基礎情報
2023/11/14 2023/11/15
水素と脱炭素の関連性は?エネルギー源としてのメリット・デメリットも解説
この記事の監修
リバスタ編集部
「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。
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水素は燃焼してもCO2を排出しないため、クリーンなエネルギーと言われており次世代エネルギー源として注目されています。
当記事では、水素エネルギーの基礎を解説すると共に、水素を使用するとどのようなメリットとデメリットがあるか説明しますので、是非参考にしてみてください。
水素エネルギーとは?
水素は酸素と結びつくとエネルギーを放出します。この時得られるエネルギーを水素エネルギーと言います。
水素は現在、水の電気分解と化石燃料の水蒸気改質の大きく二つの方法から製造されています。その他にも汚泥や廃プラスチックから水素を取り出す方法なども開発されつつあります。
水素エネルギーの特徴は燃焼時にCO2を放出しないのでクリーンなエネルギーであると共に軽量なので、一度に大量の水素を燃料として搭載することが可能になります。これは次世代車両の一つとされている燃料電池車(FCV)では優位な点となり、一度の水素充填で長距離走行が可能になります。
このように、水素はCO2を排出しないクリーンなエネルギー源ですので脱炭素へ向けた次世代エネルギーとして注目されています。
水素社会とは?
「水素社会」は経済産業省などの省庁で明確に定義されていませんが、日常生活や経済活動などへ水素を使うことが浸透した社会のことです。
現在、日本国内ではエネルギーの大部分を化石燃料に依存しており、化石燃料の燃焼により大量のCO2を排出しています。このため、化石燃料の使用量を減らすことが脱炭素への取り組みを進める上での課題となっています。
この化石燃料の使用量を減らす取り組みの一環として、水素の利活用を推進する「水素基本戦略」が経済産業省により策定されました。この中では化石燃料の使用量を減らすために、社会全体で水素エネルギーを有効活用する「水素社会」の実現を目指すことが示されています。
水素エネルギーと脱炭素経営の関わり
水素エネルギーを脱炭素経営に利用する場合に重要となるのが、水素サプライチェーンの整備です。水素サプライチェーンとは水素を活用するための「製造」「運輸」「貯蔵」「使用」といった一連の流れを社会に実装して利活用できるインフラを整えることをいいます。
環境省では、さまざまな地域水素サプライチェーン構築の実証を行っており、国内の航空機メーカーでは、水素サプライチェーン全般にわたる技術開発に取り組んでいます。
脱炭素経営を行うためにはまずはCO2排出源である化石燃料の使用を減らし、化石燃料から水素への置き換えを進める必要があります。例えば、社有車をガソリン車から燃料電池車へと変えることや、製造においてこれまで熱源に使用してきた化石燃料を水素に置き換えることなどが挙げられます。火力発電においても化石燃料に水素を混ぜて発電することなども検討されています。
このように、化石燃料の代わりに水素を使用することで化石燃料の使用量を減らし、CO2排出量を減らすことが可能になります。
詳しくは、環境省の「脱炭素化にむけた水素サプライチェーン・プラットフォーム」で事例が掲載されています。
水素エネルギーの種類
水素エネルギーはさまざまな資源から生成できますが、水素を生成する際に使用するエネルギー源によって3種類に分類されます。
水素は燃焼してもCO2を放出しないためクリーンなエネルギーですが、一方で水素製造時にCO2を放出していたら意味がありません。このため、下の表の通り水素の製造方法ごとに色付けされています。
【水素の種類】
水素の種類 | 生成時に使用するエネルギー源 |
グレー水素 | 化石燃料 |
ブルー水素 | 化石燃料
※製造により排出されるCO2を捕集 |
グリーン水素 | 再生可能エネルギー |
グレー水素は化石燃料を原料にして製造された水素です。この水素を製造する際にはCO2が排出されていますので、グレー水素と呼ばれています。
ブルー水素は化石燃料を原料としていますが、製造時に排出されるCO2を捕集し地中などに埋めてしまうため、製造時のCO2排出量がその分少なくなっています。このため、よりグリーンに近いブルー水素と呼ばれています。
グリーン水素は再生可能エネルギーを利用して作られた水素で水の電気分解により製造されます。再生可能エネルギーを利用して発電していますのでCO2排出はほぼゼロとなっており、グリーン水素と呼ばれています。
水素社会において、グレー水素を使用すると水素を使用した分CO2が排出されていますので脱炭素になりません。このため、脱炭素経営を行う場合にはグレー水素ではなくグリーン水素の使用が望まれます。
水素エネルギーのメリット
グリーン水素をエネルギーとして活用する場合には大きく二つのメリットがあります。
【メリット】
- 二酸化炭素を出さない
- エネルギー自給率向上が期待できる
上記2つのメリットについて紹介します。
二酸化炭素を出さない
ここまで解説したように水素は燃焼時にCO2を排出しないクリーンなエネルギーですが、水素の製造時にCO2を排出させないことも大切です。このため、再生可能エネルギーを利用したグリーン水素の製造方法に注目が集まっています。
特に、太陽光発電の余剰電力を利用して水を電気分解して水素を製造し、必要な時に使用するために蓄えておくことなどが検討されています。将来的にはグリーン水素の製造量の増加に伴い、CO2排出量が減少していくと期待されています。
参照:環境「 国内外の動向_脱炭素化にむけた水素サプライチェーン・プラットフォーム」
エネルギー自給率向上が期待できる
水素は水を電気分解して作ることが出来ます。日本には水は豊富にありますので、電気さえあれば水素を作り出すことが可能です。しかし、水素を作る際にCO2を排出してはいけません。そのため、再生可能エネルギーを使用して発電された電気で水素を作ることが望ましいです。
日本では固定価格買取制度(FIT)もあり、太陽光パネルの普及が進みました。その結果、日本の電源に占める太陽光発電の割合が高くなっています。太陽光発電は日本国内で行えるため、この割合の増加は日本のエネルギー自給率が向上していることを示しています。
この太陽光を使用して水素を製造しエネルギーとして使用することでエネルギー自給率も向上します。
参照:資源エネルギー庁「 令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023) HTML版 」
水素エネルギーのデメリット
水素エネルギーの活用は途上段階にありますが、普及の壁となっているデメリットが存在します。
【デメリット】
- 従来エネルギーよりコストが割高
- 開発に時間と技術を要する
水素エネルギーは生成や運搬にかかるコストが従来のエネルギーより割高です。水素エネルギーのコスト削減には3つの条件が必要です。
【水素エネルギーのコスト削減に必要な条件】
- 水素生成における安価な原料の使用
- 水素の大量製造や大量輸送を可能にするサプライチェーンの構築
- 燃料電池自動車(FCV)、発電、産業利用などによる大量な水素の利用
1と2に関してはオーストラリアの褐炭やブルネイの未利用ガスなど安価な海外の資源によって水素を製造し、日本に輸送する国際水素サプライチェーンの開発が進められています。この水素はブルー水素に分類されますが、グリーン水素の供給量が少ないために当面はブルー水素が活用されます。
3は現在FCV用の水素ステーションの設置が全国的に展開されていると共に、鉄鋼業など化石燃料の使用でCO2を大量に排出する産業ではCO2を排出しない水素への置き換えが進んでいます。
「水素基本戦略」では水素エネルギーのコストを従来のエネルギーと同程度にすることが目標として掲げられており、今後ますます研究が進む分野となります。
水素社会に向けた日本の取り組み
水素社会に向け、日本ではさまざまな取り組みが行われています。水素エネルギーは開発段階ですが、運輸、産業、発電などの分野で将来的な活用が期待されています。
水素社会に向けて日本でも様々な取り組みが行われており、様々な産業分野において水素の利用が進んでいます。水素を効率よく利用するための技術開発も積極的に行われており、運輸、産業、発電などの分野で将来的な活用が期待されています。
【水素を利用するための技術例】
分野 | 用途例 |
モビリティ分野 | FCV、小型電車、水素貯蔵システム |
海運分野 | ゼロエミッション船、高効率水素液化機 |
産業分野 | 熱利用、水素発電など |
モビリティ分野では、燃料電池や水素貯蔵システムの開発が期待されています。燃料電池システムを活用した自動車はFCVともいわれ、運輸時のCO2排出量を削減できます。そのため2021年6月改定のグリーン成長戦略では「2035年までに乗用車新車販売における電動車100%の実現」が目標とされています。
また、海運分野ではゼロエミッション船の研究がされています。ゼロエミッション船とは運航時に温室効果ガスを排出しない船舶のことで、重油や液化天然ガス(LNG)に代わる燃料として水素を活用し、脱炭素を実現しながら輸送コストを低減できる運搬船として実用化が期待されています。
産業分野ではこれまで化石燃料を使用して得られていた高温を水素で代替するための技術が開発されています。他にもエネファームなどで水素を使った発電も行われています。
いずれも2020年1月に策定した革新的環境イノベーション戦略に基づき、2050年までの革新的技術確立に向けて進行しています。
まとめ
水素は利用時にCO2を排出しない次世代のエネルギー源として、脱炭素への活用が期待されています。水素はさまざまな資源から生成でき、自動車のエンジンや家庭用の発電などの分野で実用化が進められています。
水素は利用時にCO2を排出しないため、環境負担を低減できるエネルギー源ですが、他にも「貯蔵して災害時に活用できる」など複数のメリットがあります。
なお、水素エネルギーの活用は途上段階にあり、普及の壁となっている要因として「従来エネルギーより割高」「開発に時間と技術を要する」といったデメリットも存在します。現在、水素製造技術の開発は進められており、国家戦略として水素のコストを従来エネルギーと同程度にすることが目標として掲げられているため、研究開発が進むと考えられており、脱炭素の取り組みで活用される未来も遠くないでしょう。
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