業界事例
2024/11/25 2024/11/25
技術の力とDXでカーボンニュートラルを推進 清水建設が目指す「ゼロを超えたプラスの価値提供」とは(前編)
はじめに
ものづくりにデジタルの力をいち早く取り入れ「デジタルゼネコン」として、建設業界のDXを牽引するリーディングカンパニーを目指す清水建設。持続可能な社会の実現に向けたグループ環境ビジョン「SHIMZ Beyond Zero 2050」では、イノベーションによるカーボンゼロの達成を掲げています。DXや技術革新はカーボンニュートラルにいかに寄与できるのか。環境経営推進室企画部長の伊東浩司氏にお話を伺いました。
CO₂排出量計測と会計システムの融合を模索
清水建設ではカーボンニュートラルに向けた数値目標を達成するために、独自のCO₂排出量計測システムを構築しています。大手電力会社が提供する電力使用量の見える化WEBサービスに加え、自社開発の公共料金一括支払いシステム、工程管理システム及び建設副産物管理システム、それらを統合するCO₂モニタリングシステムなどをフル活用して対応しています。伊東氏は「いずれのシステムも初期登録の段階や、月々・日々の手入力、未入力・誤入力の修正等の点に、アナログな部分が多く残っているので、こうした2024年問題対応と相反する部分については少しずつ改善していきたい」と話します。
さらにScope1,2に関しては、将来的には会計システムとの統合が理想との考えを持っているという伊東氏はこう続けます。「入金や支払いは長年培われた文化として、手入力をいとわずに管理されています。さらに、会計システム自体も昨今のIoT化、AI化の流れで、例えば我々の日々の経費精算なども、領収書をスマホで撮影して金額、支払先などを自動読み取りするなど進化しています。半面、その基となる電力、ガス、燃料油、水などの環境データの単位であるkWh(キロワットアワー)、m3(立方メートル)、L(リットル)などについては、検針票や請求書に付記されているにもかかわらず、同時に管理するという意識も管理可能なプラットフォームもありません。既に進化している会計システムに、環境データも乗っからない手はないわけです。サステナビリティ基準委員会(SSBJ)基準などの動向をみても、これくらいのシステム変革をやらないと対応できないのではないでしょうか」
一方でScope3については、自社による直接的な金銭の流れが発生しない部分が多いため、会計システムとの統合はそぐわないと伊東氏は語ります。例えば、事業活動の上流は購買システム、下流は建設廃棄物管理システムに紐づけることも可能とのことですが、精緻な計測のために自社でシステムを構築したり、アナログな労力をかけたりすることは疑問だとします。さらに、伊東氏は「配送・廃棄なら上下流とも、少しでも距離的に近い場所でという考えが、コストメリットというインセンティブの面からも働きますので、輸送距離を精緻に計測・管理することと、製品あたり・単位処分量あたりのCO₂排出量が少しでも少ない取引先を優先的に選択することは、別のアプローチで考えるべき課題です。例えばScope3-4や3-9(上下流の輸送)の正確性検証のために、本社のサステナビリティ部門が航空機で支店に出張して、ジェット燃料由来のCO₂を排出、Scope3-6(出張)を増やすのはナンセンスです」と指摘します。
環境経営推進室 企画部長 伊東 浩司氏
自社開発プラットフォームで現場でのCO₂排出量を自動算出
伊東氏は「LCA※1や発注者にとってのScope3のカテゴリ1※2またはScope2に当たる現場でのCO₂排出量、アップフロントカーボン※3の算出・削減要請もここ1〜2年で急速に増えています」と話します。こうした動きに呼応すべく、清水建設では株式会社ゴーレム(東京都千代田区)と共同で、建設生産過程で生じるCO₂排出量を精算見積データから自動算出するプラットフォーム『SCAT(スキャット:SHIMZ Carbon Assessment Toolの略)』を開発。さらに、土木工事で発生するCO₂排出量を積算データから自動算出する『Civil-CO₂(シビル・CO₂)』を開発しました。発注者側も工事金額だけでなく、現場でのCO₂排出量も含めて請負先の選択をするという流れが出てきています。そこに乗り遅れないように、コスト面以外の価値を提供できるシステムとして準備しています」(伊東氏)
CO₂排出量算出プラットフォーム『SCAT』の出力イメージ
出典:清水建設Webサイト
土木工事CO₂排出量可視化プラットフォーム『Civil-CO₂』の出力イメージ
出典:清水建設Webサイト
※1:ライフサイクルアセスメントの略称。製品やサービスのライフサイクル全体または特定段階における環境負荷を評価する方法
※2:事業活動におけるサプライチェーンのCO₂排出量。事業者の活動に関連する他社からのCO₂排出量を指す
※3:建築物の新築時に発生するCO₂のこと。資材の製造や施工段階のCO₂排出量を指す
バイオ炭コンクリート「SUSMICS-C」を開発
発注者にとってのScope3-1またはScope2に当たる現場でのCO₂排出量については、圧倒的比率を占めるのが鉄とコンクリート。伊東氏は「鉄に由来するCO₂排出量の削減は大手高炉メーカーの水素還元技術の確立を待ちながら、当面は電炉鋼の採用拡大を進めるしかありませんが、ゼネコンの技術力を活かせるのはコンクリート分野」と話します。
清水建設が開発した、バイオ炭を混和した環境配慮型コンクリート「SUSMICS-C(サスミックス・シー)」について伊東氏は続けます。「SUSMICS-Cのネーミングは、“Sustainable”のSU、SMI(炭)、 “Carbon Storage(CO₂の貯留)“のCS、”Concret(コンクリート)“のCを組み合わせています。木質バイオマスを炭化した”バイオ炭“をコンクリートの混和材として利用することで、木質バイオマスが吸収したCO₂がコンクリートに長期安定して貯留されます。バイオ炭に固定されたCO₂量が、その他の材料製造等に起因するCO₂排出量を上回れば、カーボンネガティブを実現できます」
また、コンクリート練混ぜ時にバイオ炭を投入するだけで製造できるため、既存の生コンプラントでの製造にも容易に対応できるという特長もあるといいます。伊東氏は「建築現場では建物基礎、土木では場内仮設道路での使用実績があります。現時点ではJIS認定品ではないため、構造材には使えませんが、建設材料技術性能証明取得を予定しており、来年度以降は広く普及が可能になる見通しです」と期待を寄せています。
バイオ炭によるCO₂固定化のイメージ
出典:清水建設Webサイト
SUSMICS-Cのコンクリート断面(写真右)
出典:清水建設Webサイト
SUSMICS-Cの打込みの様子
出典:清水建設Webサイト
環境経営推進室 企画部長 伊東 浩司(いとう・こうじ)氏 |
前編では、自社が排出するCO₂量を把握するためのシステム、建設生産過程や土木工事現場でのCO₂排出量を予測する自社開発のプラットフォーム、コンクリート分野での新技術などについてお話しいただきました。
後編では、自治体の補助金を活用したバイオ燃料の導入事例、発注者との対話・意識共有の必要性、カーボンニュートラルを進めるための後進の育成、環境教育などについてお聞きしていきます。
※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年9月)のものです。
後編はこちら:
技術の力とDXでカーボンニュートラルを推進
清水建設が目指す「ゼロを超えたプラスの価値提供」とは(後編)
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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