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2024/4/6 2024/10/2
低炭素コンクリートとは?脱炭素に向けて注目される理由を紹介
世界的な規模で年々促進されるのが温暖化・環境問題です。この問題は建設業界でも例外ではなく、CO2排出の削減や環境の改善などさまざまな試みが行われています。
そして近年、建設業界で注目されているのが、脱炭素が実現するといわれているジオポリマーなどの「低酸素コンクリート」です。この新しいコンクリートが導入されることによって、どのような変化をもたらすでしょうか。
今回は、低炭素コンクリートの定義、導入のメリット・デメリット、費用などについて、詳しく解説します。低炭素コンクリートの導入を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。
低炭素コンクリートとは?
低炭素コンクリートは環境に優しい材料ですが、具体的にどのようなものなのか理解していない方も少なくないでしょう。
低炭素コンクリートを理解するために重要なためのポイントは、次の3つです。
- 低炭素コンクリートの定義
- 低炭素コンクリートの製造プロセス
- 従来のコンクリートとの違い
以下に、これら低炭素コンクリートにおける3つのポイントをそれぞれ説明いたします。
低炭素コンクリートの定義
低炭素コンクリートとは、従来のコンクリートよりも製造工程でのCO2排出量が少ないコンクリートを指します。従来のコンクリートはセメント製造により非エネルギー起源のCO2を多く排出しますが、低炭素コンクリートではこのセメントの使用を抑えることで低炭素化が可能になっています。
建設業界では、温暖化対策として各行程においてCO2排出軽減対策を導入していますが、その対策の一つとして注目されているのが、この低炭素コンクリートです。低炭素コンクリートは従来のコンクリートと比較してもそん色がなく、特にジオポリマーは耐酸性が高く、従来のコンクリート以上の性能を示すものもあリます。
低炭素コンクリートの製造プロセス
低炭素コンクリートは、セメントに産業副産物などを混ぜて製造します。低炭素コンクリートの際にセメントに混ぜる産業副産物とは以下のものが代表格です。
- 高炉スラグ微粉末:製鉄所から排出される廃棄物
- フライアッシュ:石炭火力発電所から排出される廃棄物
従来のコンクリートセメントは、セメントの粉末・水・砂・砂利・化学混和材をそれぞれ決められた割合で用意し、それらを混ぜ合わせることによってコンクリートの元の材料を作り出します。
低炭素コンクリートはセメントの量を通常より減らして、その代わりに今まで使用していたセメントの20%〜70%を産業副産物に置き換えます。これによりセメント由来のCO2の排出が減る仕組みです。
従来のコンクリートとの違い
低炭素コンクリートと従来のコンクリートの違いを以下の表にまとめました。
比較項目 | 通常のコンクリート | 低炭素コンクリート |
CO2の排出 | 多量 | 通常より最大70%減少 |
リサイクル | 劣化しコンクリートが廃棄物になる | 廃棄物の使用のためリサイクルに貢献 |
施工にかかる時間 | 数時間 | 数時間
(セメントに廃棄物を混ぜるために若干手間がかかることも) |
強度 | 硬い | 硬い |
塩害・ひび割れ | ひび割れが出来やすく、塩害に弱い | 水を加えた時に発熱が小さいためひび割れに強く、塩害にも強い |
上記の表でわかる通り、低炭素コンクリートはCO2削減以外にも通常のコンクリートとは異なる違いがあるのが特徴です。
特にひび割れ・塩害が発生しにくいため、海岸沿いの設置・ダムなどへの利用の際、高耐久性が期待できます。
低炭素コンクリートのメリット
低炭素コンクリートを導入した場合の主なメリットは、次の4点です。
- 環境への負担の軽減
- エネルギー消費の削減
- 耐久性の向上
- 経済的な利点
上記の4つのメリットについて、次よりそれぞれの具体的な内容を説明しましょう。
環境への影響の軽減
低炭素コンクリートの代表的なメリットは、CO2排出削減による環境への負担軽減です。CO2の排出が原因である地球温暖化は近年ますます加速し、地球規模の深刻な問題となっています。その問題への対処として、CO2排出削減のさまざまな対策が国内に限らず国外でも行われています
そのようななか、低炭素コンクリートの普及により大幅なCO2排出削減が見込めますので、環境問題への貢献が期待されています。
低炭素コンクリートの使用によりCO2排出が削減されると気候変動対策に率先して貢献している優良な企業という評価がなされます。
近年、環境問題に対する対策を行っていない企業は、「社会的な問題に対する危機感がない」という低い評価を下されます。
このため、低炭素コンクリートの使用による大幅なCO2削減が実現すれば、環境への影響だけでなく企業の社会的な評価も高くなります。
エネルギー消費の削減
低炭素コンクリート使用は、エネルギー消費の削減というメリットもあります。従来のコンクリートの生成においてCO2が発生するのは、セメントの主原料である石灰石、つまり炭酸カルシウムに熱を加えるためです。
この炭酸カルシウムを加熱すると酸化カルシウムが出来ますが、熱により分解されて非エネルギー起源の二酸化炭素が排出されます。しかし、低炭素コンクリートは炭酸カルシウムの代わりに高炉スラグ微粉末・フライアッシュといった廃棄物を混合してセメントを生成しているため、その分CO2排出が削減できます。
低炭素コンクリートは従来のセメントより少量の石灰石の使用で済むため、高熱を加える必要もありません。セメント生成の段階で今まで使用していた熱エネルギーも抑えられるため、CO2排出軽減だけでなく熱エネルギーの省エネも実現します。
耐久性の向上
低炭素コンクリートを使用すれば、通常のコンクリートより耐久性が向上します。低炭素コンクリートに使われるセメントは、水結合比が低いのが特徴です。水結合比とはセメントを形成する水と結合材の比率を指し、低炭素コンクリートは、従来のセメント材料以外に高炉スラグ微粉末・フライアッシュといった廃棄物を使用するため、水の比率が低くなります。
水の比率が低くなるとそれだけコンクリート内の密度も高くなり、それによってひび割れ・塩害といった被害を回避できます。
従来のコンクリートは海外沿いに設置すると潮風により塩害を受け、その度に修復しなければならなかったので手間と費用がかかりました。しかし、低炭素コンクリートを使用すれば塩害やひび割れに加え高い耐久性も獲得でき、その上コスト削減にもつながります。
経済的な利点
低炭素コンクリートが普及すると、経済的な利点も生まれます。CO2削減を実現させる低炭素コンクリートを生成するためには、従来のセメント生成では使われなかった、費用のかかる新素材を使うと思っている人もいるかもしれません。
しかし、低炭素コンクリートで使用される素材は先述した通り、高炉スラグ微粉末・フライアッシュといった製鉄所、石炭火力発電所から排出される廃棄物です。通常のセメントで使われていた素材の代わりにこれら廃棄物が使用されるため、コスト削減ができます。
さらに、経費削減だけでなく廃棄物の利用はリサイクルとしての側面もあるため、さまざまなメリットが生まれます。
低炭素コンクリートのデメリット
CO2排出削減に加えてさまざまなメリットをもたらす低酸素コンクリートの導入ですが、デメリットともいえる点も存在します。そのデメリットとは以下の4点です。
- 初期コストの高さ
- 材料の入手困難
- 施工技術の必要性
- 性能のバラツキ
この4つのデメリットは具体的にどのような内容なのか、次よりそれぞれについて説明しましょう。
初期コストの高さ
先述した通り低炭素コンクリート導入はCO2削減に加えて、廃棄物使用によるコスト削減もメリットに挙げられます。ただし、このメリットは低炭素コンクリートの生産を軌道に乗せて、生産が安定した場合です。
新規の事業を開始するためには、新事業の立ち上げを行わなければなりません。また、原材料を、常に現場に一定量キープしておくためのルート・管理場所の作成なども行なう必要があります。
このように、導入して定着させるためにはさまざまな問題をクリアしなくてはならず、初期コストがかかるというデメリットがあります
材料の入手困難
材料の入手が難しいことも低炭素コンクリートのデメリットです。低炭素コンクリートを形成するセメントは、高炉スラグ微粉末・フライアッシュを混ぜることによって仕上がります。この2つの材料は製鉄所・石炭火力発電所から排出される廃棄物です。
廃棄物だと無料で簡単に入手できるイメージがありますが、廃棄物の提供をしてくれる製鉄所・石炭火力発電所とのルートが必要です。また、廃棄物は鉄鋼の生産量や発電量に依存するため、低炭素コンクリートの生産は廃棄物の生成量に依存してしまい、計画的な生産が難しいです。
施工技術の必要性
低炭素コンクリートの導入の際は、新規のコンクリート製品に適した施工スキルを身につけないといけません。コンクリート製品は、水やその他の素材の割合が重要です。水や素材の量の多い・少ないによって品質に大きな影響が出ます。
素材の混合作業の際、混ぜ具合が不十分・素材の割合が適量でない場合、強度が低くなり簡単にひび割れ・粉砕する恐れがあります。
性能のバラツキ
低炭素コンクリートは従来のコンクリートと異なるため、低炭素コンクリート生産に適した技術を開発し、製造工程を最適化する必要があります。製造工程が最適化されていないと性能のバラツキが発生します。性能にバラツキがあるとの耐久性などにも影響が出ると共に、企業の信頼に大きな影響が出るため、避けなければなりません。
低炭素コンクリートの値段は?
低炭素コンクリートを導入する際は、値段が大切です。低炭素コンクリートの値段に関して押さえるポイントは次の3つです。
- コンクリートの構成要素内訳
- 従来のコンクリートとの比較
- 長期的な費用対効果
次より上記3つのポイントについて、それぞれの内容を説明します。
コンクリートの構成要素内訳
一般的なコンクリートと低炭素型コンクリートの構成要素は、円グラフで表すと以下のようになります。円グラフはコンクリートを作る際の各構成要素の配合割合を表しており、棒グラフは各構成要素からのCO2排出の割合を表しています。
低炭素コンクリートの材料が一般のコンクリートと大きく異なる点は、本来セメントが使用されている枠の70%を産業副産物(廃棄物)が担っている点です。従来のコンクリートのグラフを見るとセメントが7割を占めていますが、低炭素コンクリートはセメントの割合を限りなく少なくし、そこに産業副産物を入れることによってCO2排出を抑えています。
廃棄物は廃棄物の種類や量、処理方法・地域によって値段が変わりますが、廃棄物を使用することで通常のコンクリートでかかっていたセメント代の70%分の費用が削減できることになります。
従来のコンクリートとの比較
次に従来のコンクリートと低炭素コンクリートの構成要素を比較してみましょう。
上記の図から分かる点は、セメントの一部を産業副産物と置換することによってCO2削減、また資源の有効活用を実現していることです。特に資源分野では高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどを本来持て余している状態でした。しかしコンクリート材料として活用することによって、資源を循環させています。
コンクリート構成要素の違い
コンクリートの構成要素と構成要素からのCO2排出割合を見てみます。
上記の画像を見てわかるとおり、セメントの使用を減らし廃棄物を使用するだけでCO2排出が約60%も減少します。材料にかかるコスト削減はセメントのみですが、これだけでCO2のみならずコストの大きな削減効果が得られます
長期的な費用対効果
次に低炭素コンクリートの普及および建築業界の今後の流れを、以下の画像で見てみましょう。
引用:日本政策投資銀行『脱炭素社会に求められる低炭素型コンクリートの普及に向けて』
低炭素コンクリートの需要創出・普及の流れは上記の表のように、サプライヤーのコンクリートの性能向上をすることで、結果的に建築・土木分野への貢献するようになっています。
また、図表3-2にあるとおり、2030年から2040年にかけて、低炭素コンクリートがあらゆる社会資本の材料に占める割合は上昇する見込みであることが分かります。
地球温暖化対策が声高に叫ばれ続ける中、持続可能な社会の実現のため、低炭素コンクリートのような環境負荷の低い資源は今後非常に重要になり、需要が増すことが予測されるでしょう。
さらには、政策の動きからの後押しもあります。建築物省エネ法では2025年4月以降に着工する中規模以上の建築物に対して、省エネ性能を向上させること、またCO2排出量の算定と表示をすることが義務付けられることになりました。
上記のことから、低炭素コンクリートの普及は進んでいく見込みとなっています。
まとめ
低炭素コンクリートは、気候変動対策であるCO2排出削減が行え、なおかつコスト削減も実現する、新しいコンクリート製品です。導入することによって環境対策を行っているという高い信頼も獲得できます。
しかし、低炭素コンクリートはデメリットも存在するため、導入するにあたっての注意点をしっかりと把握することも大事です。低炭素コンクリートの導入の際には注意点を把握することでよりスムーズに行えるでしょう。
リバスタでは、建設業における脱炭素の取り組みをサポートしています。脱炭素の取り組みに関することでお悩みがありましたら、どんなことでも構いません、お気軽にご相談ください。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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