基礎情報
2023/11/15 2023/12/27
脱炭素経営とは?企業のメリットやデメリットを解説
脱炭素経営を検討しているものの、企業にとってどのようなメリットがあるのか明確に把握できていない方もいるのではないでしょうか。
当記事では、脱炭素経営の定義やメリットおよびデメリットに関して解説します。脱炭素経営を行う場合の具体的な手順も紹介するのでぜひ参考にしてください。
脱炭素経営とは気候変動への対応に重点を置く経営方針
脱炭素経営とは、気候変動への対応に重点を置き、CSR活動の一環としてではなく経営の重要課題として脱炭素に取り組む経営方針のことです。
地球温暖化の深刻化が進むなか、脱炭素やカーボンニュートラルへの取り組みは今後サステナビリティの観点で必要不可欠となり、全世界で施策の取り組みが行われています。
脱炭素経営の経営方針では、脱炭素への取り組みをコストの増加ではなく企業のリスク低減や成長のチャンスと捉えています。
脱炭素経営をおこなうことで、気候変動による事業活動への影響を抑えることや、環境問題に積極的に取り組む企業としてイメージアップが期待できます。
2015年パリ協定での温室効果ガス削減への取り決めや、国内における2050年カーボンニュートラル宣言など、国内外で脱炭素に向けた動きが進められています。
また、中小企業の温室効果ガス排出量は日本の総排出量の1~2割となっており、中小企業においても脱炭素への協力が求められています。
日本における中小企業の脱炭素経営への取り組み状況
パリ協定以降、日本における脱炭素が促進されていますが、脱炭素経営は企業規模によって取り組み状況の傾向に差があります。
2022年に日本政策金融公庫が行ったアンケートによると、温室効果ガスの削減につながる取り組みを行っている中小企業は44.9%でした。
2019年の実施状況41.9%と比較すると増加傾向がみられるものの、約半数以上の中小企業が脱炭素への取り組みを実施できていないことがわかります。
しかし、中小企業においても従業員数および年商規模など、企業規模に比例して脱炭素への取り組みが実施されています。
国内企業の9割以上を占める中小企業が脱炭素経営に着手することによって、国内の脱炭素が前進するといえるでしょう。
参照:経済産業省「最近の中小企業の景況について」
脱炭素経営として行えること
脱炭素経営として行えることは多岐にわたりますが、代表的な取り組みとして経営戦略の開示や目標設定を行う方法などがあります。
【脱炭素経営における代表的な取り組み】
取り組み | 概要 |
TCFD | <気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)>
|
SBT | <企業が設定する温室効果ガス排出削減目標>
|
RE100 | <企業が使用する電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指す国際的なイニシアティブ>
|
参照:
環境省「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」
環境省「SBT(Science Based Targets)について」
環境省「はじめての再エネ活用ガイド(企業向け)」
環境や社会に配慮している企業に投資先としての価値を置く「ESG投資」が浸透している昨今においては、TCFD、SBT、RE100に取り組むことは投資家や評価機関へのアピールとなります。
脱炭素経営への取り組みは、環境に配慮できるだけでなく企業価値の向上にもつながるでしょう。
中小企業が脱炭素経営を行うメリット
中小企業が脱炭素経営を行うメリットは複数あります。
【メリット】
- 企業イメージの向上につながる
- 資金調達において優位になりやすい
中小企業が脱炭素経営の取り組みとして再生可能エネルギーの利用やエネルギーマネジメントを行うことで、環境保全に貢献できるだけでなく、エネルギーコストの削減や企業イメージの向上、競合他社および資金調達における優位性を確保できます。
企業イメージの向上につながる
脱炭素経営を行うことで、環境問題に取り組む企業としてイメージの向上を図れる場合があります。
なぜなら、SDGsの目標にも挙げられている脱炭素に取り組むことで、消費者や求職者に対して環境問題へ関心の高い企業としてのイメージを与えられるからです。
企業イメージの向上によって競合他社との差別化を図り、ビジネスにおける優位性も獲得できます。
また、脱炭素経営に取り組むイメージの良い企業となることは、従業員のモチベーション向上や有能な人材獲得にもつながります。
脱炭素経営によって企業イメージを向上させるだけでなく、安定的な経営や企業の持続可能性を高める効果も期待できます。
資金調達において優位になりやすい
脱炭素経営を行うことによって、環境問題に取り組む企業として投資家や金融機関からの評価を受けやすくなります。
投資家が投資対象として環境問題や社会問題に取り組む企業を選別するESG投資が注目されているためです。
また、脱炭素経営を行うことによって、国の補助金や脱炭素経営に取り組む企業を対象とした融資商品を活用できる可能性も高まります。
投資や融資によって成長を図りたい中小企業にとって脱炭素経営に取り組むことは、資金面での優位性を獲得するための要素であるといえます。
中小企業が脱炭素経営を行う際のデメリット
中小企業が脱炭素経営を行う場合、課題点となるデメリットもあります。
【デメリット】
- 初期コストがかかる
- 人材の確保や育成が難しい
- 取引先との連携が必要な場合がある
初期コストや人材の確保や育成が課題になる場合は、融資や補助金制度の活用や人材のアウトソーシングによって解消できる場合があります。
サプライチェーン全体での脱炭素が必要となる場合には取引先との連携が必要となり、理解を得ることが課題となる可能性があります。
初期コストがかかる
脱炭素経営の実現において、初期コストが課題となる場合があります。脱炭素経営を行うためには、省エネ設備や再生可能エネルギー設備の導入が必要となる場合があるためです。
さらに、導入した省エネ設備や再生可能エネルギーシステムなどの維持費も必要となります。
これらのデメリットの解決策として国の補助金制度を活用する方法があるので、設備の導入や運用にかかる費用が課題になる企業は検討してみてください。
人材の確保や育成が難しい
脱炭素経営に際して、脱炭素に知見のある人材の獲得や育成が難点となる場合もあります。
脱炭素経営を行う際には「専門知識」「部署間の調整力」「実行力」などのスキルが必要になりますが、それらを有する人材が企業内に在籍しているとは限らないうえ、人材の育成に時間がかかるためです。
中小企業で社内の人材を活用する場合には、専任担当を任命したうえで企業のトップが指揮を執ることを求められる場合もあります。
その場合は、経営層も含めて脱炭素に関する知識不足を解消しなくてはなりません。
人材育成や適任者の選任が難しい場合には、アウトソーシングや外部の専門家に依頼する方法も検討してみてください。
取引先との連携が必要な場合がある
脱炭素経営に着手する際に、取引先との連携が難点となる場合もあります。
企業の脱炭素において、企業のサプライチェーン排出量を削減する場合、サプライチェーン全体での取り組みが必要となりますが、取引先の脱炭素への対応がスムーズに進捗しない場合があるからです。
2000年にグリーン購入法が制定され、需要と供給の双方における環境物品等の市場促進の努力義務が求められています。
そのため、国内の大手ハウスメーカーや自動車メーカーでは企業の方針としてサプライヤーの選定時に環境問題への取り組みを考慮する方針を示しています。
脱炭素に取り組むうえで取引先の連携が必要な場合には、環境問題への取り組みを行わないことによる機会損失などのリスクを理解してもらう方法があります。
脱炭素経営への取り組み手順
中小企業が脱炭素経営に取り組む場合、いくつかのステップを踏んで取り組むとスムーズです。
【取り組み方法リスト】
- 気候変動を含めたシナリオ分析を行う
- サプライチェーン排出量を算出する
- CO2削減目標および計画を設定する
- 計画に基づき脱炭素経営を実行する
1. 気候変動による事業への影響をシナリオ分析する
まずは、気候変動が事業に与える影響を分析し、仮説を立てたうえで、事業の持続性を含めた戦略を立てるシナリオ分析を行います。
シナリオ分析を行うことで、気候変動によるリスクが事業に与える影響を把握し、脱炭素に向けて「自社が出来ること」「提供できる付加価値」などを検討しやすくなるからです。
たとえば、気候変動が事業に与える影響として、原材料や燃料等の価格変動による入手可能性の難易度が向上する可能性が挙げられます。
シナリオ分析をおこなうことで、資材や燃料が調達できなくなった場合のリスクを事前に把握し、原材料の変更や再生可能エネルギーへの移行を検討することが可能です。
また、エネルギーの使用や温室効果ガスの排出に関係する税金なども、気候変動が事業に与える影響のひとつです。
温室効果ガスの排出量削減により税負担を抑えられる可能性があるため、企業が脱炭素経営に取り組まない場合のコストと比較することで自社への脱炭素経営導入の判断軸となります。
このように、気候変動が事業に与えるさまざまリスクを仮説とし、その影響を考慮することによって経営戦略やマーケティング戦略の施策における精度向上が期待できます。
なお、TCFDでは「気候関連リスクおよび機会の潜在的意味合いを評価するツール」として気候変動が事業に与える影響に関する分析を提唱しています。脱炭素経営への取り組みを始めるにあたって、事業の持続性を含めた戦略を立てる際に参考にしてみてください。
TCFDについては「TCFDとは?開示する項目や企業への影響を解説」で解説しています。
2. サプライチェーン排出量を算出する
事業環境分析を行ってから、サプライチェーン排出量を算出します。
サプライチェーン排出量とは自社で排出するCO2だけでなく、取引先などを含む事業活動における間接的なCO2排出すべてを含むCO2排出量のことです。
このサプライチェーン排出量を算出することによって、CO2排出量の削減対象を明確にできます。
また、自社が脱炭素経営に取り組むことで、サプライチェーンにおける取引先など他の事業者との連携によりCO2削減に取り組める場合もあります。
3. CO2削減目標および計画を設定する
サプライチェーン全体での排出量を把握したうえで、具体的に削減する定量的なCO2排出量の削減目標を立て、削減目標に向けて行うべき施策の計画を設定します。
CO2排出量の削減目標に向けた計画は企業によって異なりますが、カーボンニュートラル実現に向けた政府の中間目標である「2030年の温室効果ガスを2013年度比46%削減」を目安に、2050年を目処に中長期的な目標および計画を立てましょう。
具体的なCO2削減量は、中小企業向けSBTの削減目標を参考にする方法があります。SBT(Science Based Targets)は、パリ協定が求める水準に整合する温室効果ガス削減目標に関する国際的なイニシアティブのことで、サプライチェーン排出量の区分に応じて「2030年までにCO2排出量を年間2.5%(Scope3)~4.2%(Scope1,2)以上削減する」ことを目標にしています。
削減計画を設定する際は、定量化した目標を設定したうえで、削減対象の中で着手しやすいものから実行していけるような施策を検討しましょう。
4. 計画に基づき脱炭素経営を実行する
CO2削減の計画に基づき、目標達成に向けた施策を実行します。
たとえば、脱炭素経営として行える施策として省エネを社内に浸透させるためオフィス内の節電や、ペーパーレス推進が挙げられます。業種によってはエコカーの導入や生産工程の見直しを行うこと方法もあります。
また、省エネ設備や再生可能エネルギーシステムの導入によって、事業所そのものが排出するCO2を削減する方法もあります。
省エネ設備や再生可能エネルギーシステムなどの設備投資を行う場合にはメーカーやリース会社等専門知識を有する業者のアドバイスを受けることも検討してみてください。
脱炭素への対策を実行後は定期的にCO2排出量を確認し、効果検証や対策の見直しを行って継続的に取り組みましょう。
脱炭素経営に取り組む場合は社内外に情報発信を行う
脱炭素経営を実行できたら、並行して社内外への情報発信を行いましょう。
なぜならば、脱炭素の取り組みに関して情報発信することにより、自社の事業成長につながる可能性があるからです。
また、社内への情報発信も行い、従業員の理解を深めるとともに今後の組織体制や役割分担の検討などにつなげていきます。
社内に向けた情報発信の方法としては、社内イントラや社内報などへの掲載、ポスターなどでの掲示、環境問題に関する勉強会などを通じて自社が行っている脱炭素への取り組み内容や状況の報告などがあります。
他にも、自社サイトへの掲載や環境レポートの発行を行い、金融機関・投資家や消費者などに対して自社の脱炭素経営に関する情報開示も行います。
社外への情報開示によって環境問題に取り組む企業としてイメージの向上を図れる可能性が高まり、取引先の新規開拓や人材の獲得など事業成長やブランド力向上が期待できます。
脱炭素への取り組み情報を社内外に発信することにより、脱炭素に向けた社内の機運を高めながら、企業の認知度や知名度の向上によってビジネスチャンス獲得の可能性が広がります。
脱炭素経営を行うメリットを享受するためにも、情報発信は欠かせない取り組みのひとつであるといえるでしょう。
まとめ
脱炭素経営とは気候変動への対応に重点を置く経営方針のことです。
脱炭素経営への取り組みは企業規模によって差があり、2022年に日本政策金融公庫が行ったアンケートによると脱炭素経営に取り組む中小企業は44.9%と、半数に満たない状況です。
脱炭素経営に取り組むメリットとして、環境保全に貢献しながらコスト削減ができることや、企業イメージの向上、競合他社および資金調達における優位性の確保が挙げられます。
一方、初期コストがかかる点や、人材の確保や育成の難しさ、取引先との連携が必要な場合があることなどがデメリットとして挙げられます。
なお、中小企業が脱炭素経営に取り組む場合、いくつかのステップを踏んで取り組むとスムーズです。
さらに、脱炭素経営を実行できたら平行して社内外への発信を行い、従業員の理解を深めるとともに今後の組織体制や役割分担の検討などにもつなげていきましょう。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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