基礎情報
2024/1/10 2024/10/9
カーボンクレジットとは?仕組みや制度の種類を解説
近年問題となっている温室効果ガスの排出を削減するために、脱炭素が注目されています。最近では、企業単位でも「省エネ」「節電」「電化」をはじめとしたさまざまな脱炭素への取り組みを進めています。脱炭素への取り組みを進める中で「カーボンクレジット」という言葉を目にする機会があるのではないでしょうか。
当記事ではカーボンクレジットとはどのような制度なのか、その仕組みや目的に触れながら解説します。カーボンクレジットの制度や種類に関しても説明するので、ぜひ参考にしてください。
カーボンクレジットとは温室効果ガス削減量を売買する仕組み
カーボンクレジットとは温室効果ガスの削減量をクレジット(排出権)として売買する仕組みのことです。カーボンクレジットは「炭素クレジット」といわれる場合もあります。
企業が森林の保護や植林、省エネルギー機器導入などによって実現した温室効果ガスの削減量や吸収量を「クレジット(排出権)」として企業間などで売買します。
カーボンクレジットを購入した企業は、購入したクレジット分の削減量を自社の削減量としてみなされます。一方、自社の排出量をカーボンクレジットとして売る企業は、CO2削減量を売却することで利益を得ることができます。
カーボンクレジットの目的は、温室効果ガス排出削減の目標に向けた取り組みを成長の機会として、経済社会システム全体の変革を図ることです。2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」によるとカーボンクレジット市場の開設が盛り込まれており、温室効果ガス排出削減への投資を促進していることが伺えます。
なお、カーボンクレジットは「カーボン・オフセット」の取り組みのひとつです。「カーボン・オフセット」は、温室効果ガスを削減し、やむを得えず規定量を超えた排出量を温室効果ガス削減活動へに投資することでオフセットする仕組みで、カーボンクレジットの購入等を通して行われます。
カーボン・オフセットの仕組みや取り組み方法に関して知りたい方は「カーボン・オフセット」を確認してください。
カーボンクレジット市場の動向
世界的にカーボンクレジット市場の規模は先進国を中心に拡大傾向にあります。2022年には「排出権取引(ETS)」と「炭素税」を導入している国や政府の収益は、世界全体で約950億ドルに達しています(前年比1割増)。
とくに、排出権取引の収益は多少の増減傾向があるものの、2016年以降増加しており、カーボンニュートラルに向けて今後更なる収益増が見込まれます。
【世界の「排出権取引(ETS)」と「炭素税」による収入(2022年)】
排出権取引 | 炭素税 |
69%(約655.5億ドル) | 31%(約295億ドル) |
参照:Open Knowledge Repository「State and Trends of Carbon Pricing 2023」
画像出典:Open Knowledge Repository「State and Trends of Carbon Pricing 2023」(リンク先英語)
日本でもカーボンクレジット市場は拡大傾向にあり、2022年の日本国内におけるクレジット取引企業数は約200社、クレジット取引量は約1.16億トンでした。
なお、日本では2023年10月東京証券取引所が正式にカーボンクレジット市場を開設しました。日本では取引が開始されて間もないため、市場規模が小さい点が課題となっていますが、今後さらなる市場拡大が見込まれるでしょう。
参照:
ジェトロ「カーボンプライシング政策、世界で950億ドルの収入、世界銀行推計(世界) | ビジネス短信」
経済産業省「カーボンクレジット・レポートを踏まえた 政策動向」
カーボンクレジットの取引制度は2種類に分類される
カーボンクレジットの取引制度は「ベースライン&クレジット制度」「キャップ&トレード制度」の2種類に分類されます。2種類の取引制度はいずれも、先進国の温室効果ガスの排出削減について法的拘束力のある数値目標などを定めた京都議定書で認められています。
【カーボンクレジットの取引制度】
ベースライン&クレジット制度 | キャップ&トレード制度 | |
対象範囲 | 設備・施設 | 組織・施設 |
環境価値 | 追加削減分 | 排出枠からの削減分 |
活用用途 | 自主活用規制対応 | 規制対応 |
価格決定 | 相対取引 | 市場価格 |
参照:経済産業省「カーボンニュートラルの実現に向けた カーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会(第1回)」
ベースライン&クレジット制度
ベースライン&クレジット制度は、実際の温室効果ガスの排出量が過去の排出量などに基づく「排出量見通し(ベースライン)」を下回った場合の差分をクレジットとして認証する制度です。クレジットとして認証されるためには、温室効果ガス排出量の測定、報告および検証を行う「MRV(Measurement, Reporting and Verification)」を経る必要があります。
ベースライン&クレジット制度では、排出削減量だけでなく森林管理や植林などによる「吸収・吸着」によってもクレジットを創出できます。
日本のベースライン&クレジット制度として、政府が管理する非化石証書や、 民間事業者により管理されているグリーン電力・熱証書などの取引が挙げられます。ベースライン&クレジット制度への取り組みを行った事業者は利益を得られるため、温室効果ガスの排出削減の動機付けとなる効果が期待されています。
キャップ&トレード制度
キャップ&トレード制度は「国内排出量取引制度」ともいわれ、事業者に対して排出枠(キャップ)を設けてその余剰排出量や不足排出量を取引(トレード)する制度です。キャップ&トレード制度は、温室効果ガスの排出量が多い大規模事業者を対象とした制度といえます。
たとえば、東京都では条例により事業所ごとに可能な排出量は定められており、自らの対策によって削減できない排出量を余裕のある事業所からクレジットとして購入できる制度が設けられています。
キャップ&トレード制度は、公平なルールの下で排出削減を担保し、かつ取引等を認めることで、将来の投資等への活用が可能になるなど、柔軟性も発揮します。また、キャップ&トレード制度によって費用を抑えた排出削減の取り組みが効率的に行われ、社会全体の効率的な排出削減や、低炭素や脱炭素を実現できる製品や技術への需要が高まる可能性があります。
そのため、キャップ&トレード制度は、経済社会システム全体で脱炭素への取り組みを促進する効果が期待できる制度といえるでしょう。
参照:東京都環境局「大規模事業所における対策」
カーボンクレジットの種類
カーボンクレジットの種類は大まかに「国連・ 政府主導」「民間主導 (ボランタリークレジット)」に二分されます。さらに 「国連・ 政府主導」は3種類に分類されます。
【カーボンクレジットの種類】
「国連・ 政府主導」「民間主導 (ボランタリークレジット)」
国連・政府主義 | 民間主導(ボランタリークレジット) |
<国連主導>
・京都メカニズムクレジット(CDM 、GIS 、JIなど) |
・VCS
(Verified Carbon Standard) ・GS (Gold Standard) ・ACR (American Carbon Registry) ・CAR (Climate Action Reserve) |
<二国間>
・JCMなど |
|
<国内制度>
・J-クレジット(日本) ・CCER(中国) ・ACCUs(豪州) |
参照:経済産業省「カーボン・クレジット・レポートの概要」
国連主導
国連主導制度の例として2006年から2013年にわたって実施された「京都メカニズムクレジット」があります。京都メカニズムクレジットは、京都議定書によって規定されたもので、3種類のメカニズムがあります。
【京都メカニズムクレジット】
・クリーン開発メカニズム(CDM)
・グリーン投資スキーム(GIS)
・共同実施(JI)
京都メカニズムによって、事業期間中に9,749.3万トン分の温室効果ガスの排出削減量クレジットを取得しており、政府目標の約1億トンをほぼ達成しています。
参照:環境省「京都メカニズムクレジット取得事業の概要について」
二国間
二国間制度(JCM)は、途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度です。脱炭素技術やサービスなどを通じ、パートナー国での温室効果ガス排出削減や持続可能な発展に貢献し、その貢献分を定量的に評価してクレジットを獲得する仕組みです。
二国間制度(JCM)はパリ協定達成に貢献することを目的にしており、日本は(2023年7月時点で27か国と関係性を構築しています。)
国内制度
中国や豪州などでは各国独自のカーボンクレジット制度があります。日本では、J-クレジットが国内制度に該当し、温室効果ガスの排出削減量・吸収量を国がクレジットとして認証する仕組みとして機能しています。
【国内制度の例】
国 | 制度名 |
日本 | J-クレジット |
中国 | CCER |
豪州 | ACCUs |
なお、J-クレジットの制度に則って地方公共団体が運営する認証制度も存在します。東京都と埼玉県は「キャップ&トレード制度の首都圏への波及に向けた東京都と埼玉県の連携に関する協定」を締結しており、相互のクレジット取引が可能になっています。
民間主導
民間主導のボランタリークレジットは、海外の民間企業や団体などによる制度です。経済産業省は、代表的なボランタリークレジットとして取引規模・活用状況等から4制度をあげています。
【民間主導制度の例】
制度の種類 | 制度の概要 |
VCS
(Verified Carbon Standard) |
2005年に複数の民間企業が参加している団体が設立した認証基準・制度 |
GS
(Gold Standard) |
2003年にWWF(World Wide Fund for Nature)等の国際的な環境NGOが設立した認証基準・制度 |
ACR
(American Carbon Registry) |
1996年設立の世界初の民間クレジット認証基準・制度 |
CAR
(Climate Action Reserve) |
2001年創設のCalifornia Climate Action Registryを起源に持つ認証基準・制度 |
参照:経済産業省「カーボン・クレジット・レポートの概要」
たとえば、「VCS(Verified Carbon Standard)」はWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)やIETA(国際排出量取引協会)などの機関によって設立された制度です。また、環境NGOが設立した「GS(Gold Standard)」もあり、持続可能な開発や地域コミュニティへの貢献が評価として重視されます。
なお、ボランタリークレジットは、国内で発行されているJ-クレジット・グリーン電力証書・非化石証書などの環境証書とは異なり、公的な報告には使用できません。
建設業界でのカーボンクレジットへの取り組み事例
国内外でさまざまなカーボンクレジット制度が導入されており、建設業界も例外ではありません。建設業界ではカーボンクレジットを活用したカーボン・オフセットへの取り組みが行われています。
【建設業界でのカーボンクレジットへの取り組み事例】
- 事例①汚染土壌検査によるCO2をクレジット購入(株式会社エイチテック)
- 事例②社有林の森林整備によるクレジットの取得(住友林業株式会社)
- 事例③住宅展示場来場者へのクレジット付与(株式会社ライダース・パブリシティ)
参照:国土交通省「建設業・不動産業におけるカーボン・オフセットの 取組の調査検討業務」
事例①汚染土壌検査によるCO2をクレジット購入
“エイチテックは、土壌汚染調査・対策業務において使用する運搬時および現地での燃料消費に伴って発生するCO2を、国内クレジットでカーボン・オフセットしている。土壌汚染調査・対策業務の発注が行われた際に、現場への運搬距離と稼働日数より排出量を算定する。機材や人員運搬用のトラックの燃料消費や、調査機材等が使用する燃料消費に伴うCO2をオフセット対象としている。オフセットが行われた際に、顧客にはカーボン・オフセット証書を発行している。2010 年 3 月~2011 年 12 月までの間に、150 t分のオフセットが実施された。同社に土壌汚染調査、対策業務を発注した顧客が、間接的に地球温暖化防止に貢献で きることをPRしている。“
引用:国土交通省「建設業・不動産業におけるカーボン・オフセットの 取組の調査検討業務 報告書」
3.1.1 「商品使用・サービス利用オフセット」の事例(4) 株式会社エイチテック:「カーボン・オフセット付汚染土壌検査」
画像出典:国土交通省「建設業・不動産業におけるカーボン・オフセットの 取組の調査検討業務 報告書」
事例②社有林の森林整備によるクレジットの取得
“住友林業は、東京、大阪、名古屋で開催した自社主催のイベント「住まい博 2011」において、イベントから排出される CO2を、自社社有林で取得したオフセット・クレジ ット(J-VER)を活用してオフセットした。設営から開催期間、撤去までに各会場で使用する電気・ガス・水道によって排出され るCO2相当量(約 50 t)をオフセット対象とした。“
引用:国土交通省「建設業・不動産業におけるカーボン・オフセットの 取組の調査検討業務 報告書」
3.1.2 「会議・イベント開催オフセット」の事例 (1) 住友林業株式会社:住宅イベントのオフセット
画像出典:国土交通省「建設業・不動産業におけるカーボン・オフセットの 取組の調査検討業務 報告書」
事例③住宅展示場来場者へのクレジット付与
“ライダース・パブリシティは、全国の住宅展示場にて実施されるオフセットキャンペーンで、アンケートに協力してもらった展示場来場者に対して、クレジット3 kg分を付与した。来場者の地球環境への貢献と商品の販促活動を目的とした。住宅展示場の来場者の日常生活から排出される CO2排出量をオフセット対象とした。2011 年までに、CER を 84 t、J-VER を 35 t、オフセットに用いている。“
引用:国土交通省「建設業・不動産業におけるカーボン・オフセットの 取組の調査検討業務 報告書」
3.1.2 「会議・イベント開催オフセット」の事例(2)株式会社ライダース・パブリシティ:住宅展示場来場者へのオフセット
画像出典:国土交通省「建設業・不動産業におけるカーボン・オフセットの 取組の調査検討業務 報告書」
まとめ
カーボンクレジットは、温室効果ガスの削減量をクレジット(排出権)として売買する仕組みのことです。森林の保護や植林、省エネルギー機器導入などによる温室効果ガスの削減効果(削減量、吸収量)をクレジット(排出権)として発行して売買します。
カーボンクレジットの取引制度は、おもに「ベースライン&クレジット制度」「キャップ&トレード制度」の2種類です。また、カーボンクレジットの種類は大まかに「国連・ 政府主導」「民間主導 (ボランタリークレジット)」に二分され「国連・ 政府主導」はさらに3種類に分類されます。
建設に関わるさまざまな企業がカーボンクレジットを活用したカーボン・オフセットへの取り組みを行っています。本記事を参考にカーボンクレジットの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
建設業界では、入札段階や工事成績評点で施工時や竣工後の建築物においてCO2排出量の削減が評価され、加点につながる動きが生じています。また、建設会社からCO2排出量を開示し削減方針を示さないと、発注者であるデベロッパーから施工者として選ばれにくくなる状況も起きており、建設会社にとってCO2排出量の管理・削減は喫緊の課題です。
リバスタでは建設業界のCO2対策の支援を行っております。新しいクラウドサービス「TansoMiru」(タンソミル)は、建設業に特化したCO2排出量の算出・現場単位の可視化が可能です。 ぜひこの機会にサービス内容をご確認ください。
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
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