業界事例

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安藤ハザマの「次世代エネルギープロジェクト」 次世代エネルギーを見据えた自社電力広域融通への挑戦(後編)

この記事の監修

リバスタ編集部

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

「つくる」の現場から未来を創造する、をコンセプトに、
建設業界に関わる皆さまの役に立つ、脱炭素情報や現場で起こるCO2対策の情報、業界の取り組み事例など、様々なテーマを発信します。

前編では、SBTi認定、RE100加盟など企業としての脱炭素経営の取り組み、「次世代エネルギープロジェクト」の概要、同プロジェクトを推進する背景や現場の思いなどについてお話しいただきました。

後編も前編同様に、安藤ハザマ技術研究所の谷口所長、次世代エネルギー戦略部の郡司部長、中里課長に、同プロジェクトの展望、CO2フリー水素の活用※1に向けた実証試験、技術研究所における脱炭素への技術開発、ゼネコンとして脱炭素に取り組む理由などについてお聞きしていきます。

※1:再生可能エネルギー(太陽光発電)により発電された電気を用いて水を分解して製造した水素のこと

CO2フリー水素の活用に向けた実証試験開始

―「次世代エネルギープロジェクト」は、23年10月からCO2フリー水素の活用に向けた第2フェーズに入りました。

谷口氏:第2フェーズとして、新たにCO2フリー水素製造・供給システムの構築に着手しました。第1フェーズで整備した水素利用可能な次世代型省CO2コージェネレーションプラントに、自ら製造した水素を供給し、さらなる省CO2化を目指します。

具体的には、既設の太陽光発電システムを電源として、水電解装置でCO2フリー水素の製造・供給を行い、既設の次世代型省CO2コージェネレーションプラントの燃料として使用します。プラントで発電された電力は、自己託送制度を活用することで複数の広域建物にも送電されます。

中里氏:水素製造装置は、特徴の異なるAEM型(海外製)とPEM型(日本製)の2種類を計画しております。これらの装置は2025年度4月から本格運用する予定です。これまで4年間、実証試験を続けてきましたが、明らかに「カーボンニュートラル」という言葉の普及とお客様のニーズの拡大を実感しています。お客様のニーズ拡大の背景には、燃料高騰という現状があり、水素の存在感が増している要因もあると思います。ただ、現状、水素もコストとしては高いので、CO2排出量削減とともに今後は経済性も含めたベストなソリューションを模索するという課題も含めて実証します。経済性と環境性の両立が、水素利用の実装につながると考えています。


安藤ハザマ技術研究所内の発電設備(茨城県つくば市)

営業本部 次世代エネルギー戦略部 課長
中里壮一 氏

郡司氏:プロジェクト始動段階から次世代への社会変革を念頭に「水素を活用したい」という思いでやってきましたが、現時点でもいわゆるCO2フリー水素のサプライチェーンはありません。そのような状況下で「本当に水素なんか使えるの?」というご意見が我々にとって一番の課題になっています。一方で、政府を含め日本社会は「水素に転換しなければならない」という考えが非常に重要であると感じているので、当社としても来たる水素社会に対して、いつでも対応できるように準備しておかなければいけないという考えを持っています。お客様はじめ多くの方々に、その姿勢に対して共感いただき、当社の環境やエネルギーに対する考え方を受け入れていただいたり、応援していただいたりしているのだと思います。


出典:安藤ハザマWebサイト

 


出典:安藤ハザマWebサイト

 

営業本部 次世代エネルギー戦略部長
郡司清 氏

技術研究所が取り組む脱炭素技術

―安藤ハザマ技術研究所では、「次世代エネルギープロジェクト」の他に、脱炭素に向けてどのような取り組みを進めていますか。

谷口氏:当社では省エネと創エネだけでなく、室内環境のWell-beingも追求したZEB※2関連技術の開発も行っています。研究所の一般執務、管理業務の拠点である本館棟3階約400平方メートルをNearly ZEB化※3の実証エリアとして改修し、2020年7月から運用を開始しています。「次世代エネルギープロジェクト」で研究所内に設置した、次世代型省CO2コージェネレーションプラントで発生する温排熱は、冬季の暖房、夏季の冷房熱源として利用できるようにすることで、空調用一次エネルギーの消費を大幅に削減しています。

また、建設業の主要資材であるコンクリートにCO2を固定し、カーボンネガティブ※4を目標としたCARBON POOLコンクリートの開発や、近年、注目を集める自然資本・生物多様性に関連した、現場や設計での課題解決ツールとして、生物多様性データベース「いきものインフォ」 の開発・運用も進めています。

※2:Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、「ゼブ」と呼ぶ。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと

※3:ZEBの実現普及に向けて、4段階のカテゴリーが定義されている。Nearly ZEBはそのうちの上位2番目のカテゴリーを表す。具体的には、建物のエネルギー消費量を省エネ基準から50%以上削減し、かつ再生可能エネルギーを加えて全体で75%以上の削減を達成している建物(100%以上は『ZEB』)

※4:経済活動によって排出されるCO2などの温室効果ガスの量が、森林などに吸収される量よりも少ない状態のこと

次世代型省CO2コージェネレーションプラントによる発電、温排熱を実証エリアの冷暖房に利用

出典:安藤ハザマWebサイト

執行役員 技術研究所長
谷口裕史 氏

社会インフラを支える伴走者として

―建設会社として、CO2排出量削減をはじめとした「環境価値の創造」に対し、今後どのように取り組んでいきますか?

中里氏:お客様の事業に寄り添い、お客様が実現したい目標に向かって伴走していくのが、ゼネコンの立場だと思います。お客様と共に、社会の中でサステナブルな事業を継続していくことがゼネコンの役割であり、当社が目指すべき姿もそこにあると考えます。

伴走の対象は、お客様に限らず、同じ建設業に携わる他の企業も同様です。建設会社としてサステナブルな社会の実現に共感いただけるのであれば、当社の技術を幅広く活用いただいて、共に進んでいきたいと思います。

郡司氏:土木、建築に携わる者が何のために仕事をしているかというと、道路やトンネル、港湾、ビルといった社会インフラの整備に携わることで、一種の社会資産の形成に貢献したいという思いがあるのではないでしょうか。その思いは、矜持であるともいえます。エネルギーも社会インフラの一つですし、日本にとって、また国際社会の中で環境エネルギー問題が持つ意味は大変重たいものです。その意味でも、当社が過去の社会インフラ構築で培ってきた技術や経験、知見を環境エネルギーに関する課題の解決にも活かしていければと思います。

谷口氏:生活基盤となるインフラを提供する建設業は、自社の事業活動の脱炭素化はもちろんですが、建設するインフラの脱炭素化への貢献が求められます。特に当社が建設するインフラは、長期間にわたり使用するため、お客様や関係者様と協働して脱炭素インフラの創造に貢献していきたいと考えています。

また当社は、新築物件を建設するだけでなく維持管理、リニューアルまで、長期にわたりトータルでサポートし、お客様の多様なご要望にワンストップで対応するライフサイクルサポート(LCS)も展開しています。その一つの提案として、「次世代エネルギープロジェクト」で培った、エネルギーマネジメント技術を展開できると考えています。

株式会社安藤・間
執行役員 技術研究所長
谷口裕史(たにぐち・ひろふみ)氏

 

株式会社安藤・間
次世代エネルギー戦略部長
郡司清(ぐんじ・きよし)氏【写真左】

次世代エネルギー戦略部 課長
中里壮一(なかざと・そういち)氏【写真右】

※組織名・役職などの情報は取材当時(2024年1月)のものです。

終わりに

建設会社がなぜ自社での発電・送電・融通システムの開発に挑戦するのか―。一見、建設とはかけ離れた取り組みに見えますが、挑戦の背景には、社会資産としてのインフラを提供する建設会社だからこそ、インフラ自体から排出されるCO2排出量削減への貢献が欠かせないという思いがありました。

脱炭素、サステナブルな社会への貢献という命題は、経済的コストという課題と切り離せない関係にあります。環境負荷を減らしつつ、いかに社会実装できる技術へと高めることができるか。現場での試行錯誤がうかがえるお話でした。

新たな技術開発を推進しつつ、企業として持続可能な取り組みへと進化させていくという安藤ハザマの挑戦は、多くの企業が脱炭素や環境負荷軽減に取り組む上で、参考になる好例ではないでしょうか。

 

前編はこちら:安藤ハザマの「次世代エネルギープロジェクト」自社発電・送電・融通システムへの挑戦(前編)

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