業界事例

時計 2024/2/15 アップデート 2024/2/27

「中小企業と脱炭素」-三和興産が取り組んできたScope3につながるエコシステムへの道

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

はじめに

1996年に愛知県一宮市で創業し、路面舗装等に用いるアスファルト合材の製造・販売を主業とする三和興産。父が興した会社に2005年に入社し、2019年より取締役社長を務める田中一秀氏は、環境省の事業などを活用して、脱炭素の可視化や情報公開、リサイクル製品や技術の開発などに取り組まれてきました。その背景や、大企業ほどリソースが潤沢ではない中小企業において取り組みを可能にした工夫などについて、田中社長にお話を伺いました。

従業員40名未満の地方企業ながら、環境意識が高い理由

―御社が脱炭素に取り組まれた背景は何だったのでしょうか。

当社の事業の根幹が「リサイクル」にあるため、循環型社会に貢献することで他社と差別化を図ってきました。主業であるアスファルト合材の製造・販売事業では、アスファルト舗装を材料製造から施工、リサイクルまでワンストップでサービス提供するようになりました。また、家屋の解体工事で発生する産廃木材を回収して、燃料チップにリサイクルする事業も行っています。

とはいえ、創業当初に行っていた環境への配慮というのは、あくまでビジネスを遂行するために必要なものでした。たとえば、リサイクル施設では「場所を選ぶ」「行政による許認可」「近隣住民の理解」の3つが重要です。しかも創業当時の周辺は田園でしたが、開発が進み住宅地となったため、工場からの騒音、振動、排水を改善しています。

―田中社長は二代目でいらっしゃいますが、ご自身の代で特に脱炭素に取り組まれたのでしょうか。

事業を継続し、お客様に喜ばれることを考えていったら、結果的に脱炭素に取り組んでいました。アスファルト関連の新技術の開発やCO2排出量削減の取り組み、バイオマス燃料の製造などを行ってきています。そうして、創業以来の「地域の建設会社」から、新しい価値を創造する企業へと変わってこられたと思います。

また、中小企業だからこそ、トップの決断で脱炭素のための施策を推進できた面もあります。そのモチベーションは「コスト削減になること」であって、従業員にもそのための施策なのだといって進めています。


※イメージ写真

「知る」「測る」「減らす」で実現、Scope1への取り組み

―自社内ではどのような取り組みをされてきましたか。

社内ですぐできることは、2010年代から行っていました。工場の外灯のLED化や、重機・建機のハイブリッド化などですね。

CO2排出量削減は製造原価の削減に直結し、その分粗利に反映できますので、ぜひ行いたかったため、2019年度・2020年度に環境省の事業に参加して、自社事業におけるCO2排出量の可視化と中長期での削減目標計画の策定に取り組みました(2019年度「中小企業向けSBT・再エネ100%目標設定支援事業」、2020年度「中小企業の中長期の削減目標に向けた取組可能な対策行動の可視化モデル事業」)。ここで取り組んだ内容は、後に環境省の「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック~これから脱炭素化へ取り組む事業者の皆様へ~」で「知る」「測る」「減らす」の3ステップで取り組み方法を解説する事例の1つとして取り上げられました。

画像出典:環境省「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック

>三和興産の詳しい事例は環境省「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入 事例集」p.30に掲載

―具体的に行った「知る」「測る」「減らす」の取り組み内容を教えてください。

まず、「知る」ステップとして2019年度事業で、CO2排出量削減の目標として野心的ですが、2025年までに2017年比30%削減とするSBT水準での目標を設定しました。当社ではCO2排出量の9割が自社のもの(Scope1)であり、中でもアスファルト合材製造過程に加熱用として使用しているA重油の燃料転換が鍵になります。

社内ではプロジェクト体制ではなく、40名弱の従業員全員で取り組みました。日常業務と並行して行うため、時間はかかりましたが、一丸となって取り組めたと思います。専門家による社内勉強会を行い、あるべき姿に向けてアドバイスをもらった上で、「測る」ステップとして、モーターなど設備の消費電力について協力会社に確認し、CO2排出量を従業員が算出。

「減らす」ステップでは、長期的なエネルギー転換方針としてA重油の都市ガスやLPGガスへの転換の検討を行い、短中期的な省エネ対策としてA重油バーナーの空気比適正化および排風機へのインバータ導入や保温用ヒーターの通電停止などを検討。これらの対策でSBT目標の達成可能性は見えましたが、さらに確実にするため、小売電気事業者による再エネ電気の調達も検討しました。そして、これらの検討内容を取りまとめて、2025年までの具体的な削減計画に落とし込み、キャッシュフローへの影響も分析しました。設備投資額は大きいですが、そもそも設備というのは定期的に見直しを図るものなので、脱炭素対策としてそれが多少前倒しされるとして、抵抗感はありません。

―御社は非常に意識が高く、2022年9月には中小企業にはめずらしく、SBT認証も取得されていますね。

それは、この環境省事業の際に設定したCO2排出量削減目標数値がそのまま活用できたからです。もっとも、認証の取得には費用がかかりますし、取得した以上は達成責任が発生しますので悩みましたが、せっかく自分たちが努力したことなので、世間に向けて明言化すべきと考え、取得に踏み切りました。

2025年度までにCO2排出量を30%削減」をビジョンで明言

―2020年には「SANWA VISION 2030」を策定されていますが、どのような内容ですか。

改めて会社としての取り組みを明確にするべく、環境省の事業を受けビジョンを策定しました。「自然との調和で世の中にない価値を創る(リサイクル技術で廃材に新たな命をつくる)」として、2025年度までにCO2排出量を30%削減の目標設定を明言したものです。

方針として「持続可能な自然環境のために環境負荷を低減する」ことを掲げ、そのためのアクションを3つ決めました。「再生資源の利用により低炭素社会に貢献」「リサイクル製品、技術の開発」「CO2の発生低減、再生可能エネルギーの利用・研究・開発」です。

SANWA VISION 2030ロゴ(https://www.sanwakousan.co.jp/sdgs/

脱炭素への本質的な対策として取り組む、バイオマス燃料の研究開発

―「SANWA VISION 2030」で2025年度までにCO2排出量30%削減を目指されていますが、そのために行っていることを教えてください。

アクションとして「再生資源の利用により低炭素社会に貢献」「リサイクル製品、技術の開発」「CO2の発生低減、再生可能エネルギーの利用・研究・開発」を行うと決めています。その一例が、バイオマス燃料の研究開発で、化石燃料を使わない事業展開を目指し、他社や海外へのモデル販売も見据えています。

具体的には、家屋の解体工事などで出た廃材を木質チップにして、バイオマス燃料として使用するという試みです。ですが、既存の事業を行いながら研究開発を進めるのは中小企業には難しいので、資金やリソース不足を補うため、行政の各種補助金や事業への採択を活用しています。

※イメージ写真

―各種補助金や事業への採択とは、どのようなものですか。

2021年度にはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究開発事業に採択されて助成金を得て、2022年度には愛知県の「新あいち創造研究開発補助金」のほか、岐阜県の産学官共同研究助成事業にも採択されています。後者は、長年共同研究を行っている岐阜大学工学部とのもので、同学とは年1~2のテーマで共同研究を積み重ねています。

こうした関係ができたのは、当社の事業内容と重なるような研究を行われていると思い、私のほうから何か一緒にできないかと問い合わせたのがきっかけです。そんな風に、いろいろな大学や企業にすぐアポイントを取るので、共同研究の輪を広げることができました

―そうした研究開発が実った成果はありますか。

アスファルト舗装の簡易補修延命工法(ピタホール工法)を独自で開発し、補修テープ「ピタクラック」で特許も取得しています。これは、アスファルトの絆創膏のように、路上の小さな破砕をその場で簡易に補修できるもの。放置していると破砕が広がり、道路の維持メンテナンスのために広範囲の工事を要しますが、直ちに補修できれば道路の寿命が延び、新たなアスファルト材料を使わずに済む点で、脱炭素にも貢献します。

2022年5月にはこの工法で、国土強靭化に貢献する団体として「第8回ジャパン・レジリエンス・アワード 優秀賞」を授与されました。

―特許を取得されているとのことですが、御社は知財戦略にも注力されているのですか。

これも中小企業には難しいことなので、行政の支援を活用しています。2021年度に経済産業省中部経済産業局の知的財産経営ハンズオン支援事業に採択いただき、大学や企業との共同研究契約における知財リスク対策や特許戦略について助言を得ました。それをもとに、特許取得の手続きも社内で全て行いました。

環境意識が高い同士のネットワークがScope3につながる

―脱炭素にいろいろと取り組まれていますが、Scope3に関してはどうお考えですか。

舗装工事会社などはグループ会社なので、方針を共有しています。しかし、それ以外の既存の協力会社に環境配慮に関して協力を仰ぐのは、正直難しいと思っています。それよりは、当社の方針に賛同が得られればパートナーとして一緒にやっていきましょう、というスタンスでいます。その結果、環境意識の高い会社同士の座組みへと徐々に移行して、現在に至っています。

脱炭素の可視化、情報公開による周りの評価とは

―全体的な取り組みから、どのような成果が得られていますか。

社内では、中小企業でも特許商品を作れ、展示会に出展して注目をいただけたことから、さらに環境への意識が向上していると感じます。また、当社はもともと従業員30~40名ほどの企業ですが、脱炭素の可視化取り組みを進める中で、新しいメンバーも増え、1~2名ですが研究開発職も加わっています。さらに、事業変革を進め、発信することで若手人材にも興味をもたれやすくなり、新卒の採用にも繋がっています。

―社外からの評価はいかがでしょうか。

SBT認証を取得したり、レジリエンス・アワードを受賞したことで、行政や他企業と脱炭素に関わるコミュニケーションが増え、各種取材やイベント登壇など、会社の露出は増しています。2022年7月に出版された『武器としてのカーボンニュートラル経営~中堅・中小企業のサバイバル戦略』(ビジネス社刊)では、コストとCO2排出量を同時に削減した先駆的な経営者8人の1人として紹介もされました。

また、ビジネス面でも、高速道路や中部国際空港セントレアで当社開発製品の採用に向けて実証実験していただいています。さらに自動車や流通などの他業界からも関心を持っていただいており、そちらとも実証実験を共同で行なっています。

環境とビジネスの両立が、中小企業が脱炭素に取り組める鍵に

―中小企業が脱炭素に取り組む意義について、どのようにお考えですか。

10年前に企業が環境に取り組む理由は、CSR(企業の社会的責任)の観点からでした。それが昨今では、環境とビジネスを両立できる技術が出てきています。ですから、中小企業でもビジネスと両立させながら環境に取り組める時代だといえるでしょう。

当社は、10年後も新卒に選ばれる会社でありたい」と考えています。Z世代などの若い世代ほど、環境問題を自分ごととして捉えており、会社選びの大きな軸となっています。中小企業の経営者も、そうしたモチベーションで環境や脱炭素を考えられればよいのではないでしょうか。

三和興産株式会社
代表取締役
田中一秀(たなか かずひで)氏

  • 愛知県一宮市出身。建設会社で現場監督業務に従事した後、2005年に、父が興した三和興産株式会社に入社。
  • 祖業のアスファルト合材の製造・販売から、前職の経験を活かして舗装工事にも事業を拡大。さらに建物解体工事と廃材処理を請け負う中で、木材チップ製造にも進出。
  • 2019年11月、代表取締役社長に就任。
  • 官公庁・地方自治体の事業や、大学等との共同研究を通して、アスファルト関連の新技術の開発やCO2排出量削減の取り組み、バイオマス燃料の製造などを意欲的に行っている。

終わりに

中小企業が脱炭素に取り組むといっても、どこから始めればよいのかと思われるかもしれません。田中社長の考えの原点は、「会社を存続させるために、どのような価値を生み出していくか」にあったように思われます。そうして取り組んだことの1つ1つが、環境や脱炭素というキーワードで束ねられ、結果的に先駆的な中小企業として名前が挙がるまでになりました。ですが、田中社長がまず行ったのは、大学や他の企業にどんどんアプローチしてみることだったといいます。それにより、脱炭素に取り組むエコシステムが形成できてきたようです。今後もどのように、環境とビジネスを両立して成果を出していかれるか、興味は尽きません。

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