基礎情報
2023/8/16 2023/11/13
炭素税とは?導入の目的と個人や企業への影響を解説
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、日本でも炭素税の導入が検討されています。
炭素税が導入された場合、個人や家庭、企業にどのような影響が及ぶ可能性があるのか知りたい人もいるでしょう。
この記事では、日本における炭素税導入の目的や、導入された場合の生活への影響を解説します。
炭素税の負担を抑えるコツや諸外国における炭素税の導入事例も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
炭素税とはCO2の排出量に対して課される税金のこと
炭素税とは、CO2の排出量に対して課される税金のことです。
低炭素社会を目指す取り組みである「カーボンプライシング」と呼ばれる手法の1つであり、炭素に価格を付けることで排出者の行動の変容をうながすことを目的としています。
炭素税が導入された場合、影響が及ぶのは化石燃料を使用した石油や石炭、天然ガスの価格です。
CO2排出の原因となる化石燃料の使用に関わるほど税負担も大きくなるため、CO2排出行動の抑制が期待されます。
2050年までに温室効果ガスを実質ゼロとする脱炭素社会の実現に向けた施策のひとつとして、日本でも炭素税の導入が検討されています。
日本の脱炭素社会の目的や取り組みについて詳しく知りたい人は『脱炭素社会に向けて企業が取り組むべきことは?必要な理由や事例も解説 』を参考にしてみてください。
導入の目的はCO2排出の抑制と再生可能エネルギーの拡大
炭素税導入の主な目的はCO2排出の抑制と、再生可能エネルギーの拡大です。
CO2の排出に経済的な負担が発生することで、消費者の行動を変えるきっかけとなるほか、税収を再生可能エネルギーの開発の資金として利用できるからです。
炭素税の導入により電気代や物価が上昇することで、これまでと同じ使い方をしていても炭素税分の負担が上乗せされる形となります。
節約の手段として無駄なエネルギー消費を抑えることは、結果としてCO2排出の抑制につながります。
また、炭素税による税収は再生可能エネルギーの普及への取り組みなどに利用される予定です。
CO2排出の少ない公共交通機関や公共交通手段の開発や省エネ製品購入の補助などにより、さらなるCO2の排出削減が期待できるでしょう。
日本における導入時期は未定
炭素税が日本で導入される時期についての明確な発表はなく、2023年4月時点では未定となっています。
炭素税の導入には様々な課題があり、導入時期や課税内容は検討段階であるためです。
たとえば、税負担の増加に対する国民の理解を得ることは、炭素税導入における課題のひとつです。
炭素税の課税対象や金額の設定については、慎重な議論が求められます。
また、現行の税との調整や、エネルギー消費の大きい企業における負担の増加なども懸念されています。
日本において炭素税を施行させるためには、これらの課題の解決が優先となるでしょう。
ただし、日本はパリ協定において、2030年までに二酸化炭素の排出量を2013年比で26%削減することを目標に掲げました。
目標達成にはこれまで以上の大幅なCO2削減が必要となることから、環境省では2020年代での炭素税の導入を検討しています。
炭素税はCO2を排出した個人や企業が負担する
炭素税を負担するのは、CO2を排出した個人や企業です。
現時点で課税対象については明言されていませんが、4つの課税段階のいずれか、または複数の課税段階を組み合わせての課税が検討されています。
【炭素税の課税段階】
区分 | 課税段階 | 負担者 |
上流課税 | 化石燃料の採取時点、輸入時点 |
|
中流課税 | 化石燃料製品(揮発油等の石油製品、都市ガス等)や電気の製造所からの出荷時点 |
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下流課税 | 化石燃料製品、電気の需要家(工場、オフィスビル、家庭等)への供給時点 |
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最下流課税 | 最終製品(サービス)が、最終消費者に供給される時点 |
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(参照:環境省公式サイト 資料2「炭素税について」P.18)
どの区分で課税されることになっても、原料価格の値上がりにより消費者である家庭や企業への負担は増加すると考えられます。
炭素税の負担を抑えるには、各家庭や企業での省エネへの取り組みが必要となるでしょう。
炭素税が導入された場合の個人への影響
炭素税が導入された場合、個人へのさまざまな影響が考えられます。
化石燃料の価格高騰により、公共料金や食品、日用品の価格にも影響する恐れがあるためです。
たとえば、ガソリン、電気料金、ガス料金などが炭素税導入による値上がりにともない価格が上昇すると考えられます。
また、食品や日用品においても、製造や輸送時のCO2排出により間接的に値上がりする可能性があります。
省エネ家電やエコカーへの買い替え、節電などのエネルギー消費を抑える取り組みによりCO2の排出を削減できれば、炭素税による負担の軽減が可能です。
炭素税の導入に向けて、家庭における省エネへの対策を検討してみましょう。
なお、太陽光発電や外皮の断熱性能の向上により、家庭での消費エネルギーを実質0以下とするZEH(ゼッチ)と呼ばれる住宅が注目されています。
導入する場合に利用できる補助金制度もあるため、ZEHについて詳しく知りたい人は「ZEHとはどんな住宅?基準や活用できる補助金も解説」を確認してみてください。
炭素税が導入された場合の企業への影響
炭素税が導入された場合、企業への様々な影響が考えられます。
業種によって差があるものの、製品の生産やサービスの提供、オフィスの運営などの大部分にはCO2の排出が関わっているためです。
たとえば、日本における発電の7割以上が化石燃料によるものであり、照明やPCの使用時にもCO2が排出されています。
オフィスの運営には多くの電力が使用されるので、直接石油や天然ガスを使用しなくても炭素税による影響が大きくなる可能性があります。
企業で使用する電気などを再生可能エネルギーに変えることは、炭素税による負担の軽減に有効な手段です。
企業が太陽光発電やバイオマス、地中熱などを使った設備を導入する際に適用できる補助金制度もあるため、炭素税への対策として再生可能エネルギーへの移行を検討してみましょう。
炭素税が導入された場合の建設業への影響
炭素税が導入された場合、建設業においても様々な影響が考えられます。
建設業では、事業活動の中でガソリンや電力を使用する頻度が高く、炭素税の負担額が大きくなる可能性があるためです。
たとえば、炭素税の導入によってガソリン価格が高騰した場合、ブルドーザーやショベルなどの使用にかかる費用も増加します。
建設機械は多くのエネルギーを消費するため、炭素税が導入されると建設業における1件あたりの作業費用が大幅に増加する恐れがあります。
建設機械によるCO2排出への対策として、国土交通省が推進しているのが建設業におけるバイオマス燃料や水素エンジンの使用原則化です。
ディーゼルエンジンに替わる革新的建設機械の導入によりCO2排出を抑えられれば、建設業における炭素税の負担軽減につながるでしょう。
地球温暖化対策のための税との違い
低炭素社会に向けた取り組みとして、日本では2012年に「地球温暖化対策のための税」(以下、温対税)が導入されました。
CO2の排出量に応じて税金が課される点は炭素税と同じですが、炭素税が導入された場合は課税額が増加すると考えられます。
現行の温対税の税率は、CO2排出量1tあたり289円です。
諸外国の炭素税と比較すると10分の1に満たない低い水準となっており、炭素税では温対税よりも高い課税額が予想されます。
また、温対税の目的が再生可能エネルギーの普及や省エネ対策による地球温暖化防止であるのに対し、炭素税の目的は化石燃料の使用によるCO2の排出削減である点にも違いがあります。
2050年のカーボンニュートラルの実現のためには、さらなるCO2削減が必要です。
日本におけるCO2削減のペースは現行の温対税では不十分なため、炭素税への移行によりCO2排出者への意識の変容が求められるでしょう。
諸外国における炭素税の導入事例
諸外国においては、ヨーロッパを中心に炭素税の導入が広まっています。
【諸外国における炭素税の導入状況】
国名 | 導入年 | 税率
(円/tCO2) |
税収使途 |
日本(温対税) | 2012 | 289 |
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フィンランド | 1990 | 7,880 |
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スウェーデン | 1991 | 15,130 |
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アイルランド | 2010 | 2,540 |
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フランス | 2014 | 5,670 |
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ポルトガル | 2015 | 870 |
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(参考:環境省『諸外国における炭素税等の導入状況』)
炭素税の税率や内容は国によって様々ですが、税収の多くは一般財源として国民の税負担軽減やインフラ整備の資金として活用されています。
炭素税導入国の中でも高い税率を課しているスウェーデンでは、炭素税によるCO2削減と経済成長の両立を実現させました。
世界データバンクによると、スウェーデンにおけるCO2排出量は炭素税が導入された1991年時点で5,400万tであったのに対し、2019年には3,500万tと約35%減少しています。
一方で、法人税や所得税などの大幅な引き下げによる税負担の緩和も行われました。
炭素税に高い税率が課されると企業の成長を阻害することが懸念されますが、税収を別の形で還元することによりCO2排出の低減と経済成長のバランスを保っています。
また、特定の業種やエネルギー源に対して、免税や還付制度を設けている国もあります。
炭素税を導入している諸外国の取り組みについて詳しく知りたい人は、環境省が公表している「諸外国における炭素税等の導入状況」を確認してみてください。
まとめ
炭素税とは、CO2の排出量に対して課される税金のことであり、脱炭素社会の実現に向けた施策のひとつです。
CO2の排出量が多いほど経済的な負担が大きくなることから、排出者の行動の変容をうながすことを目的としています。
火力発電による電力やガソリンの使用にもCO2排出が関わっているため、炭素税が導入された場合は個人や家庭、企業への負担の増加が予想されます。
CO2の排出を抑えて税負担を軽減させるには、省エネ製品や再生可能エネルギーの導入が有効です。
日本における導入時期は未定ですが、ヨーロッパを中心とした諸外国では炭素税の導入が広まっています。
2050年のカーボンニュートラル実現のためには、日本でも2020年代に炭素税が導入される可能性が高いでしょう。
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