業界事例

時計 2024/4/4 アップデート 2024/4/19

戸田建設の脱炭素戦略 ライフサイクルを意識した温室効果ガスの削減(後編)

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

前編では、カーボンニュートラルに向けた行動計画、建設現場における脱炭素の取り組み、CO2排出量を大幅に削減した新たなコンクリート資材「スラグリート®」の開発などについてお話しいただきました。

後編では、ZEB・省エネ建物の推進、建物ライフサイクル全体でのCO2削減、脱炭素社会実現に向けた今後の展望などについてお聞きしていきます。

建物運用時のCO2排出量削減への挑戦

CO2排出量において大きな割合を占めるScope3カテゴリ11(施工した建物の使用期間中の排出)に対しては、どのような取り組みを進めていますか。

建物のライフサイクルにおけるCO2排出量の半分以上は、運用時のエネルギー使用と言われています。CO2削減のためには、建物の省エネ性能の向上や、ZEB※1の推進は必須です。

当社が初めて省エネビルの建設に取り組んだのは、2011年3月竣工の「TODA BUILDING 青山」です。当時、一般のビルと比べて消費エネルギー40%削減という省エネビルだったのですが、その辺りを契機にZEBへの取り組み、研究開発が加速しました。

消費エネルギーの削減はもちろんですが、その建物の中で働く人たちの環境を重視し、少しでも働きやすくて過ごしやすい、もっと言えば作業効率が上がる環境を提供できれば良いと思いますし、当社はそこを目指して設計をしています。

私は、省エネの原点は、いかに自然の原理をうまく使うかという点にあると思います。例えば、当社の筑波技術研究所のグリーンオフィス棟は、グリーンカーテンで断熱・遮熱性を高めたり、吹き抜けを設けて空気の循環を起こしたりすることで、動力を使わずに室内環境を整える工夫をしています。画期的な新技術というよりも、今ある技術を組み合わせて、いかに省エネ、脱炭素、かつ居心地の良い室内環境を提供できるかが、建設会社としての腕の見せ所だと思います。この建物では、省エネだけでなく、建物のライフサイクルにおけるカーボンマイナスに向けた取り組みを2021年から行っています。

お客様からも、職場環境の快適性と脱炭素対策は並行して求められるようになっていますので、当社としてもコンテンツやノウハウをためながら、より良い提案ができるように努めています。

TODA BUILDING 青山

出典:戸田建設WEBサイト

グリーンオフィス棟外観

出典:戸田建設WEBサイト

「グリーンオフィス棟」で採用されている主な環境配慮技術のイメージ

断熱性や遮熱性を高め、太陽光発電、地中熱利用、タスクアンビエント空調、自然換気などを採用し省エネルギー化を図っている。
さらに、照明・ブラインドの制御なども行い、健康に配慮した室内環境づくりも実現している。

出典:戸田建設WEBサイト

※1:Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼ぶ。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと。

LCAで建物ライフサイクル全体のCO2排出量を算定

―最近ではScope3としてだけでなく、建物のライフサイクル全体でのCO2削減への取り組みが求められています。

建物のCO2排出量をライフサイクルの中で見ると、建設から完成までが大体3割、運用時が5割強、残りの約2割を解体時が占めるとされています。建物のライフサイクル全体においてCO2排出量算定の評価手法である「ライフサイクルアセスメント」(LCA)が必要だということで、国主導でルール作りをしようという試みが始まっています。今はその評価手法がバラバラなので、統一化されたデータベースを整備していこうという流れです。我々としてもそこに参加することで、アカデミアの知見なども得られますし、今後のCO2削減活動に活かしていこうと思っています。

小さな工夫と技術の積み重ねが脱炭素への道

―建設会社として脱炭素に取り組む意義をどうお考えですか。

当社の気候変動、脱炭素への取り組みは、「CDP」のAリスト選定など一定の評価をいただいていますし、本社だけでなく、各支店でもCO2削減の数値目標を設定するなど全社的に進めています。各支店の数値目標は、建設現場一つひとつにも反映されています。例えば、作業所の環境に関する活動は「環境管理システム(Esys)」で一括管理し、CO2排出量等の管理をシステム上で行っており、各作業所の活動状況・実績を本社でも確認可能です。

また、当社はRE100イニシアチブにも加盟しており、グループ全体で事業活動に使用する電力を100%再エネにすることを目指しています。2022年度の実績で60%を超えており、順調に進捗しています。

サステナビリティという視点で見ると、CO2削減を始めとした環境負荷の小さい製品・建物を作る流れは、避けては通れない道だと思います。LCAに基づいて、施工段階において工事だけでなく、調達する資材の低炭素化、建物の省エネ性能の向上、さらに再エネを利用する設備の導入に取り組み、ライフサイクル全体でのCO2削減を目指すことは、サステナブルな社会の形成に必須であると共に、当社が事業を続けていくためにも不可欠であると考えています。

戸田建設株式会社
常務執行役員 イノベーション推進統轄部長
樋口 正一郎 氏

私自身が気候変動や脱炭素に関わるきっかけになったのは、先ほどお話しした「TODA BUILDING 青山」です。最初は普通のビルとして設計していたのですが、当時環境に対する関心が高まっていた時期で、環境最先端のビルを目指すことになり、当時の社長の指示で設計図を書き直しました。社内でも試行錯誤だったのですが、アドバイスをいただいていた有識者の方から「省エネにホームランはない。シングルヒットの積み重ねだ」と教えて頂きました。まさにあのビルもそうですが、この技術を採用すれば消費エネルギーが何十%も削減できるという技術はなくて、1%ずつの積み上げ、小さな工夫と技術の積み重ねでないと、省エネにしても脱炭素にしても成り立たないのではないかと思います。新しい技術開発にはもちろん取り組んでいますが、省エネや脱炭素を成し遂げるには、既存の技術を改良するなど小さな積み重ねの連続が重要だと考えています。

また、CO2削減の難しいところは目に見えない点です。今は、夏の暑い日でもエアコンを使うことで快適に過ごせますし、命の危険を感じることまではありません。しかし、将来的にもっともっと気温が上がり、外出が困難になるほどの段階で気づいても、もはや手の打ちようがないわけです。危機感を持つことはなかなか難しいですが、一人ひとりがCO2削減に対する意識を高め、将来に向けた想像力を働かせて行動に移していくことが大事なのではないでしょうか。

戸田建設株式会社
常務執行役員 イノベーション推進統轄部長
樋口 正一郎(ひぐち・しょういちろう) 氏

▶1980年4月 戸田建設株式会社 入社
▶2022年 4月 常務執行役員 イノベーション本部 イノベーション推進統轄部長

※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年2月)のものです。

終わりに

省エネやCO2削減を積極的に推し進めながらも、同時に、その建物を使う人にとって快適な環境を提供するという建設会社としての使命を大事にしている姿勢が印象的でした。

「スラグリート®」の開発や軽油代替燃料の積極的な導入など、新しい試みを取り入れつつも、既存の技術改良や小さな工夫を継続するという地道な積み重ねが、「CDP」でのAリスト6年連続選定という成果をもたらしているのかもしれません。

脱炭素社会の実現には、地道な取り組みを実直に続けていくという姿勢が欠かせません。「省エネにホームランはない。シングルヒットの積み重ねだ」という言葉は、そのままCO2削減への取り組みにも当てはまるのではないでしょうか。

 

前編はこちら:戸田建設の脱炭素戦略
ライフサイクルを意識した温室効果ガスの削減(前編)

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