立案、リスクマネジメント、ガバナンスの体制整備など様々な計画を同時に進められる可能性があります。
企業ブランディングの一環となる
サステナビリティリンクローンは、企業ブランディングにもつながるメリットがあります。サステナビリティリンクローンを活用していることを公表することで、SDGsなどに関心の高い企業であることをアピールできます。
自社の存在をステークホルダーに伝えるきっかけにもなるため、サステナビリティリンクローンの利用が推奨されるケースは増えると予想されます。
インセンティブによるメリットも大きい
サステナビリティリンクローンは、インセンティブによるメリットも大きいです。SPTsの達成状況によって得られるインセンティブを利用できれば、自社の利益を増やすことも可能です。インセンティブの効果を最大限に活かせるように、SPTsを達成できる現実的なプランを立てることが大切です。
貸し手側のメリットについて
サステナビリティリンクローンを利用する際には、貸し手側のメリットについて理解することもポイントです。
貸し手側からすると、サステナビリティリンクローンで融資を行うことは、SDGsやESGを実施する企業の支援につながることに加え、これにより社会的な支持を獲得しやすくなります。
また、貸し手は融資の利益を得るだけでなく、環境問題へ取り組む企業へ支援した実績を獲得できるため、間接的に環境問題に貢献できるのもメリットです。
サステナビリティリンクローンのデメリット
サステナビリティリンクローンには、手間やコストの面でのデメリットもあります。通常のローンとは異なるデメリットなので、必ず把握しておきましょう。
以下では、サステナビリティリンクローンのデメリットを解説します。
借り入れまでに時間と手間がかかる
サステナビリティリンクローンは、借り入れ前に加えて借り入れ後も時間がかかる点がデメリットです。借り入れ前はSPTsの設定を行わなければならず、借り入れ後はSPTsの達成のためにレポーティング、第三者評価機関による外部レビューなどを取得する必要があり、時間がかかります。
そのため一般的なローンを使うよりも、時間と手間がかかるというデメリットがあります。
準備段階でコストが必要
サステナビリティリンクローンでレポーティングや外部レビューを取得する際には、ある程度の費用がかかります。そのため準備段階から、コストが発生する点がデメリットになり得ます。また、SPTsを達成できない場合、インセンティブの問題から通常のローンよりコストがかかる可能性もあります。
グリーンウォッシュの広まりが懸念される
グリーンウォッシュとは、環境へ配慮している実績がないのに、その事実を隠蔽している企業・行動を指します。サステナビリティリンクローンでの融資を受けるために、実際には計画していないことを情報として提示するなど、新たなグリーンウォッシュが発生する可能性も懸念されています。
サステナビリティリンクローンの事例
サステナビリティリンクローンは、すでにいくつかの実施事例があります。以下では、サステナビリティリンクローンの事例を紹介します。
清水建設株式会社の事例
清水建設(株)と(株)みずほ銀行、農林中央金庫等は本日、シンジケーション方式のサステナビリティ・リンク・ローンについて、極度額を200億円とするコミットメントラインを設定しました。サステナビリティ・リンク・ローンを活用した資金調達は建設業界では初めてです。
このコミットメントラインは、急な資金需要に備えて設定するもので、(株)みずほ銀行がシンジケーションを組成しました。サステナビリティ・リンク・ローンとは、金利条件等の貸付条件と借り手のCSR戦略に対するパフォーマンス評価が連動した、持続可能な経済活動および成長を推進するローン形態です。
引用:建設業界初、サステナビリティ・リンク・ローンで資金調達
リコーの事例
株式会社リコー(社長執行役員:山下 良則)は、株式会社三菱UFJ銀行とサステナビリティ・リンク・ローン契約を締結しました。
サステナビリティ・リンク・ローンは、高い環境目標を掲げ、積極的に気候変動問題に取り組む企業を対象にした金融商品で、その目標を達成することで金利の優遇を受けることができます。
リコーは、2020年4月の「第20次中期経営計画」のスタートに合わせて、「リコーグループ環境目標」を見直し、2030年の自社排出のGHG(温室効果ガス)削減目標を2015年比で従来の30%削減から63%削減に改定しました。これは、従来の2030年の目標値を8年の前倒しとなる2022年に達成することを目指す野心的な目標となります。リコーは、この新たな環境目標について、国際的なイニシアチブであるSBT(Science Based Targets)イニシアチブ(*1)の新基準「1.5°C目標」の認定を取得しています。
*1)SBTイニシアチブ…
企業のGHG削減目標が科学的な根拠と整合したものであることを認定する国際的なイニシアチブ
引用:リコー、三菱UFJ銀行と「サステナビリティ・リンク・ローン」契約を締結
まとめ
サステナビリティリンクローンは、SDGsやESG戦略を考えている企業にとって、有益な資金調達手段となります。今後は日本国内でも事例が増えて、サステナビリティリンクローンを利用するケースが広まっていくと予想されるでしょう。
この機会にサステナビリティリンクローンを確認し、利用を計画してみてはいかがでしょうか。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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