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2023/12/28 2024/11/5
交通手段が集まる「モビリティハブ」がまちづくりで注目されている理由
モビリティハブは複数の交通手段が集まっている場所の名称です。例えば鉄道の駅は、電車、バス、タクシーと複数の交通手段が集まっている場所なので広い意味ではモビリティハブですが、現代のモビリティハブはより高度化しています。
これは、現代は交通手段が増えて、移動に関するニーズが多様化しているので、高度なモビリティハブが求められるようになったためです。モビリティハブはこれからのまちづくりのキーワードになるでしょう。
本記事では、建設業界の方向けにモビリティハブの概要を解説したうえで、まちづくりにモビリティハブを導入するメリットを紹介します。さらにモビリティハブの活用事例を確認していきます。
モビリティハブとは?
本章ではモビリティハブとは何か、について解説いたします。
モビリティハブはモビリティ・アズ・ア・サービス(以下、MaaS)の文脈でとらえられることが多いです。MaaSの要素の一つとしてモビリティハブが用いられています。
MaaSを実現するためのモビリティハブ
国土交通省はMaaSを次のように定義しています。
地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるもの
この定義のポイントは、
- 対象者が地域住民だけでなく旅行者も含まれている
- 複数の交通手段の利活用を念頭に置いている
- 検索・予約・決済も含まれている
- 交通分野にとどまらず観光分野や医療分野なども関与する
- 地域課題の解決に資する
の5点です。
なお、この定義のなかにはITという文字が出てきませんが、3)の検索・予約・決済はインターネットやスマホの利用を前提にしているので、ITもMaaSに深く関わっています。
このように、MaaSでは複雑かつ高度なシステムが要求されており、様々な交通手段の中心地として、モビリティハブが必要とされています。
参照:「移動」の概念が変わる? 新たな移動サービス「MaaS(マース)」 | 政府広報オンライン
交通手段の結節点としてのモビリティハブ
結節点とは、つなぎ合わせた部分、結び目という意味です。モビリティハブには、複数の交通手段の結節点という特徴があります。
例えば、カーシェアリングで借りた自動車の利用を終えて、自動車を指定の駐車場に置いたあと、その駐車場のエリア内に設置されているシェアサイクリングの自転車を借りて会社に向かう場合、この駐車場はモビリティハブと言えます。なぜなら、カーシェアとシェアサイクリングという2つの交通手段をつないでいるからです。
さらに、この駐車場内にシェア電動キックボードがあれば、モビリティハブとしての機能はさらに充実することになります。
場所ごとのモビリティハブ
モビリティハブ事業では、電車、車、自転車、飛行機、電動キックボードといった交通手段だけでなく、モビリティハブが置かれる場所も重要になります。
例えば、住宅街やその周辺にモビリティハブを設置すれば、近隣住民が自宅からコンビニに行ったり、病院に行ったり、公園に遊びに行ったりするのに便利です。
また、オフィス街にモビリティハブを置けば、営業担当者はさまざまな交通手段を使って得意先に行くことができます。
地方にモビリティハブがあれば、運転免許を返納して自家用車を使えなくなった高齢者が買い物難民にならずに済みます。
このようにモビリティハブでは、利用者目線がとても重要になってきます。モビリティハブを設置するときは、これを利用するであろう人が今、どのような移動ニーズ、交通ニーズ、生活ニーズを抱えているのか把握する必要があります。
経済、ビジネスの観点でのモビリティハブ
モビリティハブは経済成長に寄与するポテンシャルを持っているため、ビジネスに組み込むことが可能です。
例えば、有名観光地では今、観光客が大量に押し寄せてしまうオーバー・ツーリズムが問題になっています。観光客が地域住民の移動手段になっている公共交通機関を占領してしまい、地域住民が困っているケースが多く見られています。
有名観光地にモビリティーハブを作ると交通手段が増えるので、公共交通機関への集中が緩和されます。また、モビリティハブで使用する自転車や電動キックボードは乗っていて楽しいので、それ自体が観光ツールになります。
また、大型ショッピングモールが敷地内や近隣に複数のモビリティハブを置けば集客に貢献するでしょう。
物流拠点としてのモビリティハブ
モビリティハブの観点から物流を見た場合、特筆すべき点があるので別途解説します。
物流は経済の血液に例えられ、これが滞ると経済の低迷を招きます。それほど重要な物流でありながら、トラック・ドライバー不足、宅配便の再配達コスト増、EC(ネット通販)の拡大による物流ニーズの増大といった複数の問題を抱えています。
この物流の「線」の上にモビリティハブという「点」を置くことで、物流の流れが改善されることが期待されています。
例えば宅配便では、大量の荷物を積んだ大きなトラックで、住宅や商店が密集した地域を巡るのは不便です。交通事故のリスクもありますし、交通渋滞を引き起こすかもしれません。そこで住宅・商店密集地の手前にモビリティハブを設置して、トラックを停めておけるスペースと、小分けした荷物を運ぶことができる交通手段を配置しておけば、配達担当者も地域住民も快適に物流を利用できます。
また宅配便の再配達問題では、マンションや一軒家に設置する宅配ボックスが有効手段になっていますが、これも物流モビリティハブのツールと考えることができます。
交通手段の革新としてのモビリティハブ
モビリティハブにはさまざまな交通手段が使われると説明しました。この交通手段のなかには革新的なものも含まれます。例えば電気自動車(以下EV)や自動運転車、空飛ぶ車、宅配用のドローンなどです。
これら革新的な交通手段はモビリティハブの可能性を広げることになるでしょう。
また、従来の交通手段を使いながら、モビリティハブを革新的に運用することもできます。例えば貨物列車の駅にモビリティハブを整備すれば、環境負荷が低い貨物列車をこれまで以上に活用でき、物流のモーダルシフト化に貢献できます。
モビリティハブのメリット
地域にモビリティハブがあると、次のようなメリットを期待できます。
- 交通手段の多様化と利便性の向上
- 環境負荷の軽減
- 経済的にお得
- ユーザー体験の向上
- 社会的包摂の促進
これらのメリットを一つずつ確認していきます。
交通手段の多様化と利便性の向上
モビリティハブは地域に交通手段の多様化と利便性の向上をもたらすでしょう。例えば、バス、電車、タクシー、カーシェアリング、シェアサイクリングを1カ所で使える場所があれば、地域の人たちや観光客はそれらのなかから好きな交通手段を選ぶことができます。
さらに、日によって交通手段を変えることもできます。「いつもはバスを使っているが運動不足を解消するために今日はシェアサイクリングを使おう」なども可能です。
そして、モビリティハブが増えることで交通手段の多様化はさらに進みます。あるモビリティハブから別のモビリティハブまでタクシーで行って、そこでシェアサイクリングに乗り換えて地域を巡り、そこから3カ所目のモビリティハブに行って電車で帰宅する、といったことも可能です。
交通手段の多様化は利用者の利便性の向上につながります。モビリティハブという点が増えて、交通手段によって線になれば、利用者の移動は途切れることなく続き、移動時間が短縮されるでしょう。モビリティハブの充実は都市内での移動も、複数の都市間の移動も効率化します。
環境負荷の軽減
モビリティハブは地域に、環境負荷の軽減をもたらすでしょう。
国土交通省によると、輸送量当たりのCO22排出量(単位はg-CO2/人キロ)は、自家用車173、航空111、バス51、鉄道19となっています。自家用車は便利ですが環境負荷が大きく、鉄道は環境負荷が小さいのですが駅で降りるしかないので行きたい場所の近くまでしかいけません。
モビリティハブはさまざまな交通手段を混合することができるので、利便性を高めたいときは利便性を高め、環境負荷を小さくしたいときは環境負荷を小さくできるため、利用者にとって最適な移動を可能にします。したがって、最適な移動が可能になると、利便性と環境負荷がそれぞれ最適化されます。
モビリティハブの整備が進めば、自家用車の利用が格段に減って環境負荷が減少したのに利便性が低下していない、という良い効果が得られるでしょう。CO22排出量が減るだけでなく、大気汚染や交通渋滞も改善される見込みです。このことは持続可能な都市環境の実現に寄与します。
参照:公共交通機関の利用促進による二酸化炭素排出削減に向けた課題
経済的にお得
モビリティハブは経済的にお得な仕組みです。例えば移動にかかる費用を減らしたい人であれば、モビリティハブにある最も安い交通手段を選択することができますので、経済的にお得になります。
そしてモビリティハブの利用者が増えれば、そこに乗り入れている電車やバスなどの利用も増えます。この結果、公共交通機関の事業者が潤いますので、公共交通機関にとって利益になります。
さらにモビリティハブは住民サービスの向上につながるので、住みやすい街になり、その地域の人口が増える可能性があるため、人口減に悩む自治体にとっても利益になるかもしれません。
ほかにも、モビリティハブは新しい交通手段を生み出すモチベーションになるので、ベンチャー企業を刺激するでしょう。これにより、新たなビジネスチャンスを生み、そのビジネスチャンスを手にした企業は雇用を増やします。つまり、ベンチャー企業にも労働者にもお得になります。
ユーザー体験の向上
モビリティハブはユーザー体験の向上をもたらすでしょう。
例えば、電動キックボードはこれまでになかった交通手段であり利便性の高さが注目されていますが、乗っていて楽しい乗り物でもあります。つまり、交通手段は通常A地点からB地点まで快適かつ安全かつ素早く移動できればよいのですが、電動キックボードはそこに楽しさが加わるため、ユーザー体験の向上がもたらされます。
さらに、モビリティハブ事業にデジタルプラットフォームが加わると予約や支払いが一元管理できるようになり、これもユーザー体験を向上させます。
社会的包摂の促進
モビリティハブは地域に社会的包摂の促進をもたらすでしょう。社会的包摂とは、社会的に全体を包み込み、誰も排除されず、全員が社会に参画する機会を持つことです。
モビリティハブは交通手段が増えるので、そのなかには高齢者や障がい者、低所得者など交通弱者が利用しやすいものも加わります。つまり、誰でも気軽に移動できる社会を実現するツールがモビリティハブです。
モビリティハブの日本での活用事例
ここではモビリティハブの日本での活用事例を紹介します。ぜひ、参考にしてモビリティハブをどう活用することで環境負荷の軽減や交通インフラの効率化に繋がるかをイメージしてみて下さい。
駐車場
重工業のA社のモビリティハブのコンセプトは、駐車スペースから社会インフラへ、です。A社は社会課題、車問題、まちづくりの3つの観点から新しい駐車場の在り方を考えました。
駐車場は普通、自家用車や営業車などを停めますが、モビリティハブ駐車場には電動キックボードや電動車椅子用の充電設備も備えています。
そして、駐車場を宅配用ドローンの発着点にします。荷物を積んだトラックがモビリティハブ駐車場にやってきて、ここからドローンで1軒1軒に荷物を届けます。
さらに、駐車場に太陽光発電用のパネルを設置して発電も行います。
普通の駐車場には車を置いておく機能しかありませんが、モビリティハブ駐車場は様々な機能が付与されていますので、社会インフラとして重要になるでしょう。
参照:モビリティハブ駐車場 | IHI運搬機械の未来 | IHI運搬機械株式会社の自走式駐車場
駅
シェアサイクリングを全国展開するB社は駅などにマルチ・モビリティ・ステーションを設置しています。これはつまり、さまざま(マルチ)な乗り物(モビリティ)を置くところ(ステーション)です。
B社は自転車だけでなく、スクーター、小型EV、電気スクーターなどのシェアも事業化しました。さらにシェアサイクリングでは、自転車にGPS機能を搭載してコンピュータ・システムで管理することで遠隔地から予約したり、スマホ・アプリでロックを解除したり、返却・施錠できるようにしました。
マルチ・モビリティ・ステーションは、B社のさまざまな乗り物を置きます。そして駅にマルチ・モビリティ・ステーションを配置することで、鉄道も加わったモビリティハブになります。
参照:モビリティハブにおけるシェアサイクルの現状と駐車場連携について
まとめ
モビリティハブは、MaaSにおいて移動手段の多様化を提供し、移動の自由度を高めることが期待されています。モビリティハブにさまざまな交通手段を結節させることによって利便性が増し、環境負荷が減り、経済を活性化させます。
工業立国でありモノづくり大国である日本は、モビリティとなる乗り物づくりが得意です。そして人口減と都市部への人口集中が同時に進んでいるので、都市部では交通の過密化が進み、地方では交通難民を生んでいます。日本が得意なモビリティを建設業界でも使うことで、日本の社会課題を解決することにつながるのではないでしょうか。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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