業界事例

時計 2023/11/28 アップデート 2023/11/28

「木造建築と脱炭素」―グループシナジーを活かしながら、三井ホームが取り組むCO2排出量削減策と、サーキュラーエコノミーへの目線(後編)

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

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前編では、三井ホームが木造SDGs戦略として開始した「MOCX GREEN PROJECT(モクス・グリーン・プロジェクト)」の取り組みのうち、中大規模建築物の木造化について伺いました。

後編では、木造による脱炭素の可視化と、使用木材の国産化から見えた、サプライチェーン全体への取り組みについて伺います。 

前編はこちら:「木造建築と脱炭素」―グループシナジーを活かしながら、三井ホームが取り組むCO2排出量削減策と、サーキュラーエコノミーへの目線(前編)

木造建築の炭素固定量を見える化して、リアルな現状を把握

―では次に、「MOCX GREEN PROJECT」で取り組む、木造建築による脱炭素の可視化について教えてください。

三井ホームはこれまで25万棟以上の木造建築をつくり、累計炭素固定量は約383万トンにもなり、これはスギの木換算で750万本以上に相当すると考えられます。

この木造建築による炭素固定量は、林野庁の「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」に基づき、「建築物に利用した木材量」×「木材の密度」×「木材の炭素含有率」×「化学式量からの換算係数」という計算式で算出しています。

本プロジェクトでは、これまでの実績を広報するとともに、2023年度以降も出荷ベースでより正確な炭素固定量を算出、発信していきます。ちなみに、2023年4~9月で炭素貯蔵量は2万7000トン以上となっています。

 

―そのように厳密に算出することの難しさと、御社でそれが可能な理由を教えてください。

建築物に使われる木材には製材や集成材、合板など、さまざまな規格と樹種があり、それにより炭素固定量が異なるので、正確に計算するのはたいへん難易度の高いことです。

三井ホームでは直工場および協力会社と連携して、工場からのデータを当社システム部門が自動計算することで、算出を可能にしています。

国産木材利用を、ほぼゼロから約2割に拡大

―「MOCX GREEN PROJECT」の3つ目の柱である、使用木材の国産化には、どのように取り組まれていますか。

国産木材の利用推進により、サプライチェーン全体で社会貢献を目指しています。当社ではもともと国産木材はパレットなどの梱包資材に使う程度で、ほとんどを輸入木材に頼っていました。

ですが、コロナ禍の影響で木材価格が高騰したウッドショックを受けて国産木材の利用が進み、現在は約2割が国産木材となっています。間伐材までフル活用したことや、ツーバイフォー工法の構造材を製材するJAS認証工場が近年増加したことも背中を押しました。

 

―脱炭素の観点で、国産木材を使うメリットは何でしょうか。

森林から伐採され搬出された木材による伐採木材製品(HWP:Harvested Wood Products)は、その炭素固定量で排出量を相殺できます

ですから日本という単位で考えれば、国産木材の積極活用は脱炭素に意義があるのです。

地域から出る木材の効率的活用で、循環型経済を促進

―三井ホームでは北海道で、木材利用に関する協定を結ばれたそうですが、どういった内容ですか。

三井不動産グループでは北海道に約5,000ヘクタールの森林を保有し、毎年約1万7000トンのCO2を吸収して脱炭素に貢献しています。

今回は三井不動産とともに、2022年10月に北海道、北海道森林組合連合会、北海道木材産業協同組合連合会との間で、建築物木材利用促進協定を締結しました。

本協定の内容としては、北海道が北海道産木材の利用促進について技術的助言や補助事業等の情報提供、本協定に基づく取り組みの工法を行うこと、北海道森林組合連合会があらかじめ建築材の供給体制を整え、合法伐採木材の供給を適時に行うこと、北海道木材産業協同組合連合会が地域材の利用促進および施設整備への財政的支援の要請に取り組むこと、そして当社グループが今後建設予定の建築物において北海道産木材の利用に努めることなどとなっています。

 

―本協定で目指すものを教えてください。

いわゆるサプライチェーン全体、川上・川中・川下の一体感を醸成することです。

三井ホームは、2022年11月に発足人の一員となって「ツーバイフォー建築における国産木材活用協議会」を立ち上げましたが、これも川上にあたる地元森林組合などの森林所有者、川中にあたる製材事業者、川下にあたる当社を含む建築事業者が連携して、国産木材の持続可能な供給網を地域ごとに構築し、林業の成長産業化を図りながら地域創生にも貢献していくことを目的としています。

本協定も同様に、地域において木材需給の安定化につながることとなります。森林管理は50年100年というロングスパンで行われるものであり、このような仕組み化が必要だと意見が一致して、締結に至りました。地域から出る木材を効率的に活用していくことで、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の促進につなげたいですね。

Scope3やその手前の原材料調達元への取り組みにも意欲

―「MOCX GREEN PROJECT」の成果や今後については、どのようにお考えですか。

本プロジェクトでは今後も、「木造による脱炭素の可視化」「使用木材の国産化」「中大規模建築物の木造化」に次ぐ第4、第5の柱を掲げて、取り組みを推進していきます。そのためにもまず、木造化による効果を数値化してエビデンスを固め、普及を推進していきたいですね。

本プロジェクトで脱炭素という目的とそこへの道筋を明確化することで、Scope3のサプライチェーン排出量削減につながる手応えを感じています。さらにその手前の、原材料調達元にも踏み込みたいという考えも出てきました。

三井不動産グループでは、環境中期計画「脱炭素アクションプラン2025」において、CO2排出量を2030年度までに40%削減、2050年度までにネットゼロにするという目標を掲げていますが、本プロジェクトはそこにも大いに貢献しています。

(画像出典:三井ホーム「MOCX GREEN PROJECT」)

グループ全体で、LCA評価の算定方法を見直し

―そのほかに、プロジェクトを推進するなかで発見はありましたか。

三井不動産グループとして、LCA評価の算定方法を金額ベースから物量ベースへと変えることを検討しています。ツーバイフォー製品は性能がよいので、やはり高価になります。

ですから今の金額ベースだと、脱炭素に貢献している建築物なのにCO2を排出しているような計算になってしまう。そうではなく、企業努力が正当に反映できるような算定方法に切り替える準備を現在進めています。

このような判断ができたのも、プロジェクトを立ち上げて、従来から行ってきた取り組みも脱炭素の文脈で改めて見つめなおすことができ、社内でも意識が高められた結果だと考えています。

終わりに

この取材中、「MOCX GREEN PROJECT」のプロジェクトリーダーである上野公康氏からも、「本プロジェクトは、『三井ホームの木造建築』の取り組みや環境貢献度を、どのように世の中に興味を持ってもらえるようにできるか、また広めていけるか、そして当社の取り組みとしてさらなるドライブをかけていけるか、を考えて立ち上げたプロジェクトです。

当社も本気で取り組みながら、サーキュラーエコノミーの構築に貢献していきたいですという、熱のこもった発言がありました。

いち企業がCO2排出量削減をどう考えるべきか、サプライチェーンへの影響をふまえながらやるべきことに期待が持てます。

三井ホーム株式会社

執行役員 サステナビリティ推進室長

太田啓明(おおた ひろあき)氏

  • 1990年4月 三井ホーム入社
  • 2016年4月 技術研究所 技術開発グループ長
  • 2019年4月 生産工事部 生産技術改善グループ長
  • 2020年7月 技術研究所長
  • 2023年4月 サステナビリティ推進室長 兼 技術研究所長

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