業界事例
2024/11/25 2024/11/25
技術の力とDXカーボンニュートラルを推進 清水建設が目指す「ゼロを超えたプラスの価値提供」とは(後編)
前編では、自社が排出するCO₂量を把握するためのシステム、建設生産過程や土木工事現場でのCO₂排出量を予測する自社開発のプラットフォーム、コンクリート分野での新技術などについてお話しいただきました。
後編では、自治体の補助金を活用したバイオ燃料の導入事例、発注者との対話・意識共有の必要性、カーボンニュートラルを進めるための後進の育成、環境教育などについてお聞きしていきます。
発注者との意識共有が持続的な脱炭素施策に不可欠
清水建設では、CO₂排出量削減の中長期目標「エコロジー・ミッション2030-2050」を設定し、施工時、自社オフィス、省エネ設計のカテゴリーごとに目標を定めています。このうち、Scope1,2の9割以上を占める建設現場の脱炭素を進めるために①エネルギー生産性の向上②建機の電動化③燃料の脱炭素化④再エネ由来電力の利用―の4項目を掲げて社内外に発信しています。
建機の電動化やBDF※1、HVO※2等軽油の代替燃料の現場導入にも取り組んでおり、伊東氏は「協力会社の売上、利益の確保という点では、差額補填などが必要になってきますが、いつまでもこれを容認していては当社自体が持続可能ではなくなってしまう」と懸念を示します。
ここでキーポイントとなるのが、発注者との対話、意識共有だと伊東氏は指摘します。「まずは発注者にとってのScope3-1またはScope2に当たる現場のCO₂排出量削減については、中長期の目標を定めて削減に取り組んでいる環境意識の高いお客様からの発注工事より取り組みを開始し、工事原価に組み入れ、工事代金の一部としてお客様にご負担いただく必要があると考えています。そのためには、営業担当、工事担当、コンペ提案の担当など、一人ひとりの意識向上が不可欠であり、場合によっては我々のようなサステナビリティ部門とお客様の工事発注部門とが対話を重ねて、お互いに理解を深めていく場面も出てくるのではないでしょうか」(伊東氏)
環境経営推進室 企画部長 伊東 浩司 氏
※1:Bio Diesel Fuel:菜種油や廃食用油などをメチルエステル化して製造されるディーゼルエンジン用のバイオ燃料
※2:Hydro-treated Vegetable Oil:廃食油、動物油脂、植物油残渣などを原料としたディーゼル燃料代替の液体燃料
自治体補助金をバイオ燃料導入に活用
さらに個社では力が及ばない部分については、日本建設業連合会を通じて、民間に限らず国交省などの官庁、自治体とも対話を進めていく必要があると伊東氏は言います。実際に自治体の補助金を活用した例としてあげられるのが、清水建設が施工、三菱地所が開発、三菱地所設計が設計監理を行っている「Torch Tower」(東京都千代田区大手町)の建設工事。東京都が公募する「バイオ燃料活用における事業化促進支援事業」に選ばれ、ユーグレナ社が提供するバイオ燃料を大型建設機械へ導入することで、環境負荷の少ない現場を実現する試みが進んでいるとのことです。
また、2025年の大阪・関西万博における建設・輸送分野でのリニューアブルディーゼルの活用は、大阪府が公募した「令和5年度・6年度カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択されています。伊東氏は「このような自治体からの補助金などが全国に拡大し、カーボンニュートラルを後押しする流れになることを期待したい」と話します。
「Torch Tower」でのバイオ燃料の給油
大阪・関西万博でのリニューアブルディーゼルの活用
次世代の育成、環境教育に注力
今後、建設業界においてカーボンニュートラルをさらに推し進める上で欠かせないものについて、伊東氏は「後進の育成、環境教育」だと主張します。「建設業界での環境・サステナビリティ部門への配員は、ある程度の現場経験を積んでからのローテーションというのが現状で、否が応でも平均年齢が高くなりがちです。私自身も2030年目標の達成まではギリギリ自分の目で確かめることができるでしょうが、2040年、2050年となると無理です。この先、2050年を見極めることができる次世代にいかに環境ビジョンを自分事として腹落ちしてもらうか、そして足元の施策につなげていけるかが重要になってくると思います」(伊東氏)
実際に、清水建設では2024年度から、建築、土木、設計、調達、営業、総務などから若手社員を選抜し「SHIMZ Beyond Zero 2050 部門意見交換会と若手ワークショップ」という取り組みを開始。前半パートは、支店幹部・部署長も交え、社会動向や全社施策の説明、意見交換、後半パートは、自身の業務と環境ビジョンとの関連性、具体的取り組みと課題についてのワークショップ・意見交換という構成で、企画段階からファシリテーションまでを環境経営推進室の若手が担っているそうです。伊東氏は「まずは地方10支店を対象にし、現在3支店で実施し終わったところです。事前・事後のアンケート結果からも一定の効果が読み取れます」と手応えを感じています。
「さらに2024年秋から『自然体験型環境教育』という取り組みも開始しました。ワークショップが地方支店の若手を対象にしているのに対して、こちらは本社部門の若手が対象で、首都圏近郊、神奈川・東京・埼玉の3サイトを、それぞれ名水、巨木、里地をテーマに選定し、自身の業務との関連性を体感してもらう試みです」(伊東氏)
環境に高い関心を持つ顧客やESG機関投資家などから「取り組みを教えてほしい」という要望を受ける機会が格段に増えたと伊東氏は感じています。「環境をはじめとするSDGsへの貢献なしに企業の持続的発展は無いということなのでしょう。ただ、あらゆる環境技術・対策にはコストがかかる以上、優れた環境技術や愚直な環境対策の取り組みが、品質、コスト、工期、安全とともに適切に評価され、取り組んだ企業が選ばれる。取り組まないと淘汰される。結果、皆が同時に取り組む位でないと、温暖化、気象災害激甚化は避けられません。まだそこまでには至らない現状をどう打破するのかは難しい課題です」(伊東氏)
こうした課題解決に臨む上で「企業の持続性というよりも、地球や国土の持続性という視点が重要なのではないか」と伊東氏は提案します。「当社の掲げている『子どもたちに誇れるしごとを。』体現し、持続的な未来づくりをしていくためには、同業他社間で環境対策技術を競うのではなく、むしろ技術を共有するくらいの気持ちで協調領域を拡げていく必要があるのではないでしょうか」
『自然体験型環境教育』の参加者
環境経営推進室 企画部長 伊東 浩司(いとう・こうじ)氏 |
前編はこちら:
技術の力とDXでカーボンニュートラルを推進
清水建設が目指す「ゼロを超えたプラスの価値提供」とは(前編)
終わりに
自社が排出するCO₂量計測システムの構築や、現場でのCO₂排出量算出プラットフォームの開発、環境配慮型コンクリートの開発など、清水建設はまさにデジタルと技術の力を駆使して、カーボンニュートラルの実現という大きな課題に挑んでいます。一方で、2050年を見据え、さきの時代に活躍できる人材育成の必要性も強く感じています。
子どもたちに誇れる、持続可能な未来作りは、「SHIMZ Beyond Zero 2050」が目指す「ゼロを超えたプラスの価値提供」につながる一つの答えではないかと感じました。次世代に何が残せるか、建設業界全体で知恵と技術を共有する機運が高まることに期待が膨らみます。
※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年9月)のものです。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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