業界事例

時計 2024/5/10 アップデート 2024/5/10

「新規事業創出」と「海外展開」という視点で見る 三井住友建設の脱炭素化実現に向けた取り組み(後編)

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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前編では、「2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップ」、環境方針「Green Challenge 2030」策定の背景、オフサイトコーポレートPPAへの取り組みなどについてお話しいただきました。後編では、事業開発本部の立ち上げと取り組み、創エネ事業の展開について事業創生本部副本部長兼再生可能エネルギー推進部長の武冨幸郎氏にお話を伺いました。さらに、海外事業におけるCO2排出量削減への取り組みと課題、今後の展望などについて国際支店次長の中島正博氏にもお話をお伺いしています。

持続可能な社会実現に向け事業創生本部を創設

―事業創生本部立ち上げの背景と、脱炭素に向けてどのような取り組みを展開しているかを教えてください。

武冨氏:「中期経営計画2022-2024」で、サステナブルな社会の実現に寄与する事業の創出・推進体制を強化するという方針を示し、その実現に向けて事業創生本部を新設しました。

事業創生本部の前身として事業開発推進本部があり、その中にあるCSV(Creating Shared Value)推進部では、従来から社会課題の解決を新規事業につなげるという試みを進めていました。新規事業の中には、再生可能エネルギー関連の事業もあったのですが、事業創生本部の創設を機に、再生可能エネルギー事業を進める「再生可能エネルギー推進部」、脱炭素に取り組む「カーボンニュートラル推進部」、そして「新規事業企画部」を立ち上げました。脱炭素への取り組みを進めつつ、請負以外の分野での新規事業を開発していこうという方針です。

事業創生本部の立ち上げに当たっては、6割くらいがキャリア採用組です。当社ではそれまで発電事業も新規事業も手がけたことがありませんでしたから、スピードアップのためにも、当然キャリアを持っている方を採用して一緒に進めていこうという流れになったわけです。

当社の2020年のCO2排出量は、Scope1で約5万4,000トン、Scope2で約1万5,000トンですが、「2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップ」では、2030年までにこれを半分にするという目標を示しています。さらに、2030年までに実質カーボンニュートラルを目指すという目標も掲げており、「実質」とついているのは、再生可能エネルギー事業を通じて削減貢献をしましょうという意味です。自社のCO2排出量と同等量くらいの再生可能エネルギーによる発電を目指すという点が、当社の取り組みの中でもユニークな部分だと思います。

もう一つは、インターナルカーボンプライシングという制度の導入です。自社内で独自に、CO2排出量に対して価格を設定し、脱炭素に関連する投資を進めやすくするための環境づくりをしていこうという取り組みです。

事業創生本部 副本部長 再生可能エネルギー推進部長
武冨 幸郎 氏

 

創エネへの取り組み

―再生可能エネルギー事業ではどのような取り組みを進めていますか。

武冨氏:今、当社が取り組んでいる再生可能エネルギーの一つとして、水上太陽光発電があります。水上太陽光発電の特長は、陸上と比べて比較的環境破壊が小さいという点です。今ある水面をそのまま活用できるので、陸上の場合に行う切土や盛り土といわれる造成工事や森林伐採が不要です。加えて、地方の自治体が所有している未活用地や農業用のため池などを使って発電するので、発生した賃料や利用料が地元の新たな収入源になるというメリットもあります。発電だけでなく、地域貢献も必ずセットで進めるという点を目標にしています。

もう一つ力を入れているのが、小水力発電です。国の基準で言うと、大体200〜1,000kW未満を小水力と言います。我々が取り組んでいるのは、河川にある砂防ダムから取った水を1〜2キロ下流に向かって埋めた配管を通して流し、また戻すという方式です。水力は水さえあれば24時間365日運転ができますので、非常に安定した電源になります。

ダムを作って配管を埋めて放水路や建物を作るというのは、我々ゼネコンの領域と親和性が高いので、本業とのシナジーもあると思います。2019年から本格的に取り組み始めたのですが、実際の発電にこぎつけるのには6〜7年かかるので、2030年に向けて増やしていきたいと考えています。

水上太陽光発電にしても小水力発電にしても、大規模な開発が不要な点、無限にある太陽光や水力をうまく使うことで費用が抑えられる点、さらに地域貢献ができる点に大きなメリットがあります。

自社開発の水上太陽光発電用フロートシステム「PuKaTTo(プカット)」

出典:三井住友建設Webサイト

海外事業における脱炭素への挑戦

―御社では、海外工事が全体の15〜20%を占めており、他のゼネコンと比べても高い比率です。カーボンニュートラルの実現に向けて、海外事業における取り組みはどのように進めているのでしょうか。

中島氏:当社では、CO2排出量で見ると、全体の3分の1程度を海外事業が占めています。海外の⼟⽊事業は、⽇本政府によるODA事業が中心となりますが、まず重機に使う燃料の問題があります。例えば日本では、水素を燃料とした重機などの開発も進んできていますが、そういった技術は特に東南アジアなどにはなかなか入ってこないのが現状です。電力の自由化もなかなか進んでいません。

 

国際支店 次長
中島 正博 氏

 

Scope1、2だけでなく、Scope3まで広げて全体のCO2排出量を把握する取り組みをまずは進めていますが、削減をどうするかが非常に大きな問題になっています。

建築に関していうと、当社はカテゴリ11算定で建物の使用期間を60年としており、ここでは完成した建物が向こう60年に排出するCO2量が問題になります。我々が海外で作った建物が排出するCO2を減らすことができるかというと、例えば省エネ型の建物を積極的に供給して減らそうとしても、お客様のなかにそうした取り組みをしなくては、という空気はまだできていないと思います。特に我々が手がける建築はメーカーの工場が多いので、CO2排出量を削減するという状況を作りにくい現状があります。

そういった中でも、CO2排出量を定量的に把握する取り組みを進めているのですが、現地スタッフとの言語の壁やリテラシーの違いなど課題は多いです。今は各拠点プロジェクトの責任者クラスのローカルスタッフを対象に、CO2排出量削減という切り口で、リテラシーの醸成や意識改革を少しずつ進めています。

2050年に向けて、CO2排出量の削減は海外事業を展開するメーカーや企業にとっても取り組まざるを得ない課題にいずれなってくると思いますので、そうなったときに先頭集団に入れるよう準備を進めていきたいと考えています。

三井住友建設が手がけたカンボジア ネアックルン橋(正式名称:Spien TUBASA橋)

カンボジアの紙幣にも描かれた国家的なプロジェクト

出典:三井住友建設Webサイト

三井住友建設の海外展開

出典:三井住友建設採用Webサイト

 

三井住友建設株式会社
国際支店 次長
中島 正博(なかじま・まさひろ)氏(写真左)

経営企画本部 サステナビリティ推進部 課長
原 登紀子(はら・ときこ)氏(写真中央)

事業創生本部 副本部長 再生可能エネルギー推進部長
武冨 幸郎(たけとみ・ゆきお)氏(写真右)

※原氏のインタビューは前編にて紹介しています

終わりに

三井住友建設は、2030年までに実質カーボンニュートラルを目指すという目標を掲げ、その実現に向け、水上太陽光発電や小水力発電などの新たな創エネ事業に取り組んでいます。その背景には、自社のCO2排出量を的確に把握し、省エネと創エネの両輪を回すことで、CO2排出量削減に取り組むという戦略があります。新たに事業開発本部を立ち上げ、新規事業創出とカーボンニュートラルの取り組みを並行して進めるという点もユニークな試みです。

海外事業によるCO2排出量が、グループ全体の3分の1を占めるという課題に対しては、排出量を定量的に把握するという取り組みから始めています。突破口を見つけるのがなかなか難しい課題ですが、まずは排出量を目に見える形にして、意識改革や今後の施策に活かすという取り組みは、海外に限らず、カーボンニュートラルを推進していく上で、欠かせない視点ではないでしょうか。

※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年2月)のものです。

前編はこちら:
「新規事業創出」と「海外展開」という視点で見る
三井住友建設の脱炭素化実現に向けた取り組み(前編)

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