業界事例
2024/4/4 2024/9/25
戸田建設の脱炭素戦略 ライフサイクルを意識した温室効果ガスの削減(前編)
はじめに
戸田建設は2024年2月、「CDP 2023気候変動Aリスト」に選定されました。「CDP」とは、自治体や企業等の環境への取り組みを評価・情報開示する国際NGOで、Aリスト入りは気候変動に対する活動と情報開示において世界的な先進企業であると評価された証です。2018年以降、6年連続でのAリスト選定は国内ゼネコンとして唯一。気候変動への取り組みが国際的に高い評価を受けている戸田建設は、脱炭素社会の実現に向けてどのような活動を推進しているのか。イノベーション推進統轄部長の樋口正一郎氏に、脱炭素関連の施策、建設現場でのCO2削減に向けた取り組み、建物のライフサイクルを意識したCO2削減策などについてお話を伺いました。
脱炭素関連施策を始めとしたサステナブル方針
―2021年12月に、持続可能な社会の実現に向けて定めた「サステナビリティビジョン2050」の中で「脱炭素社会の実現」をマテリアリティ(重要課題)の一つとして挙げています、その背景や思いについて教えてください。
私たち戸田建設グループは、2015年に策定したグローバルビジョンに基づいて、持続可能な社会の実現のためのマテリアリティを改めて特定し、「サステナビリティビジョン2050」として定めました。
当社にとって、ステークホルダーへの影響度と、事業への影響度の2つの軸で評価した上で抽出したのが、「豊かな暮らしを支える街づくり」「環境と共生したインフラ整備」「脱炭素社会の実現」「技術革新と提供価値の向上」「働く喜びを感じる職場づくり」の5つのマテリアリティです。
この中の「脱炭素社会の実現」を紐解いていくと、取り組むテーマとして「サプライチェーンを含む温室効果ガスの削減」「ZEB・省エネ建物の提供」「高度なエネルギーマネジメントの提供」「再エネ電源拡大への貢献」「資源の有効活用と廃棄物削減・リサイクル推進」が挙げられています。
サステナビリティ推進の監督・指導を行う「サステナビリティ委員会」を取締役会の諮問機関として設置し、執行側にも「サステナビリティ戦略委員会」を設けています。この中で「環境エネルギー」「社会活動」「ガバナンス」「ベネフィット」
の4つの観点から取り組むテーマを決めて議論を深めています。
戸田建設株式会社
常務執行役員 イノベーション推進統轄部長
樋口 正一郎 氏
カーボンニュートラルに向けた行動計画
―Scope1、2、3におけるCO2削減のグループ行動計画について教えてください。
当社は、2030年度に向けて1.5℃水準のCO2削減目標を設定し、SBTイニシアチブ※1による認定も取得しています。
当社のCO2排出量を見ると、Scope3が95%以上を占めています。その中でも特に、カテゴリ1(建設資材製造時等の排出)とカテゴリ11(施工した建物の使用期間中の排出)の割合が大きくなっています。
私たち建設会社は建物を作って世の中に送り出していますが、建設時にはコンクリートや鋼材をはじめとする様々な建設資材を使用し、それらが現場に搬入されるまでには大量のCO2が排出されます。さらに引き渡し後には50年、60年といった長期にわたって建物が使用される中でたくさんのエネルギーを使いますので、環境に対する影響度は非常に高いわけです。
Scope1、2に関していうと、90%以上が建設工事により排出されています。特に建設工事に関しては、軽油の使用に伴うCO2排出が約73%を占めています。
例えば、現場で使う重機は軽油で動いていますが、これを電動化するにはメーカーさんへの働きかけが必要ですし、建物が排出するCO2削減のためには、我々が発注者に対しエネルギー消費の少ない建物を提案していくことが大事だと思います。
我々が独自でできることと、社会に向かって発信して周辺からの協力が得られるような行動を起こしていくという両輪の活動を通し、CO2削減を進めることが行動計画の大きな目的です。
出典:戸田建設Webサイト
※1: SBT(企業が設定する温室効果ガス排出削減目標で、企業はパリ協定の基準に基づき削減目標となるSBTを設定。SBTを設定する場合、毎年2.5%以上の温室効果ガスの削減を目安に、5~15年先まで削減目標を設定)を推進する国際団体のこと。
建設現場におけるCO2削減
―建物を建設する現場において、CO2削減のためにどのような取り組みをされていますか。
建設現場のScope1、2では軽油の使用による排出量の割合が大きいので、軽油に添加することで燃費を向上させ、CO2排出量の削減効果が得られる燃焼促進剤(K-S1)を使用しています。また、CO2排出係数が軽油と比較して低く、CO2排出量を削減できる天然ガス由来のGTL燃料(Gas to Liquids)の使用を2020年から始めました。
CO2排出量が実質ゼロとなるカーボンニュートラル燃料として、バイオディーゼル燃料の利用も推進しています。過去には、自治体と協力して家庭から廃食用油を集め、自社にてバイオディーゼル燃料を製造するという試みにも取り組みました。現状では、バイオディーゼル燃料を利用できる建機が限られるため、リース会社と協働して、当社用に専用発電機を用意し、鉄骨やスタッド溶接等に利用しています。
カーボンニュートラルというテーマで考えると、建設機械も電動化、水素エンジン、バイオ燃料、合成燃料(e-fuel)等、さまざまな選択肢が考えられると思いますので、今後こういった新しい技術を搭載した機械を採用できるようになれば、積極的に使っていきたいと考えています。カーボンニュートラルを目指す以上、建設機械の領域に手をつけない限り実現は難しいので、将来に備えた取り組みは必須だと思います。
GTL燃料で稼働する重機
出典:戸田建設Webサイト
バイオディーゼル燃料専用発電機
出典:戸田建設Webサイト
調達資材とCO2排出量の関係
―建設資材の製造段階におけるCO2削減に向けて、取り組んでいらっしゃることを教えていただけますか?
Scope3カテゴリ1においてCO2排出は、建設資材の製造段階による排出が大半を占めています。鉄骨構造の主要部材に採用する鋼材については、高炉材ではなく電炉材を使うことで製造時のCO2がかなり下げられますから、電炉材の使用を推進しています。
次に、コンクリート製造にはセメントをかなり消費しますが、このセメント製造時にもたくさんのCO2が発生しています。ここをいかに低炭素の材料に変えていくかという課題があります。西松建設と当社で共同開発した「スラグリート®」は、製鉄所の高炉から発生する副産物である高炉スラグの微粉末を、セメントの代替として用いることで、セメント製造における温室効果ガスの排出量を削減したコンクリートです。コンクリートの材料起源のCO2排出量を60~70%削減できます。
さらに現在、「スラグリート®」をベースとしたカーボンネガティブコンクリート(製造工程で排出されるCO2を実質ゼロ以下に引き下げたコンクリート)の開発も進めています。CO2を吸収・固定化した炭酸カルシウムを添加し、その添加量次第で材料起源のCO2排出量を大幅に削減し、計算上、排出量ゼロ以下を目指すものです。
ただ一方で、「スラグリート®」に関して言えば、高炉スラグを供給できるエリアが限られている点や、中小の生コン工場では対応が難しいといった構造上の問題もあります。短期的には、環境性能を向上させてもコストが増加して採用に至らないなど、3歩進んで2歩下がるようなことも多いのですが、中長期的な視点で進めていきたいと考えています。
コンクリート製造時におけるCO2排出量の削減効果
出典:戸田建設Webサイト
戸田建設株式会社
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※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年2月)のものです。
前編では、カーボンニュートラルに向けた行動計画、建設現場における脱炭素の取り組み、CO2排出量を大幅に削減した新たなコンクリート資材「スラグリート®」の開発などについてお話しいただきました。
後編では、ZEB・省エネ建物の推進、建物ライフサイクル全体でのCO2削減、脱炭素社会実現に向けた今後の展望などについてお聞きしていきます。
後編はこちら:戸田建設の脱炭素戦略
ライフサイクルを意識した温室効果ガスの削減(後編)
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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